対冒険者 その4
肩にナイフを受けたミッツはどうだったかというと、襲って来た痛みに耐えていた。
死ぬことに慣れたとはいえ、痛みが無いわけではない。
鎧が受けた衝撃も斬撃も、そのままの痛みでは無いだろうがしっかりと受ける。
受けたダメージ量によって痛みの度合いが変わるので、鎧の硬い部分に当たると随分と軽減される。
先ほどの投げナイフによる攻撃も、肩という強固な部分に弾かれたので、かなり軽減されていた。だが、そんなこと痛みを受ける本人にはあまり関係がない。
痛いものは痛いのだ。
いっそ、大声で叫んだら少しはましに感じるかもしれない。
だが、通常、ダンジョンのモンスターは言葉を発しない。
声を出せば、おかしいと思われる。
だから、ミッツとマリルはどれだけ痛くとも、歯を食いしばり耐えるしかない。
とはいえ、マリルはミッツと比べれば痛みには強い。
冒険者として戦って来た経験上、痛みで動きを鈍らせている場合ではなかったから、痛みを許容する度合いが大きいのだ。
決して、男と女の違いではない。
「(痛ぇ。マジで痛ぇ。マリルと戦った時も思ったけど、冒険者の攻撃は一般人とは別次元だな。武器の違いもあるんだろうが……)」
叫ぶ代わりに心の中で愚痴ることによって、ミッツはなんとか耐えきる。
「(それより……俺、やばいな。本気を出すと、パワーがありすぎて自分の身体なのに思い通りに動かせん)」
開戦直後の踏み込み。
剣を振りかぶろうと思った時には、冒険者に肉薄していた。
ぼんやりと冒険者が見える距離――5m以上は離れていたはずなのに、それを一足で詰めた。
ミッツのイメージでは、走っていって斬りかかるつもりだったので、そのことに度肝を抜かれてしまい、動けなかった。
冒険者が退いてくれたので仕切り直しができたが、あのままの距離ではどうすれば良いのか分からず困り果てていたに違いない。
剣技が未熟どころか全くの素人のミッツでは、剣を力任せに振るしか出来ないのだから。
「(さて、どうするかな。構えも様になっているし、強そうだなー。あー、こんなことならマリルに任せれば良かった。なんで先に突っ込んじゃったんだよ、俺!)」
そんな内心を知らないマリルは、勢い良く飛び出して行ったミッツは一人で戦いたいのだろうと、静観を決め込んでいる。
全くの余計な気遣いである。
そんな風にミッツがあれこれ考えていると、事態が動く。
冒険者がミッツに背を向け、逃げ出そうとしたが転ぶ。
「(えー!? この冒険者大丈夫か? 何がしたかったか分からんけど、ラッキー)」
顔面は打ち付けなかったようだが無様に四つん這いになっている冒険者に、ミッツは近づいていく。
これが冒険者の罠ということも考えて、ゆっくり慎重に。
自分では忍び足のつもりだが、一歩一歩、かちゃ、かちゃ、と足音を響かせて。
剣を突き出せば刺すことができる距離まで近づく。
だが、流石に時間をかけすぎたのか、冒険者は地面についた手を軸にして、地面を滑るように伏したままミッツを正面に捉える。
目と目が合う。
正確にはミッツが冒険者の目を覗き込んだだけで、冒険者はというと、視点を集中させずに全体をぼんやりと視界に収める。
観の目というやつだ。
戦闘をするにあたって、これが出来なければ話にならない程の基本技術。周辺視野で全体を捉えることによって、あらゆることに反応出来るようにする。
だから、逃すまいと突き出したミッツの剣を、首を捻って既で躱し、続く突きも逆に捻ることによって軽々と凌ぐ。
そして、大きく振りかぶった一撃――それが振り下ろされる前に、跳ね起きる。
冒険者は落ち着きを取り戻す。
どうやらこの得体の知れない【引籠もる剣士】は、見掛け倒しで大したことがないと看破したようだ。
注意するべきは、後ろに控えたアンノウンのみ。
そう思考を巡らせている間も、ミッツからの攻撃を避け続ける。
「(くそっ! くそっ! 当たらねぇ。)」
袈裟斬りも、振り下ろしも、横薙ぎも……その全ては掠る気配もない。
相手が探索者でなければ、致命打とはいかなくても当てるくらいは出来ただろう。
これは、相手が悪かった。
そのまま、さながら扇風機のようにぶんぶんと剣を振り回すミッツと、ぴょんぴょんと後ろに退がっていく冒険者。
そして、ミッツとマリルの距離が十分に離れた時――冒険者が反撃に出た。
短い剣を、ほとんど手首のスナップだけで突き出すようにして斬りつける。
ミッツはその攻撃に対応出来るはずもなく、鎧表面に傷を作る。その傷は、即座にHPを自動消費して修復されていく。
すると、どんどんとミッツの体は重くなる。
実際に重くなったのではなく、体力がなくなり、力が思うように入らないのだ。
「(このままやられるな)」
ミッツがそう諦めて、冒険者の攻撃に身を晒そうとしたが、次の攻撃はやってこなかった。
またも冒険者が距離をとったからだ。
直後、ぐおんと風を切る音を唸らせながら、ミッツの横をマリルが駆け抜けていく。
冒険者はマリルに反応し、距離を開けた。
だが、それは無駄だった。
盾を前面に構えたままの体当たり――《突撃する盾》でマリルは急加速し、冒険者を撥ねとばす。
錐揉み回転して地面に落ちた冒険者の首は、曲がってはいけない角度まで曲がっている。
回復する兆しもない。
「先輩、大丈夫ですか?」
きょろきょろと周囲を確認して、マリルはミッツに問いかける。
「助かったー。いや、すまん。ありがとうマリル。死ぬのは良いけど、倒せないのは不味いからな」
問題にするところが逆のような気もするが、これがミッツの本心。
自分の命より、ダンジョンエナジーの回収が大事。
「言いにくいのですが、先輩……。先輩は武器を使わない方が強いのではないでしょうか?」
「そうか? マリルがそう言うならそうなのかもな。じゃあ次から剣を使わないで戦ってみるわ」
昨日、武器に頼らない戦い方のミッツに苦渋を舐めさせられたマリルは、そう提言する。
戦いに関してはマリルの方が上だと認めているミッツも、それをあっさりと受け入れる。
そうこうしているうちに、さきほどマリルが撥ね殺した冒険者も墓石となった。
「やっぱり、冒険者は一般人とは違うんだなー」
「強さですか? そうですね。普段から戦っ――」
「――あ、いや、強さもだけど、色々と」
墓石の周囲に落ちた金貨の数は、一般人と比べ物にならないほど多い。
一般人が多くて3枚程度だったのに対し、なんと14枚。
これならば、ダンジョンエナジーも相当多いのではないかと思い、一旦姫の元に確認に戻ることを決める。
だが、ミッツの不運がそれを許さなかったのか、またもや冒険者が現れた。
評価、ブックマークありがとうございます。
大変励みになっております。
アドバイス、ご意見、ご感想、お待ちしております。




