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青ノ概念-弐-  作者: Suck
プロローグ
6/8

6.Nutcase

とある港町。

ここではしばしばリュトラ社と白軍の青保護部署が小競り合いを起こしていた。


今回もまた、リュトラ社が青と偽って加工した鉱石を国外へ輸出しようとしている所だ。


「ただの美術品ですよ。青とは何も関係ありません」


「検品を受けていない美術品を輸出することは禁じられている。船内を見せてもらおうか」


黒のスーツ姿の男達とコートの男達が船の前で言い争っている。辺りには緊迫した空気が張り詰めた。


「おいおい。皇帝の犬が何の用だ?俺たちの邪魔すんなよ」


「なん...だと?」


スーツの男達をわけて病的なまでに色白の青年が顔を出した。

髪も金と白が混じったような色で、堀が深く目の下は赤く腫れている。


首筋には血管が浮き出ていて、今にも貧血で倒れそうな男だった。


しかし、シャツの上からでも無駄のない筋肉が盛り上がってみえる。


「貴様誰だ!!ガキが来る所じゃねぇぞ!!」


白軍の1人が彼の煽りに乗った。


「ただの清掃部だ。...名前はシルバーマン・ワズキング」


「...清掃部?そんな奴が関わってんじゃねぇよ早く帰れ」


「冷たいねぇ。どれ、この問題解決してやろうか?」


「あ?...ッ!?」


次の瞬間、流星のような速さの空手が男の眉間に撃ち込まれた。


耳元で巨大な鐘を鳴らされたような衝撃で脳が揺さぶられ、男は声も出ずにその場に気絶した。


「何してんだッ!!」


僅か数秒、彼は数人いた白軍の全員に拳の嵐を降らせる。


反撃する間もない。ワズキングの拳に迷いは無かった。


6人の白軍が絶命する迄に1分もかからなかった。


...

......

.........


「はい解決」


夜の冷たい風が一行を撫で、その静けさに仲間の社員でさえ怯えていた。


「や...やり過ぎでしょ...」


「強い...」


「ほら、早く商品詰め込んで出航しろ」


彼の低い声に社員はひとつ返事で作業に取り掛かる。


トール級でないにしても白軍というだけで戦闘に関してはエリートだ。その彼等でさえ手も足も出ない相手。


ワズキングは一人の男の手元を見て、ニヤリと笑う。


「おっ...通報したねぇ。来るかなトール級...」


ゆっくりと近づき、トランシーバーごと手を踏み潰した。

機械の潰れる音と骨の砕ける音が嫌に響く。


「ガブ〜掃除よろしく」


「はいはーい!」


『ガブリエラ・ステラ』


清潔感のある見た目にショートボブの黒髪。学生生活をそれなりに堪能してそうな高校生といった風貌だ。

何にせよ、こんな仕事には関わっていそうではない。


ガブリエラは清掃用具と大きな瓶を持って死体の山の前に立った。


瓶の中にある液体を遺体に振りまくと、まるでマジックのように皮膚が溶けていく。


酷い異臭と化学反応の煙が辺りに広まり、息を吸うのも苦痛になった。


「先輩!マスクしました?」


「してねぇ...はやくくれ」


「あ、どうぞ」


彼女はワズキング達が始末した人間の遺体を処理し、一切の証拠も残さない。明確な痕跡がないため、白軍も強く踏み込むことはできなかった。


「あー!!私明日試験なのにー!!早く終わらないかなぁ」


「もう終わるじゃねぇか...」


二人は化学反応で遺体が全て溶けきるまで防波堤の端に座って待った。


「先輩微分・積分わかります?」


彼女がワズキングの顔を覗き込む。


「あー、お前高校生だったなそういや...。その辺はわかんねぇわ...居なかったし...」


「あっ...」


彼女は口を閉ざした。この話題はワズキングにとってNGだ。


(私の馬鹿ッ!!!...先輩はその頃病院だったじゃないか...嫌な過去思い出させたらダメじゃん...ほんと馬鹿...)


急にしおらしくなってしまったガブリエラに、ワズキングは気を使って「わかんねぇけど余裕だろ。ガブなら」と励ました。


「ありがとうございます。へへ、カップルみたいですね」


「どこが...?いやマジでどこが?感性に付いていけねぇ」


失笑した彼に安心して、ガブリエラも夜に溶け込むシロップのような煙をぼーっと眺めた。


「学校で習ったんですけど赤の物質の外には星っていうのがあるらしいです」


「星?」


「はい。星です。無数にある星の一つ一つが私たちのいるこの世界と同じなんですって」


「そりゃ奇妙だな。ま...いつか見れるといいな」


「先輩が見たいなら私が学者になって発見しますよ!」


「ふっ...楽しみだ」




...

......

.........



「イヴ...?」



「...大丈夫?美寿」


前に会った時より大人びて見える。睫毛は長く、顔も上品に整ってきている。


「うん。なんとか...いたた」


「チェーカから聞いたよ。トール級目指すんだって...?」


「...そう」


イヴは美寿のベッドの端に遠慮気味に座った。


「実は私、ユグドラシルの種を所持するように言われたの」


彼女はかつて、白軍序列4位として活躍していた。能力比では白軍内でもダントツのトップだ。緊急時、最後の砦として能力を振るってきた。


白軍が再び彼女を欲しがる理由。それは白軍に危機が迫っているということだ。


「...美寿は、マザーの存在を知っているよね?」



「うん」


「マザーが発した赤の物質を吸うと遺伝子が再構築されて、特異体質になる。...それに対抗できるのが、ロストテクノロジー」



ヘイのシースナイフ、美寿の鉄鬼三日月、チェーカのエステルの涙、イヴのユグドラシルの種。


これらは第三次世界大戦の際発明された驚異の兵器である。



「世界の構図は二つに別れている。青を復活させるか、現状を維持するか...ヘイ達は今マザーを殺して世界に青を取り戻そうとしてるの」


「ヘイ達が...!?」


チェーカに姿を見せなくなったのはそのせいか。美寿は納得した。




この対立構造は何を意味するのか。

それぞれの思惑は何を語るのか。



美寿がそれを知るには、まだ時が経っていなかった。

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