事業拡大。 その2
稼ぎ方の変革。
そう一言で言ってしまうと簡単だが、これまでも決して楽にダンジョンエナジーを500DE近く稼ぐようになった訳ではない。
日々集客活動に勤しみ、ダンジョンに来る一般人を徐々に増やしていった結果成し得た。
正直、これ以上はこのやり方で急激に伸ばすことは難しい。
いや、難しいどころではない。不可能なのだ。
かといって、ミッツに全く手筈がないと言う訳でもない。
しかしそれは、過去に一度失敗して諦めていた。
「冒険者か……」
冒険者。
2000年前、突如として人を襲い始めたモンスター。それを率いていた“はじまりの魔王”を討伐した勇者の力の欠けらを受け継ぐ者たち。
人々の平穏のため、二度とモンスターがダンジョンから出てこれないように力を以って対峙する存在。
だが、2000年を経て、その存在の意味は大きく変わった。
今は冒険者組合に登録すれば、誰でも冒険者になれる。
持つ力も、過去の冒険者とは雲泥の差。
とはいっても書物の中での話なので、実際に過去の冒険者が強かったか定かではない。
ただ、現在の冒険者は玉石混淆。ならず者崩れも多く、問題を起こす者が少なくないのが事実。
一般人にとって憧れなのは、あくまで物語や歌に唄われるような圧倒的存在感を持つ一部の冒険者のみなのだ。
出来れば関わりたくない。それが一般人の正直な気持ちだろう。
そして、そんな存在に成り下がった冒険者であっても、なくてはならない存在には違いない。
人間にとっても、ミッツたちモンスターにとっても。
人間の世界い於ける冒険者の役割は、猟師や漁師。それに、技術者や科学者としての意味合いもある。
猟師や漁師については、とても分かりやすい。
ダンジョンに潜り、食材をドロップするモンスターを狩るのが仕事だ。
技術者や科学者というのは、最先端の技術を発明する。といったようなことは冒険者はしない。
この世界の人々は、願えば新たな知識が手に入る。だから必要が生じたところで、自分で考えて解決しようなんて物好きは存在しない。
そういった文化なのだ。
では、どのようなことをするというのだろう。
猟師たちと何も変わらない。
ダンジョンに潜り、便利な道具を手に入れてくる。
そしてそれらが人々の暮らしを発展させ、豊かにする。
そういった意味で、技術者や科学者の役割を担っている。
話が逸れたが、そんな存在になった冒険者だからこそ、本当の意味で冒険する者が少ない。
仮初めとはいえ、命が賭かっているので当然といえば当然だが、安全圏で効率よく稼げるダンジョンにしか行かないのだ。
なので、ミッツがダンジョンへ誘導しようとしても、誰も耳を貸さない。
一度目だけ、即席パーティー募集と勘違いした冒険者を連れて行くことが出来たが、経験値の少ないモンスターしか出ず、宝箱もなく実入りが少ない。そんなダンジョンに早々に見切りをつけ、他のダンジョンに行ってしまった。
あわやミッツも連れ出されるというところだったが、なんとかそれは断った。
その翌日以降、早速噂が広まったのか誰も耳を貸さない状態になったのだ。
悪い口コミは、あっという間に広まる。それは、この世界でも共通らしい。
ダンジョンエナジーの稼ぎが安定しても尚、ミッツが一般人をターゲットにし続けていたのは、こういった背景があった故なのだ。
「でもなー、なんとかしないと駄目なんだよなー」
椅子の二本足が浮くほど背もたれに身を預け、不安定にゆらゆら揺らしながら頭の後ろで手を組んだミッツは悩み、独り言つ。
そして、ダンジョンエナジーの推移を記載している日報ノートに視線を遣り、大きくため息を吐く。
タイムリミッツは明日1日。
陽が昇ると同時に動き出さねば、機会を失う。
残された時間は、本当に少ない。
だが、いくら考えても良案は出てこなかった。
「冒険者のことは冒険者……いや、元冒険者に聞くのが良いか」
椅子の浮いていた足を打ち付けるように下ろし立ち上がったミッツは、マリルの部屋の前にやってきた。
勢いよくノックをしようとしたところで、思いとどまり手を止める。
時間は深夜。男だと勘違いするような容姿だとはいえ、マリルは歴とした女性。
約束もなしに押しかけるのは、少しばかり抵抗を覚えたのだ。
しかし、逡巡したのは一瞬。
傍目には、戸惑いなく深夜に女性の部屋を不躾に叩いたようにしか見えないタイミングでノックをする。
ここで戸惑っていては、姫どころかマリルも消える。変に気遣っている場合ではないと、ミッツは即断した。
「はい。姫さまですか? 先輩ですか?」
「俺だ。少し聞きたいことがあるから、急ぎ事務所に来てくれ」
「はい分かりました。すぐに伺います」
返って来たマリルの声ははっきりとしていて、寝起きという風には感じられない。
本の僅かにだが、寝ぼけ眼でドアを開けたマリルが薄着で……なんていうラッキーエロの期待を、ミッツはあっさりと崩された。
「いや、軽装で現れるかもしれん」
それでも、一縷の望みを捨てないあたり業が深い。
それとも、命がかかった仕事をしながらもエロを忘れないとは、まだまだ精力的だと褒めるべきなのか。
「お待たせしました」
それほど時間をかけずに現れたマリルの格好は、色気も何もないミッツの見慣れた胸部が真っ平らな全身鎧姿だった。
「仕事中以外もそんな格好してたら肩凝らないか?」
「そんなことはありません。姫の騎士になれたのですから、いついかなる時でもすぐに動けるようにしておく。それが自分の出来る精一杯ですので」
「真面目だな」
「そういう先輩こそ、こんな時間でもお仕事ですか?」
「ん、あぁ。ちょっとやっかいなことになってな」




