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青ノ概念-弐-  作者: Suck
第一章 真っ白な殺意 -ワズキング・ガブリエル-
7/8

7.I'm Ace

唇に触れると、指が赤くなっていた。

それは自分の身体から出た生きている証。


身体に聞いてみる。


どうやら死に向かっているようだ。


頭に生えていた毛は全て抜け、気持ちの良いほどツルツルな頭皮が覗く。

黒眼は灰色に燻み、至る所から血液が溢れ出す。



「もう死ぬのか...」



病室の一角で、彼は呟いた。

身体が壊れてきているのがひしひしと伝わる。気を抜けば崩れてしまいそうなほど。



...

......

.........


「あ〜テスト散々だっなぁ...」


陽気な風が吹くある日の午後。黒のリュックを背負ったガブは湿っぽい表情をして帰路についた。


「...どうだった」


ベンチを通り過ぎた瞬間、聞き慣れた声が耳に入る。振り返ると、ワズキングが小説を読みながらベンチの上で脚を組んでいた。



「先輩...ッ!!何で学校にいるんですか?」


「たまには日光に当たらないと身体に悪い。と言っても、空には黒と赤しかない訳だ」


「先輩〜!!テストダメでした!!慰めてくださいッ!!」


彼女は主人に縋る犬のようにワズキングに駆け寄った。鬱陶しそうな顔をしてワズキングは本を閉じる。


「...日本街行くか」


「お!!ラーメンですね!!あそこの味は無類です!!早く行きましょう」


彼女は心の昂りを抑えきれず、彼の周りをピョンピョンと跳ねる。



ガブの高校から蒸気列車で十数分。日本風の出店が連なったラーメン街へ到着した。


「おぉ〜色んな店がありますねー。豚骨、醤油、塩、味噌...迷いますね」


「俺は豚骨一択だ。ガブは」


「んー、私は味噌が食べたい気分です」


「じゃあ俺こっち入るから」


「そうですね。せっかく専門店があるので...。後でここに集合しましょう」




2人は別々の店に入る。

味噌ラーメン専門店はカウンターと丸椅子だけのいたってシンプルな内装だった。


「ったく...慰めてって言ってるのに別々に入ったら喋れないじゃないですかぁ...ッ!!」


彼女はぷりぷり怒りながら椅子に腰をかけた。隣の人を一見すると、どこかで見たことのあるような顔。


(うわぁ〜、ロリコンにもてそうな顔。でもどっかで見たことあるんだよなぁ、金髪のツーサイドアップなんて今時してる子あんまいないし...)


「...何?」


その女性は気性の荒さを声色に乗せてそう聞いた。いきなりメンチを切られてガブは萎縮する。


「あ、いえ。た、大将味噌ラーメン!!」


「アイヤァァア!!!」


大将の独特の掛け声が店内に響く。

驚いたガブを見て、女性が


「ここの大将の奇声は見ものだ」


と呟いた。


「よく来るんですか...?」


「たまに。嫌なことがあった日は来てる」


(...ッ!?)


気づいてしまった。彼女の腕に糸が×の字に幾つも縫われていることを。


最悪だ。


(嘘!?紅鳶の連隊の幹部じゃんッッ!?やば、どうしよ殺される...。でも私が平凡すぎる顔なせいかリュトラ社ってことはバレてない...!!よしこのままゆっくりフェードアウトしよう)


「名前は」


「あ、ガブリエラ・ステラです」


つい本名を言ってしまった。


(うわっ!!間違えた!!)


「そう。名前負けしてるな。私はルーナ」


(あはは...そんな知名度ないの...)


身分がバレなくて安心する反面、自分の知名度の無さに少し落胆したガブであった。


(でも名前が上がらないってことは隠密部隊として役目を果たしてるってことだよね...クリーピーウッドですらそこまで有名じゃないし...)


一方その頃、ワズキングもガブと同じような状況に陥っていた。しかし此方は互いに素性を知らないため、ガブみたいに危機感はなかった。



「僕は軍人オタクなんだけどね。最近ある運命的な出会いを果たしたんだ!!」


「へぇ」


心臓を揺さぶるかのような激情に乗せて男は語る。彼の名はアダム・ヤング。飄々とした風貌だが第一訓練を生き抜いた謎の多い男だ。


「なんとあのルーナ・スカーレットだよ?凄くない?僕は恋をしてしまったようだ...あぁ、今も彼女がどこかで何かをしているって考えたら...ゾクゾクする!」


「ルーナ・スカーレット?少しでも気にくわないことがあれば暴力に出るキチガイだって聞いたぞ」


俺も人のことは言えないがと自分に突っ込む。


「それがまた良いんだよ...」


彼の目は前髪に隠れて見えなかったが、恍惚とした表情をしていた。ワズキングは呆れて目を細め、少しのびた豚骨ラーメンを啜った。


(味があるものが食べられるなんて...贅沢なもんだな...)


ふと、そんなことを思ったワズキングであった。

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