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青ノ概念-弐-  作者: Suck
プロローグ
3/8

3.Catch 22

3.Catch 22



迷宮の中は色が失われていた。

ライフルに付けたライトだけが頼りだ。ジメジメとした気持ちの悪い空気とたまに鳴り響く水滴の音。


4人の息遣いと足音がやけに大きく感じる。


美寿とリズの他、老兵、ガタイが良く髭の濃い兵士で行動していた。


ミストは既に1人で迷宮に突入しており、アダム・ヤングは外で兵士の女性と言い合いをしていた。





「僕!!君のファンなんだっ!!よ...よかったらサインを...」


「は?お前誰だよ...!!何で私のこと知ってんだよ」


口調の荒い女性はブロンドのツーサイドアップを揺らして彼に噛み付いた。


「だってあの紅鳶(べにとび)の部隊の紅一点!!ルーナ・スカーレットじゃないか!!僕、軍人マニアなんだ!!」


唾が飛ぶ勢いで想いをぶつけるアダム。しかし彼の背中には既に変質者のレッテルが貼られていた。


「...きも。うぜぇな。私はもう行くから。付いてくんなよ」


彼女はそう言うとアサルトライフルを担いで早足で迷宮の入り口へ向かう。

蟻を見るかのような蔑んだ目をされたアダムであったが「まっ、待ってよー!!!」と懲りずに後ろを追いかける。


「付いてくんなバカッ!!!」


まるでストーカー気質のファンから逃げるアイドルのようだ。教官は深い溜息を()きながらその様子を見ていた。



...

......

.........


「親玉って...どんな奴だと思います?」


リズが隣を歩く老兵に聞く。

荒い石畳の床がやけに歩きにくく感じる。


少し間あいてから彼は皺くちゃな口を開いた。


「わからぬ。ただ、人の形をしているだろう...」


「ひと...?」


「マザーが放出した直後の赤の物質を身体に取り入れると、遺伝子が分解され再構築される。この迷宮は一種の檻じゃ」


突拍子もない話に、彼女は言葉を失った。


「何故そんなことを...?」


「昔、皇帝の部屋を盗聴したことがある。彼の元には逐一赤の物質に関する情報が流れてくるんじゃ」


老兵が次の言葉を発そうとした時、辺りの空気が急に張り詰めた。


その異様な【変化】に4人は体勢を低く構え、暗闇の奥を睨む。


「しっ...奥に何かいる」


「...先に進入した人かも...」


ライトから溢れる光が黒いそれを照らした。残念ながら、リズの甘い願望とは程遠いものがのさばっていた。


体長1.5mほどの二足歩行。まるでプロセスチキンのような体型で、脚はヒクイドリのようにがっちりしている。


皮膚は教官に見せられたヒルのようなブヨブヨした肌質で、顔は無く、目や鼻は退化していた。


そして恐ろしいことに、ポッコリと出た腹に全てを飲み込むほど大きい口が開いていたのだ。


ヒル同様、粉砕機のような歯が円を作って何重にも組まれている。


「何だあの化け物...」


一瞬の硬直の後、ソレは金切り声をあげながらこちらに突進してきた。

ずっしりとした脚が地面を掴み、腹の大口がガバッと開く。


全員がトリガーに指をかけ、一心不乱に発砲する。1秒に何十という銃弾がソレの皮膚にめり込み、赤い血を四方八方に撒き散らした。


恐怖と危機感でトリガーから指が離れない。ソレが絶命するまで、銃弾は放たれた。


老兵はAK-74、ヒゲと美寿はM4A1、リズはM9A1のデュアル。


ソレは雨のような鉛玉を喰らっても(なお)こちらへ進行してきた。発砲音を()き消すような金切り声は耳は(つんざ)きそうだ。


20、10mとソレは接近してくる。誰も撃つ手を止めなかった。


残り5mほどの手前でソレは絶命して前に倒れこんだ。


蜂の巣から鮮血がどうどうと流れ、一瞬で血の池が出来上がる。


「ヒルの亜種か...?」


「いや...違うぞ...」


老兵がヒゲの言葉を否定し、真っ赤になった死骸のさらにその奥を覗く。


丸いライトの光を埋め尽くすほど、ソレは大量にいた。


何十発も撃たなければ死なない硬い化け物が何匹もいる。


決断は早かった。



「逃げるぞ!!!」


ヒゲの発した声に、3人は急いで踵を返して逃げる。


後ろを振り返り弾幕を張りながらひたすら闇の道を走る。今迄見たことのない奇形の生物を目の当たりにして脚が竦みそうだ。


「クソ...ッッ!!教官の言った通りホントに生きるか死ぬかだなっ!!」


「...!?」


刹那。


美寿の頬を何かが掠った。

流れ弾ではない。何か(ぬめ)りとしたモノだ。


「...ぐぁ...ッッッ!!!」


軽口を叩いていたヒゲの情けない声に振り向くと、彼の顔に教官が見せた例のヒルが食いついていた。


ヒゲは倒れこみ、もがきながら手でヒルを剥がそうとするがヌルヌルして上手く掴めない。


「待って...!!」


ナイフを取り出した美寿は屈んで顔とヒルとの接触部を見る。


(歯が皮膚に食い込んでる...!!)


大量の血が溢れ出し、ヒゲの身体は痙攣し始めた。急いでナイフの刃をヒルに切り込み、絶命させようとする。


だが、ヒルは取れない。

まるでトラバサミのようにヒルの口は彼の顔の肉にがっちり食いついていた。



「美寿!!あいつらが来る!!!」


リズの切羽詰まった声。2人の弾幕ももう持ちそうにない。奴らはそこまで来ている。


彼女に決断が迫られた。








「小娘...!!!棄てる勇気を...ッッ!!!!」


老兵の放った荒い言葉は美寿に突き刺さった。



助けるということは、それを棄てる覚悟が無ければならない。


冷静に。


冷静に。


冷静に。


この状況で、どうすれば最善か。













「...ごめんなさい...!!」


そう言うと、彼女はリズ達の元へ急いだ。暗闇で分からなかったが、天井を照らすとヒルが(うごめ)いていた。


ずっとこの下を歩いていたのだ。


一匹のヒルが彼女の顔めがけて飛びかかってきた。瞬時にナイフ逆手にとってヒルの口に突き刺す。


鼠のように鳴いて絶命したそれを振り落とし、彼女は無我夢中で走った。


後ろは振り向かず...


後ろを振り向いてしまえば、後悔するだろう。


肉塊に群がる奴らと、身近に迫っていた死の恐怖に。








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