イケメン、コロスベシ! その4
ミッツはじっと見つめる。
目の前にいる、銀髪ボブカットで中性的で透明度のある笑顔を湛えるイケメン冒険者を。
見とれている訳ではない。
当然である。
その冒険者は、ミッツにとって明確な敵なのだから。
だからミッツは考える。
「(イケメンで天然とか……年上キラーってやつか)」
見た目に対する劣等感を。
それより重要なことがあるのに関わらず、初めて見たとき抱いた激しい敵愾心をそのまま持ち出す。
だが、本来の目的を忘れた訳ではない。
その証拠に、ミッツの口撃が始まる。
「君は騎士を目指しているんだよね? だから、姫の騎士になりたいと」
「左様です。どうか自分も姫様に仕えさせて下さい」
「聞きたいんだけど、名前しか知らない奴を大事な主人の前に連れていくのが、君の思う“騎士”の行動なのかな?」
「はっはっは。何を仰っているのですか? そんなこと、許されるわけがありません」
暫し無言。
ミッツは『理解しているなら引き下がるよね』という笑顔を向け、イケメン冒険者は『問答に見事答えましたが』という笑顔を湛える。
見事に噛み合わない。
「だから、今のお前がそうなの。俺はお前の名前しか知らないの。そんなのを姫のところに連れて行けるわけがないだろ」
頭が痛い。ミッツは即座に天然相手に諭すのを諦め、直接ぶつかっていく。
だが、それをぶつけられたイケメン冒険者はどこ吹く風。首を軽く傾げるだけで、何も分かっていない。
むしろ、ミッツが何を言っているんだという顔を向ける。
そんな態度に沸騰したミッツは言葉に詰まった。ぐぬぬと唸り、どう言えばこの天然に諦めさせられるのかと苦悩したところ。
「なるほど。分かりました」
突然にイケメン冒険者が真剣な顔になる。
「姫様はダンジョンの中にいらっしゃるのですか。とすると、どこからか逃げてきている。一般人を連れていくのは、反抗のための手勢集め……」
ぶつぶつと呟く。
全く違うが、ダンジョンに姫がいるのは間違っていない。
「大丈夫です。どこの姫様かは分かりませんが、自分を信用してくれて構いません。そういうのも大好物です!」
目をキラキラさせながらミッツにそう宣った。
ミッツは思った。こいつは騎士に憧れているただの馬鹿だと。
説得なんて出来るわけがない。なにせ、人の話を全く聞いていないのだから。
しかし、諦めてこのイケメン冒険者を連れていくわけにはいかないミッツは、妙案を思いつく。
「バレてしまっては仕方がない」
「やはり!」
「あまり大きな声を出さないでくれ。聞かれると困る。わかるだろ?」
「えぇ、えぇ、分かりますとも」
「今すぐ姫に会わすわけにはいかないが、お前のことは伝えておく……えっと、名前はなんだった?」
「マリレーナ=エリック=オルペタロウ。LVは先輩よりも高い14で、職業は騎士……と言いたいところですが、戦士です」
「……余計な一文があったが……まぁいい。そんな……マレ……マ……エリック太郎にお願いがある」
「なんでしょうか!?」
「外で、俺たちのことを見張っている奴がいないか、注意して見ていてほしい。もし見つけたらこっそり教えてくれ」
「任せてください」
「……いや、だから追いてきちゃだめだって。俺が転送した後、追ってくる奴がいないかも見張っていてくれないと……」
「あ、そうですね。お任せ下さい」
「うん。頼んだぞ」
本当に大丈夫かと思いながらも、イケメン冒険者の欲求を一部満たす形で目的である“イケメン冒険者の切り離し”を果たしたミッツもダンジョンへ帰る。
途中心配になって後ろを振り返るが、イケメン冒険者は側の灌木に隠れて後ろを見ていた。
そんな一幕があり、中々に大変になりそうな一日をスタートしたわけだが、昨日以上の人数をダンジョンに引き連れて行き、ダンジョンの代金として命を支払って貰う。
飛び散る血潮、撒き散らされる内臓、響く断末魔には流石に慣れずに心痛むし嫌悪感も覚えるが、ダンジョン侵入者の同意は取れているので、昨日のような陰鬱な気持ちに囚われることなく侵入者の大半から取り立てた。
昨日の優に4倍の人数である。
個体差もあるので、ダンジョンエナジーは4倍も集まらなかったが、それでも十分明日を迎えることは出来る。




