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事業拡大。 その5 ☆アウトソーシング

「どうしました!?」


 突然にミッツが声を上げたものだから、何事か分かっていないマリルが驚くのも当然。

 だが、自分の気づきに興奮しているミッツは、そんなマリルの様子をまるっと無視して詰め寄り、肩を強く掴んで揺さぶる。

 余程の気づきをしたというのだろう。

 嬉しいのは結構なことだが、年甲斐もなくはしゃぐ様は正直見苦しい。


 それに、これだけ興奮できるミッツの気づいたことというのも、正直大した内容ではない。

 なので尚更だ。


「冒険者組合。冒険者組合だよ」


 肩を揺さぶられ、頭を前後にがくんがくんさせながらも、マリルは「組合がどうしました」と、途切れながらにも答える。


「分かるだろ。俺の言いたいことが、アウトソーシングだってことくらい」


 わかりませんとマリルが口にしても、ミッツは気にした様子がない。

 モンスターになって眠る必要がなくなっても、深夜のナチュラルハイは無くならないのだろうか。

 それほどに、ミッツは取り乱している。


「ふっふっふ。説明しよう――」


 勿体ぶりながら説明を始めるミッツだが、本当に大したことない。

 冒険者組合に何らかの依頼を出して、冒険者を呼び寄せようというものだ。

 誰でもすぐに気づくだろう内容な上に、肝心なところがふわっとしている。

 到底、企画と呼べるものではない。


「なるほど。そこに気づくとは、流石先輩ですね」

「そうだろう。そうだろう」


 だが、見た目は美しく、大きな目も利発そうに見えるのに、中身は思いの外ポンコツのマリルには、素晴らしい思いつきのように感じられたようだ。

 利発そうに見えるが、その実節穴な大きな目をきらきらと輝かせてミッツを眺める。

 そして、褒められたミッツは、どこにそこまで図に乗れるのか分からないが、鼻高々で頷き返す。

 これも、深夜という時間のせいだと思うことにしよう。


 ミッツの中でこの戦略は、一分の隙もないように思われていた。

 それは、先ほど立てた戦略の問題点と、慢性的に抱えている問題点を解消するという画期的とも言えるアイデアだからだ。

 今回のメインターゲットは冒険者。

 冒険者といってもピンキリで、その中でも駆け出し、若しくはうだつの上がらない低レベルで燻っている冒険者をターゲティングする。

 理由は、提供出来るベネフィットが、それ以上の質の良い冒険者を満足させられないという消極的選択。

 しかし、その選定に問題はない。【黒髪姫の薔薇のお城】の強みが“弱いモンスターしかいない”というのは、【直立する狗(コボルト)】が増えたとは言え変わってはいないのだ。

 低レベルの冒険者でも無理なく――寧ろ余裕を持って探索出来るダンジョンということで、一定の訴求力はあるだろう。

 問題だったのは、そのような冒険者が探索するダンジョンを決めてしまっているということにあった。

 なので、以前ミッツが訴求したときには取り付く島もなかったのだ。

 だがそれも、冒険者組合のクエストで報酬が出るとなれば、一考の余地くらい生まれるのではと思う。

 それに、狙っている冒険者をピンポイントで釣れるというのも大きい。

 なにせ、クエストを受注するということは、この程度のダンジョンに挑まないといけないパーティーですと、自ら申告してくれているようなものなのだから。

 そうすれば、ミッツとマリルも安心して狩れるというもの。

 ミッツは良いとしても、マリルの維持費は1日140DE。蘇生費用なんて、想像もしたくないことだろう。

 なので、そのリスクを軽減出来るのは、追い込まれたこの状況では非常に助かる。

 これで、戦略の“誰に”という部分の問題は、粗方綺麗に出来た。


 成果目標の問題についても、この冒険者組合に集客をアウトソーシングするという策は効果を発揮する。

 ターゲットする冒険者を見つけて、個別に対応するのは骨が折れる。

 それに、時間も足りない。

 冒険者たちが出発するのは、日が昇ってからそれほどの時間もない。

 その間にどれだけ声をかけたとしても、13パーティーも捕まえるのは不可能だろう。

 しかし、冒険者組合ならば、自発的に冒険者が向かってくる。

 訴求数は圧倒的。

 当然、ターゲット以外の冒険者も多いが、分母が大きければ、それだけターゲットへの訴求も多くなる。

 そうなれば、目標達成にも兆しが出る。


 冒険者組合に訴求を委ねるメリットは、それだけではない。

 ミッツが訴求するよりも、遥かに契約までの敷居が低い。

 それをAIDMAの法則――顧客の購買までの心理プロセスを表した法則――に則って説明しよう。

 Attention(アテンション)――認知――とInterest(インタレスト)――関心――の部分は、既にクリアになっている。

 冒険者組合にはクエストが発行されていて、そこに自分たち向けのクエストがあうだろうという期待を持って訪れるからだ。

 そしてDesire(デザイア)――欲求――に関しても、報酬というのが、そのまま当てはまる。

 Memory(メモリー)――記憶・感情――に関しては、自分たちの行こうとしているダンジョンとの比較をその場で行えるだろう。

 そして、納得がいけばAction(アクション)――行動・決断――。即ちクエストの受注へと至る。

 そもそも、クエストを求めて冒険者組合に来ている冒険者なのだから、払拭すべき問題が少なく、初めから乗り気なのだ。

 少し違うが、携帯電話が壊れたから機種変更に来店する客のようなもの。

 条件さえ合えば、最善でなくても契約に至る。


 このようにメリットばかりが目立つが、オートで行う訴求には、個別に当たる場合と比べて、潜在顧客を捕まえられないという点では劣る。

 だが、今回に限っては比べるまでもない。

 個別に当たった結果、話を聞いてもらえなかったのだから。


 慢性的な問題の人手不足に関しては、そのまま。

 外部に委託することによって、埋めてしまうというだけのこと。

 それに、ネームバリュー不足を補うという効果もある。


 これだけの効果を持った策なので、ミッツが得意満面なのも頷ける。

 ただ、繰り返しになるが、誰でも気付く策だというのに何も変わりはない。


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