↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/76

AIDMAの法則。その3 ☆AIDMAの法則

 ミッツは、携帯電話の対面販売で使い慣れた《AIDMA(アイドマ)の法則》を使う。

 AIDMA(アイドマ)の法則とは、広告宣伝に対して顧客の購買までの心理プロセスを表した言葉の、頭文字をくっつけた略語。

 まずは一文字目、“A”・Attention(アテンション)。

 注意を引き、商品を認知させる。心理プロセスの認知段階。

 先ずは知らないことには始まらない。

 全く見ず知らずで名前も聞いたこともなければ、見たこともない人とは恋愛は出来ない。

 姿を見せるなり、名前を名乗るなり、紹介されるなり、兎に角認識されないと始まらない。

 いまやミッツと看板は注目の的。

 認知に関しては問題ない。


 次は、“I”・Interest(インタレスト)。

 商品を訴求し、関心を引く。心理プロセスの感情段階。


「私が案内したいダンジョンは【黒髪姫の薔薇のお城】。決して有名なダンジョンではないが、あなた達にとって、丁度良いダンジョンだと保証します」

「いったいどういうことなんや?」

「なんとそこの1階には、【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】という虫程度の強さのモンスターしかいないのです」


 手でコインの大きさの輪っかを作り、大きさを説明。どのくらい弱いかを補足説明する。


「弱いモンスターというのは、得てして見返りも少ないです。なので冒険者は目もくれません。【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】も僅かな経験値しか手に入れられませんし、ドロップアイテムも大したことありません」


 その言葉はざわざわと落胆を伝搬する。


「そんなとこいく意味、あるんかいな?」

「あなた達には、あります」

「なんやて! どういうことや?」

「【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】のドロップアイテム……それは、銅貨です。稀ですが銀貨や金貨も落とします」


 先ほどとは違う、ざわつき。

 そこには歓喜が含まれる。

 この世界で使われる貨幣は銅貨と金貨の2種類。

 銀貨は貨幣として使われるのではなく、武器などの鋳造のため鍛冶屋に販売する換金アイテム。

 銅貨(単位はC)は100枚で金貨(単位はG)1枚の価値になるのだが、駆け出しの冒険者でも1日10Gは稼ぐ。

 地道に【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】を狩り続けても、そんなには稼げない。良くて3、4Gだろう。

