イケメン、コロスベシ! その2
振り向くとそこには、ミッツと同じように全身鎧に身を包んだ、背中に巨大な盾を背負い中性的で非常に整った顔立ちの控えめに言おうとも紛うことなきイケメンが立っていた。
「なんか面倒ごとがやってきた……」
「怪しいですね。貴方はいったいここで何をしていたのです?」
正義感を振りかざし首を突っ込んでくる騎士風の冒険者は、若い。
少年ではないが、大人びて見えるもののミッツの感覚では成人しているようには見えない。17、8といったところだろうか。
ボブカットの銀髪が綺麗に手入れされているのか光が当たったところが青く輝く。
一見騎士に見える格好だが、青のマントを身につけていないので冒険者である。
声は、まるで宝塚歌劇団のようによく通る高めの声。しかも、それを紡ぎ出す唇は、こちらにくる前のミッツのようにガサついた唇ではなく艶やかで瑞々しい。
背丈は2mを超えているミッツの方がかなり大きい。だが、イケメンの冒険者も170cmはあるので150cmそこそこの周囲と比較して低くない。
『(嫌味かこいつ。イケメンすぎるだろ。それに、女の子たちは声を聞いただけで孕んじゃいますってか。って、存在が喧しいわボケ。邪魔するな、イライラする)』
ミッツの心は荒み、悪態を吐く。なんとか心の中に留めることは出来たが、ひくついた顳顬と口元が隠しきれていない。
「え? 特に怪しいことはしていませんよ」
「怪しい者が、自分は怪しいですと自白するわけないでしょう」
正論である。
「一緒にダンジョンに行く人を探して居ただけです。それとも、冒険に一緒に行く人を探す行為が何か罪ですか?」
だが、突如現れたイケメンに言われるがまま、すごすごと逃げ帰ることなんて出来るだろうか?
――否、出来ない。
ミッツは向きになり、突っかかる。
「そうだな……ダンジョンに潜るパーティーメンバーを募集するのは何の問題もない――」
「――だったら、邪魔しないでもらえますか」
「話を最後まで聞いてください。パーティーメンバーを募集するのは問題ないですが、気になることがあるので、話を聞きたいのです」
「おいおい、悪魔の証明をしろというのか。先にも言った通り、俺は一緒にダンジョンに行く人を集めているだけだが、問題あるか? 俺が何と言おうと、お前が一言『嘘を吐いている』と言えば証明出来ないけどな。それより、騎士でも無いお前に俺の邪魔する権利が何処にあるんだ?」
大声で割り込み、論点ずらしと悪魔の証明の擦りつけで論争にならなくする悪辣な手口。
更に、ミッツはイケメンが何を言っても『正確な証拠はあるんですか』と返して煙に巻こうと考える。
これは勝った。そう確信し、ダンジョンに向かおうとしたのだが――
「何を言っているんですか。冒険者ではなく職業加護のない一般人を連れて行くのも怪しい上に、剰え神の祝福を受けられない6人を超えての募集にはどのような言い分があるか説明して欲しいだけです。騎士では無い自分には、話を聞いて騎士団に報告するかどうか決めるだけしか出来ません。それとも、何か話したくない理由でもあるのですか?」
話の流れが変わる。
ベネフィットを提供し、その対価としてダンジョンエナジーを集めるために命を貰っているので厳密に言えば詐欺では無いが、“ダンジョンに人間を連れて行くこと”=“人間を殺すこと”という認識のミッツは、問題点を見誤っていた。
人間をダンジョンに連れて行くのが問題なのでは無く、戦力にもならない人たちを連れて行くのが怪しいとのこと。
冒険者と一般人の違い。
それは、簡単に言うと強さが全く違う。別次元と言っても良い。
その要因は、生まれつきや努力の結果。なんていうものではない。……厳密に言えば、そう言ったものも影響はしている。
だが、最大の要因は職業の加護。
ここでいう職業とは、生計を立てる生業のことではない。
【戦士】や【魔術師】というような、冒険者が就く特別な職業。
言語と同じく、これらの特別な職業も神からの祝福で身につける。
これには様々な恩恵がある。技や魔法を覚えたり、装備品の能力の行使といったことだ。
一般人用の知識や技術と違い、お金ではなく能力を問われるので真の意味で冒険者になれないものが多い。
これが、誰でも冒険者になれるけれど誰もが冒険者にならない理由の一つだ。
ともかく、冒険者と一般人には隔絶した実力差がある。一般人など足手纏い以外の何物でもない。
もう一つの指摘については、6人以上のパーティーでダンジョンに入ると先述の職業の加護が一時的に失われる。
要は、冒険者も一般人と何も変わらなくなるということ。
足手纏いを連れて行って、更に自身の戦力ダウンを行うとは考えられない。イケメン冒険者の言いたいことはそういうことなのだ。
尤もな意見で、ぐうの音も出ない。
「あ、え、え? いや、その――」
ミッツは、しどろもどろに意味のない呻きのようなものを出すしかなかった。
「もしや、モンスターだということはあるまいな。上級魔族は人語を解し、操ると聞いています。だとすれば、一般人をダンジョンに誘うのも納得出来るというもの」
どくんと心臓が跳ねる。瞳孔が開き、呼吸も止まっていた。
それに、真冬にむき出しの便座に座った時に感じる以上の冷気が身体中を駆け抜ける。
他にも異常な反応が出ていた。だが、声を上げたり、その場に崩れ落ちるといったような決定的な反応は咄嗟に堪えていた。
しかしながら状況を好転させる術など持ち合わせていないミッツは、針の筵に座る気持ちが続く時間が伸びるだけだ。
そこに救世主が現れる。
「なんや。何、にいちゃんに難癖つけとんねん」
「大阪さん……」
ミッツが勝手に『大阪さん』と呼び名を決めてしまったリーダー格の男、本名ジョンが颯爽と割り込む。
この男が昨日に比べミッツに気軽いのは、元々のがさつさもあるが昨晩同じ席で酒を飲み交わしたからだ。
ミッツを守っているその男はイケメンの冒険者よりもひと回り小さく、ミッツの胸まで届かない小ささ。
けれど、その背中はとても大きく見えた。
「にいちゃんは、めっちゃ良い人なんやで。儲け話を独り占めせんとわてらにも教えてくれて、手伝いまでしてくれてんねんやからな。それやのに、魔族やと? 阿呆なこと言うな!」
助けてもらって嬉しいのだが、ここまで信頼されていると少し罪悪感が湧く。何せミッツはイケメン冒険者の言う通り人間ではない。魔族系ではなく人間系のモンスターなのだが。
「信じて良いのですね?」
その罪悪感が気取られたのか、イケメン冒険者は確認を促す。
「そんなこと、聞く必要もないだろう」
ミッツはそれだけを短く答える。
モンスターではないと嘘を吐くのは簡単。だが、営業トークで嘘を吐かずに真実を語らない方法が染み付いていたため、こう答えた。
「そうや、そうや」
「確かに。聞く必要はなかったですね――」
男の援護もあり、イケメンも肩の力を抜き息を吐いた。
ミッツが助かったと安堵した瞬間――
「――《未熟な問い掛け》」
――やられた。
今仕掛けられた《未熟な問い掛け》というスキルは、相手の名前とLV、モンスターなら種族、冒険者なら職業を暴くスキルだ。
――ここまでか。
ミッツは直様逃げるか戦うかと頭を回転させる。
しかし、結論が出る前に無情にもイケメン冒険者の口が開く。
「やはりか」
その一言でミッツの思考は固まり、真っ白になった。




