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切り裂きジャックと紅いドレスの少女

ジャックは頭を悩ませた。


理由は二つ。

1つは、次の殺しのターゲット選び。

もう1つは……


「♪真っ赤に染まれー♪

♪真っ赤に染まれー♪

♪黒いコートも白いドレスも真っ赤に染まれー♪」


目の前に座っている物騒な唄を歌う紅いドレスの少女に自身が切り裂きジャックだとバレたのだ。


原因は、数時間前に遡る────






──J and E dansant──








今日のジャックは白昼堂々犯行に及ぶつもりだ。

季節は春。

だが多少の寒さが残り、今日は白い息が出る位の気温だ。いつもの黒いコートを羽織っていても誰も違和感を感じないだろう。


ジャックがメイリーンという女性を殺してから半月が経つ。あれから何度も殺した。事のあとに臓器を抜き取ることも何度かあった。


今日の獲物を探し、目だけで辺りを伺う。

が、彼の気に入った人物はいないようだ。

そのまま帰ろうかと思い、回れ右をして自宅に向かおうとしたときだ。


本当に微かな叫び声───女性のものだと彼は瞬時に判断した。それを聞き、居ても立っても居られる筈がなかったジャックは声の主を探すために走った。


暫く走ると、少々広めの路地の奥。そこは行き止まりだったが、目の良いジャックにはそれが見えた。

薄暗いそこで、二人の男女がナニかシている。


男は平均よりも大柄で立派な顎髭を蓄えているが、その頭頂部は少々寂しい。身なりは白いシャツに緑のベスト、下にはなにも履いていない。


対して女性は、艶やかな黒髪が印象強い。恐らく美女の類いに入るだろう。しかし、その身なりは、髪に会う黄色いドレスは無惨にも引き裂かれ、その豊満な果実が露になっていた。スカート部分も引き裂かれ、白い太ももや下着が露になっている。


そして、これ以上の説明は恐らく不要だろう。

強姦だ。あの女性は強姦されている。ヤられていると、本能的に理解した。


ジャックは迷わず路地を突っ切る。

そして二人の目の前で立ち止まる。

それに無理矢理にでも気づいた強姦魔と被害者。


「なんだてめぇ!?何しに来やがった!」


強姦魔は目を血走らせ、ジャックを睨み付けた。


「お願いです!助けてください!!」


被害者は涙をめに浮かべ助けを請う。

当たり前だ。事の被害者には哀しみや恐怖。最悪、死が植え付けられる。


「別に、ただ家までの近道を通っただけだ」


ジャックは息するように嘘をついた。

勿論、ジャックの目的はどちらか一人……いや、二人を殺すこと。家に帰ることじゃない。


「なら、さっさと通れよ!俺はこれから日課を済まさなきゃいけないんでね、ヘヘッ」


と、男は不気味に嗤う。


間違いない手慣れた強姦魔だ、とジャックは思う。

この男は確か一昨日の新聞で読んだ気がする。

確か小さい自分の記事の上に大きく取り上げられていた。

指名手配犯だ。名前は確か…………………忘れたな。

まあ、そんな事はどうでもいいさ。


「ああ、悪いな。それじゃ、遠慮なく…………そいっと」


ボグッと鈍い音が路地裏に響いた。

ジャックは一度男の後ろを通るフリをして、背後から拾った煉瓦で後頭部を殴った。


しかし、さすがの図体だ。と、感心してしまう。

普通の男ならば、後頭部を鈍器で殴られれば一撃であの世行きの筈。打ち所が悪かったのか原因は定かではないが、男は倒れなかった。

膝をつき、「うぅ…ぐうぅ…」と唸っている。


「五月蝿い。眠れ」


と脚に力を込め、男の顔を踏み潰す。

鉄板仕込みの革靴で。

踵部分がこめかみにめり込み、そのまま眼球、眉間に血が流れる。

死んだか、と確認するために男の首の付け根に指を当てて脈を確認する。次に血に濡れた瞼を開き、指を数回鳴らす。


───反応がない。死んだな


「反応がないな。死んだか……」


チラリと後ろを振り向くとガタガタと震える半裸の美女。相当の恐怖を植え付けてしまったのか、立ち上がろうともしなかった。


ジャックは表情を変え、満面の笑みで女性に微笑んだ。


「大丈夫ですか?立てますか?」


と、手を差しの伸べる。

それをみて安堵したのか胸を撫で下ろし、片腕で胸を隠して手を伸ばす────が



ぐ…… グチャリ────



路地裏に聞き慣れない音が響く。

それもその筈、ジャックの伸ばした手は美女の手ではなく、目玉を刺していた。


「ぃ!─────」


指を引き抜き、もがき苦しむ女を眺め、自分の指を眺め、暫しそれを繰り返す。


自信の指に滴る真っ赤な血液、地面に落ちる血液、転がる眼球。


やがて女は動かなくなった。

強姦によるストレスか、もしくはジャックのしたことによるショック死かそれは解らない。

だって屍は語らないのだから─────


ジャックは家に帰るためそのまま足を進めた。


カツ、コツ、カツ、コツ


革靴の乾いた音が路地に響いた。


























ピチャッ────ピチュ──────



明らかな違和感を感じた。

此処に生きている者といえば、ジャックただ一人。

もしや誰か感づいて路地に入ってきたか?


そう思い、懐に手を入れナイフを取り出して、勢いを付けて後ろを振り向く。

するとそこには──────



「やっぱり血のパックは良いわよねぇ…貴方もそう思うでしょう?」


紅いドレスの袖を捲り、死体の血を自らの腕に塗る奇妙な少女がいた。

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