 だが一般人にとって、その稼ぎは家族総出で4、5日かけて稼ぐ金額なのだ。

 破格。

 僅かにでも経験値も手に入り、今よりも稼ぎは数倍に増える。


 これが《AIDMA(アイドマ)の法則》、3つ目の“D”・Desire(デザイア)。

 欲求。心理プロセスの感情段階。

 Aで知ってもらい、Iで興味を、そしてDで欲しいと思わせる。

 ベネフィットの訴求である。

 経験値が手に入れば、強くなり冒険者への道が開ける。

 お金が手に入れば、贅沢が出来るし家族も楽にさせられる。


 4つ目の“M”・Memory(メモリー)。

 記憶。心理プロセスの感情段階。

 欲しいと思っても、動機、きっかけがないと踏み出せない。

 誰もがすぐに決断出来るわけではないのだ。


「紹介したダンジョン【黒髪姫の薔薇のお城】に今日行かない方も、明日も私はここに来ますので、楽しみにしていて下さい」


 だから、次に繋がるよう頭に刷り込む。


 しかし、姫とミッツには時間が残されていない。

 即決してもらわなくては困るのだ。

 そこで《AIDMA(アイドマ)の法則》最後の“A”・Action(アクション)。

 行動。行動段階の決断実行。

 迷っている人の背中を押して、購入に踏み切らせる。

 不安を払拭し、今がチャンスだと、決断の時だと教えてあげるのだ。


「みなさんの不安は分かります。死ぬことよりも、探索保険が問題なんですよね?」


 ダンジョンでの死は、人生の終わりではない。

 終わりではなく、休止。

 教会に死亡時に出現する墓石を持ち込めば、蘇生してもらえる。

 価格はレベルによって変動する。

 ここにいる一般人なら1Gで十分。

 なので、ダンジョンで死ぬことにそれほどのリスクはない。

 探索保険。冒険者ギルドがダンジョンに向かう人に加入を勧めている保険。

 保険と言っても、死亡や怪我に対して見舞金が支払われるようなものではなく、規定日に帰還していなければ救出に来てくれる制度。

 これが高い。

 特に、成功報酬は中堅の冒険者でも厳しい値段だ。

 一般人に払えるはずもない。

 家族全員奴隷に身を堕としても、全く足りないだろう。


「大丈夫です。今すぐ私と一緒に行けば、もし死んでしまっても誰一人欠けることがないように私が責任をもって墓石を回収いたします」


 しーんと静まりかえる。

――ダメか……

 会心の戦略を立てたと自信があっただけに、ミッツは崩れ落ちそうになる。

 もう立て直す時間はない。

――ここで勝負をかける。

 多少強引でも良い。クロージング(顧客との契約締結)(物理)でも、何人か連れて行こうと動こうとした時――

「何持ってってたら良いんや?」

 先ほどから率先し、質問や反応をくれていた、関西弁らしき言語を操るおじさんが決断する。

「特に何もいりません。素手でも倒せます。木の棒とか何か農具でもあれば良いんじゃないでしょうか?」

「分かった。準備してくるから、ちょっと待っといて」

「だったら俺も行く」

「俺も!」

 そうして、その場にいた30名程の男の人は全員連れて行くことになった。



――大成功だ!



 集客活動はこうして、ミッツの戦略で成功を収めたのである。



「と云う感じで、ダンジョンにこれだけの人を連れて来たわけですよ」

「ミッツ、凄ーい」


 大凡30人の一般人を【黒髪姫の薔薇のお城】に引き連れて帰ってきたミッツは、危険なので地下には降りないように言い含め、良い感じに【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】狩りが盛り上がっていることを確認してから、姫に報告していた。

 姫は、ダンジョンコンソールに噛り付きで1階の様子を見て、大変上機嫌だ。

 ミッツはそれに、達成感と充足感を覚える。

 ただ毎日繰り返し働いていた時には、てんで感じなかった感情。

 有り体に言って、幸せとはこのようなことを言うのだろう。と沁み沁みと感じていた。


「なんとかここまではスキーム通りに進捗してますが、必要なダンジョンエナジーが溜まったわけではないので、もっとドライブかけて次のフェーズに移行します」

「うん。なんだか良く分かんないけど、ミッツにお任せだよ!」

「ありがとうございます。行ってきます」


 ちょいちょいミッツがカタカナ用語を挟むのは、仕事が出来ている感を出すブラックあるある。

 だがしかし、姫は笑顔で華麗にスルー。

 スキームは枠組みのある計画、ドライブは一層努力して前進する、フェーズは発展する段階のことで、『予定通りにすすんでいるので、ダンジョンエナジーを入手する次の段階に進みます。もっと頑張りますよ』と、こういうことだ。


「で、ミッツは何処に行くの?」

「今のままではペイ出来ませんので、私がアプローチしてきます」


 オンスケ(スケジュール通り)で回り、エンジンがかかっているミッツは、カタカナ用語が止まらない。


「もー! だから、何するのって聞いてるの!」


 だが、流石に説明無しでは姫に通じない。


「ペイは資金を回収する、アプローチは顧客に対し商品やサービスの販売を前提として近づくという意味です。要は、今のままでは【跳び掛かる硬貨(クリーピングコイン)】が弱すぎるので、一般人と云えどもダメージが少なすぎダンジョンエナジーが増えないので、私が直接戦ってきますということです」

「初めからそう言ってよねー」


 調子に乗っていたミッツは怒られてしまう。

 だけれども、『微妙なニュアンスとか違うような気もするから、使うのはやめられないんだよな』と、ミッツは改まるつもりはないらしい。

 なにより、ぷっくりと頬を膨らませて怒っている姫が可愛すぎて、ミッツにはご褒美にしかなっていないので抑止にはなり得ないだろう。


「ミッツなら大丈夫だと思うけど、気をつけてね。生き返らせたらお子様ランチたべれなくなっちゃう」

「お任せください!」


 力強く言い切るミッツ。

 姫もそれに笑顔で応える。

 ミッツの蘇生コストは1回10DEと確かに高い。

 ここまでうまく進捗しているのに、死んで終了なんてことになってしまったら悔やんでも悔やみきれない。

 また、姫にも頼りにされていることで気合いが入る。

 ミッツが死んでも、お子様ランチを諦めて生き返らせてくれるというのだ。

 仕事で必要にされているというのは幸せだ。ミッツはまたも幸せを噛みしめる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。