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イケメン、コロスベシ! その3

 衝撃を受けたミッツは、反応が遅れる。

 逃げるも戦うも選ぶことができないまま、イケメン冒険者の言葉が続く。


「ミッツ、LV2、戦士ですか……見た目にそぐわぬLVの低さですね」


 出てきた言葉にポカンとする。


「自分は騎士に憧れており、魔族発見の手柄があれば騎士になれると思ったのだが甘い考えだったようです。疑ってすまない。何百年も前に上級魔族がラッパを吹いて大量の子供をダンジョンに連れ去ったという話があったので、それを警戒しただけなので許してほしい。といっても御伽噺の話ですけどね」


 朗らかに笑いながら、そう(のたま)うイケメン。

 湧き上がる殺意。

 自分の利益の為に人を疑っておきながら謝意を感じさせない軽い言い方で許せだとか、人を馬鹿にするにも甚だしい。

 人間系と亜人系モンスターは、同じ種族でも冒険者のように職業を所持していて性能が変わる。

 だから偶々ミッツが人間系モンスターの【引籠もる剣士(ソードマン)】だったため、種族ではなく加護職業である戦士だとスキルによる調査結果が出たのでバレなかっただけで、ミッツにとっては絶体絶命のピンチに違いなかった。

 正体がここで露見していればミッツはここで目の前のイケメン冒険者に討たれ、そうすれば姫のためにダンジョンエナジーを稼ぐものがいなくなる。

 強い憤りを感じて勢いで罵倒したとしても仕方がないことだ。


「おまえ、巫山戯んなよ! 今俺に何かあったら、姫も大変なことになるんだからな。やっていい事とダメなこともわからんやつが、国民を守る騎士になんてなれるわけないだろうが!」


 だからこの一言が、余計な問題の発端になってしまったとしても仕方がないことだったのだ。


「今、『姫』と言いましたか? 貴方……いえ、貴方様は何者なのですか。詳しくお話を伺いたいのですが」


 はぁはぁと荒い息で詰め寄るイケメン冒険者。

 その目はギラギラとどぎつく輝いていて、視線が搗ち合ったミッツがたじろぐほど。


「ちょっと落ち着け。俺は『姫』なんて言ってない。それはきっとお前の聞き間違いだ――」

「――いいえ、そんなはずはありません! 私はしかと聞届けました。貴方様は確かに『俺になにかあったら、姫も大変なことになる』と口にしました」

「……」

「……なるほど。分かりました。そうですよね、こんな大勢の前では言えませんよね。配慮が足りませんでした」


 イケメンの冒険者が小声でミッツにだけ聞こえるように騒ぎ立て、その後大仰に「聞き間違いでした申し訳ございません」と皆に聞こえるように謝る。

 ミッツの無言を『言える訳がない』と解釈しての行動だが、ミッツは本当に言った記憶がなかったので『あれ? 俺言ったっけ?』と思い出そうとしての無言だった。

 興奮から出た一言だったので、覚えていないのだ。それでも、『姫』という単語がイケメン冒険者の口から出てくるということは、言ってしまったということは知らしめられるに十分だった。


「とすると……この一見意味不明な動員も姫様のための行動ということ……。私は何を手伝えばよろしいでしょうか?」

「……」

「ほら! ダンジョンに向かうものは、整列してついてくるのです。そこ! あまり広がって歩いては、往来の妨げになりますよ」

「……」

「貴方たち、そんな装備で大丈夫ですか? ミッツ様が保証してくださっているとは言え、今から向かうのはダンジョンなのです」

「……」


 ビギニンガム最寄りの転送装置であるストーンサークルが見えるところで、2番目を歩いていたミッツが立ち止まったことで一同も止まる。


「どうして立ち止まるのですか? 転送装置はすぐそこですよ?」


 先頭を歩いていたイケメン冒険者もそれに気付き、ミッツのところまで戻って問いただす。


「……どうして?」


 ミッツは思った。

 どうしてと聞きたいのは、俺の方だと。

 どうして、当たり前のように一緒にいるのか?

 どうして、関係者面して一般人どころかミッツをも先導しているのか?

 ミッツの怒りを呆気に変える転身を見せたイケメン冒険者は、あれよあれよという間に一般人を規則正しく整列させ、ダンジョンへ向かうための転送装置へと誘導してきていたのだ。

 その手際の良さに呆然としていたミッツが口を挟めぬまま、今に至る。


「いやですよ。自分も姫様に拝謁致したく、同行するためにお手伝いしたまでのこと」


 疑問を打つけたミッツへ返ってきた言葉。


 それを聞いたミッツ――


「ダメに決まってんだろ」

「――っどうしてですか!」

「どこの馬の骨か分からないやつを姫に会わせるとでも?」

「うっ……それもそうですね……」

「分かったら――」

「――自分の名は、“マリレーナ=エリック=オルペタロウ”と申します」

「え?」

「自分の名前です。“マリレーナ=エリック=オルペタロウ”」


 姿勢を正し高らかと名乗ったイケメン冒険者。

 その顔に、自信と笑みを浮かべている。


「では行きましょうか、先輩」

「――いやいやいや、ちょっと待て」

「どうされたのですか、先輩?」

「どうされたも何も、何しれっと『先輩』とか呼んでドヤ顔で身内面なの?! おまえ馬鹿なの? いや、馬鹿だろ!」

「ちょっと先輩、落ち着いてください。皆さんが驚かれてますよ」

「おいおい、今一番驚いているのは俺だわ。そして、驚かしているのはお前なの。ね、分かる? 俺の言っていること分かりますか?」

「えぇ、大体は」

「大体ってなんだよ。大体じゃだめだろ。それから、空気読んでドヤ顔止めろよ!」

「だから先輩……皆さんが先輩の大声に驚いてますって」

「小声で注意してくんなよ。そんな空気読まんでいいわ」


 ミッツは、ぜーぜーはーはーと肩で息を吐き呼吸を整える。

 そうしてから、連れている一般人に一言謝って、昨日ダンジョン探索に参加したリーダー格の大阪弁風の男に引率を頼む。

 飲んだ席で、ダンジョンの名前もばっちりと覚えていたことは確認していたので、安心して任せることが出来た。

 少し心配そうな表情でミッツを見た男は、皆に声をかけ先導していく。

 ミッツはそれを見て悪いと思いながらも、今は目の前の問題を片付けなければとより一層面倒なことになると確信していた。


――こいつは天然で、行動力がやばい。


 このまま放置すれば、間違いなくこれからも追てきて、ダンジョンエナジーを集める行動の邪魔になる。

 従って、ミッツはここで、このイケメンの冒険者を処理しなくてはならないのだ。

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