事業拡大。 その4 ☆イノベーター理論
戦略を考える。
何処で、誰に向けて、具体的にどれくらいの成果を出す――何人の冒険者を連れてくる――のか。
誰に向けてというのは、今回ははっきりとしている。駆け出しの冒険者だ。
それ以上には、相応の価値を提供出来ない。
かといって、駆け出しの冒険者ならば満足出来るかというと、それも難しいところ。
一先ずそれは置いておいて、どの程度の成果目標を目指すかというのも、大体の試算が立つ。
一般人を殺した時に得られるダンジョンエナジーが、3〜10DE。
であれば、少なくとも1人当たり10DE以上は稼げるであろう。
マリルとの戦闘の後に、多少のダメージでどれくらい増えたか確認しておくべきだったと後悔するが、それは今更。後の祭り。
冒険者は、神の祝福が受けられる限界の6人パーティーでダンジョンに挑む。
ということで、一般人から稼げるダンジョンエナジーは直接対峙出来なくなることも考えれば200DE。残りの800DE近くを冒険者で賄う。
最低13パーティー。
全滅させるわけにはいかない上に、普通に負ける可能性も考慮すれば20パーティーは欲しいところ。
「……無理っぽいな」
一般人を集めた時は、オピニオンリーダーとして優秀だった“大阪さん”がすぐに乗ってくれたので、上手く行った。
オピニオンリーダーとは、有名ブロガーやタレントのように意思形成に影響を与える人のこと。
だが、そんな幸運が何度も起こるなんて甘い考えはミッツにはない。
マリルの話を聞く限り、冒険者にはイノベーター理論で言う“レイトマジョリティ”や“ラガード”が多い。
イノベーター理論についても説明しておくと、マーケティング用語で商品購入の態度を、新商品を購入するまでの早さで5つに分類したもの。
早い順から“イノベーター”>“アーリーアダプター”>“アーリーマジョリティー”>“レイトマジョリティ”>“ラガード”だ。
“イノベーター”はとにかく新しいものが好き。冒険者風に合わせると、正しく“冒険者”。
発見されたばかりの、まだ誰も踏破していない危険が潜むダンジョンに、果敢に挑戦する。
だが、そんな命知らずはそれほど多くないはずだ。
イノベーターは市場全体の2.5%と言われている。
だから、こいつらを宛てにすることはできない。
そもそも、新しいということが最大の焦点なので、ベネフィットなどをいくら考えようが興味を持たれない。
なので、市場にそれほどの影響も及ぼさない。
商品を売るなら、“アーリーアダプター”に認めてもらわなければならない。
“アーリーアダプター”は“イノベーター”と違い、新しいベネフィットに注目している。
流行に敏感で、自ら情報収集を行い判断する。
第一線で活躍するダンジョン攻略パーティーやチームなどがそれだろう。
その情報攻略情報が、後進の者の道標となるのだ。
そして、それに“アーリーマジョリティー”が続いて行く。
慎重派の冒険者達は、自分たちの力量で最大限の利益を得られるダンジョンを選ばないと向かわない。
“レイトマジョリティ”は更に懐疑的な人。
周囲の大多数が何度も挑戦して、完全に安全だと分かってダンジョンにしか挑戦しない。
“ラガード”は保守的。
流行などに関心がなく、伝統になるまで採用しない。
マリルも変則的だが、これに分類して良いだろう。
なので、“レイトマジョリティ”や“ラガード”が多い、うだつの上がらない冒険者に、新しいダンジョンを選択させるというのは至難の技。
「大変です、先輩。どうしましょうか……」
「大変だな」
「あ、いえ、自分には、先輩の言っていることが何一つわからないことが大変なのです」
「……。真剣な顔して、何を言うかと思えば……。そうだな、ざっくり言えば、『得だ』と自分で判断出来て行動に移れる駆け出し冒険者に売り込むか、信頼されている情報筋のパーティーに宣伝を頼まないと難しいということだ」
「なるほど……」
「心当たりあるのか?」
顎に手を当てて考えていたマリルに、少しばかりの期待を寄せて聞くが、返ってきたのは「心苦しいのですが、全く……」という一言。
(見た目に反して、とんだポンコツだなこいつは……)
「何か言いましたか?」
「いや、何も。(心の中を読むのか!? それとも、女の勘というやつか?!)」
「それにしても、敬服致しました。先輩は戦士としてはイマイチですが、どのような知識かは自分は存じませんが、難しいスキルを祝福されているのですね」
「祝福って……。こんなの販売員やってりゃ、誰でも覚える基本的な知識だって。そんな、なんか知らんが大層なもんじゃねーよ」
「え?」
「ん?」
二人が食い違うのも仕方がない。
ミッツはこの世界に於いての勉学の在り方について、実のところ良く理解していないのだ。
以前、ステークホルダーについて調べていた時に、文字の読み書きを教会で祝福してもらえると知識として知った。
だがそれは、そんな便利なことも出来るんだなと、勉強以外の一つの方法として選択出来るという認識でだ。
それどころか、ありとあらゆる知識を同じ方法で手に入れられるので、勉強をするという行為自体を誰も行わないなんて、義務教育すら当たり前だと思っているミッツには想像も出来なかった。
マリルとしても、基本知識と言われたところで、戦士にはそんなスキルは無かったとしか言えない。
出来の悪い自分が出来ることは誰でも出来ると思い込んでいるミッツの悪い癖の所為で、話が食い違ったり、『何言っているんだコイツ。嫌味か』と思われた訳ではない。
ミッツは自分自身を過小評価しているが、こと、一つのことに集中して、一人でなんでも出来るようにしようというミッツの能力は、決して低くない。
片親に育てられてきたお陰か、そのような責任感というか、完璧主義というか、誰かに頼るということを避ける強迫観念じみた潔癖主義のようなところが、その力を磨かせた。
仕事関連の知識も、覚える必要がないモノなんていうのはミッツにはなく、周りがドン引きするレベルで知識を蓄えていた。
それで大成しなかったのは、運が悪いのか、ミッツの不器用さが悪いのか。
恐らく両方だが、後者の割合が大きいだろう。
「色々きっついなー。後は“何処で”集客を行うかだな……」
答えが出ないことをうじうじと考えていても仕方がないと、決められそうなところから決めて、そこから新しい発想が出ないかと先に進める。
これが功を奏した。
「うわっ!!」
ミッツ、激震走る。
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