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社畜、アクロバティック転職_その4

「変なこと言うから、無駄にダンジョンエナジー減っちゃったでしょ。モンスター発生装置からうじゃうじゃ出てくる雑魚モンスターのソードマンなんて蘇生している余裕もないのにー。バカー」


 重い黒から覚醒した満博を待っていたのは、いきなりお説教。

 勘弁して欲しい。満博はまだ気だるく重い体以上に心が重くなる。

 いくら姫が可愛いとはいえ、幼女にマジ説教されると流石に凹んでしまうもの。

 そのせいで首が千切れても元に戻っている自分の奇想天外に、考えが回ってすらいない。

 いつのまにやら満博は自発的に正座をし、姫の説教を積極的に受ける。さぞかしその少し伏せられた目は反省し、打ち拉がれていることだろう。

 しかし満博、この時考えていたのは、腰に手を当て胸を張ってぷりぷりと怒っている姫だが胸よりぽっこりしたお腹の方が自己主張している姿がとても可愛らしい。

 頭に生えた漫画みたいなアホ毛は、ビンビンに天を指している。正に怒髪天なのだが、伸びたり縮んだりビヨンビヨンしているので締まりがない。

 空気を溜めてぷくぅと膨らました薄紅を差したような頬は、触ってくれと言っているんだよな。

 今更ツッコメないが、わらわという一人称が浮いていて違和感バリバリなのだが、可愛いからいいか。

 怒られているんだが、これはこれでなんか良いな。と、新しい扉をがっつり開いていたのだ。

 そんな満博を姫が覗き込む。


「ぜんぜん聞いてないー! もう! 次に変なこと言ったらドーンってするよ!」


 既に殺されましたが。満博はそんな言葉を飲み込む。ここで口答えなんてしたら、もう一度殺されるのは間違いない。

 それはそれとして、さきまで泣いていたのに顔を真っ赤にして怒っている忙しい姫を見て『元気になったようで良かった』と、満博は笑みを微かに浮かべる。


「何笑ってるの! わらわ怒ってるの!」


 だんだんと床を踏み鳴らす姫を見て、一層満博は破顔した。




「説明するからちゃんと聞いてね。ダンジョンエナジーを集めるのは簡単なの。ダンジョンに来た冒険者と戦うだけなの。ダメージを受けたり、魔法を使ったりすると増えるの。でも、一番増えるのは殺した時。だから、早く1階に行って冒険者を殺してきて。もう200年も冒険者が来てないからダンジョンエナジーが無くなりそうで、やばやばのやばだから」


 なんだかんだ言いながら説明する姫。だが、その内容は物騒だった。


「殺さなきゃダメ? 戦えばいい訳でしょ?」

「だめだめのだめだよ。そんなのだったら少なすぎてわらわもダンジョンも消えちゃうでしょ! 勿論、わらわのモンスターのあなたも消えちゃうよ」


 そこで満博はひっかかりを覚えた。姫が何を言いたいのか分からなかったが『消える』ということを忌避していることは伝わった。

 先ほど首が千切れて間違いなく1度死んだ満博は生き返っている。

 それだというのに念押しするということは、死よりも消える方が問題なんだと考えるのが自然。

 消えるとどうなるかなんて満博に見当などつくはずはないが、良い結果にはならないことは間違いないと思わせるには十分。

 こんな何処かも分からない場所で、よく分からない状態のまま消えるなんて考えたくない。


――それでも。


「やっぱり殺人は……なんと言いますか、ねぇ?」


 満博は言い淀む。

 それを聞いた姫は、ため息を吐く。


「もう、冒険者はダンジョンで死んでも墓石を教会に持って帰ったら生き返っちゃうの。だからいいの。あなたが戦える程度の雑魚雑魚冒険者だったら、殺さなきゃダンジョンエナジー足りないの。分かりる?」

「いえ、正直良く分かってはいないですけれど、冒険者を殺さなきゃいけないことはなんとなく分かりました。なので、とりあえず行ってきます」

「そうよ、分かってるじゃない」


 姫からの命令(・・)を受理した満博は自然と仕事口調となり、振り返って壁にぽっかりと空いていた黒い空間に向かう。そこには階段があり、満博は重い足取りで階段を上がっていく。

 殺すのは嫌だ。その思いが体を重く感じさせ、持ち上げる足を引っ張り、鈍くする。


「でもまあ、死んで生き返るなんてゲームみたいなものだろ」


 そう独り言ちて無理矢理自分を納得させ、一つ息を吐いてカンカンと兜の頬部分を叩く。

 勢い増して階段を上り切ろうと気合を入れ直した訳だったが、思った以上に段数が少なく、すぐに新たな部屋に到着してしまった。

 到着したそこは、先ほど姫と居た部屋と比べるととても小さな部屋。

 ほんのりと光る照明が壁の存在を示している。そこまでは完全な暗闇なため、正確な距離は掴みにくいが精々20m四方の部屋と言ったところだった。




「よっしゃ! かかってこい冒険者!」


 満博は中央辺りまで進むとやけくそに吠えた。その咆哮は一人しかいないこの部屋に虚しく反響する。落ち着いて見てみると、部屋の隅に上りの階段があった。

 なんとここは姫に言われた1階では無かったようで、まだ上があったらしい。

 一人赤面しながら階段を上ると一瞬で暗闇に包まれたが驚く間も無く、だだっ広い部屋に出ていた。

 呆気に取られそうになったが、考えてみれば階段は2つとも思った以上に段数が少なく、すぐに新たな部屋に到着してしまった。上ってきた階段の高さと部屋の高さは全く整合性がとれていなかったが、首が取れて死んだが満博が生き返っているのだ。ここは間違いなく不思議な世界。晩飯を食うときに垂れ流していた深夜アニメの主人公よろしくファンタジー世界に迷い込んだと思うしかない。と、満博はこの不可思議を呑み込むことにした。


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