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青ノ概念-弐-  作者: Suck
プロローグ
1/8

1.Exceed my enemy

1.Exceed my enemy


青を見ると、心が100グラムくらい重くなる気がする。


深く、暗く、深淵に続いているような群青は、人々の心臓をすっと握って引き込もうとした。


「青」という存在は、世界に少し落ち着きを齎していたのだ。

だが、それを持ってしても、人間の業の深さには敵わなかった。


第三次世界大戦。


過去最大の全世界民族紛争は一つの色を消滅させた。


原因は不明。


それから時が経ち、青という存在は御伽噺のように語り続けられていった。


存在しない色を捜すというのは、ロマンのあることだ。探求心に支配された者達は、世界のどこかにあるかもわからないその色を捜して地球を歩いていた。


その概念すらも知らずに...。









___

______

_________




「我々の役割はただ一つ。青と思われる色を顧客に引き渡す。一種の株取り引きである。その色の将来的な価値を売るのです」


焦げ茶色の円卓にはスーツ姿の役人が8人ほど座り、モニターに映し出されたビジネス資料に顔を向ける。窓にはブラインドがかけられ、茜色の陽射しを防ぐ。


部屋の隅の教卓からマイクでプランを説明する女性は、この<ブルーホールドコーポレーション>の社長。


ブロンドの前下がりショートボブ。

片側を耳にかけ、もう片側は前に垂らしている。


知的な眼差しで円卓を見回し、それはあたかも「自分の計画を全てのめ」と威圧しているかのようだった。


《フライシュマン・リュド》

彼女は青を探究し、それを商業的に活用しようと考える野心家であった。

自分の計画の邪魔をする者は即座に抹消することから、「冷血社長」と呼ばれている。


役人の1人が控えめに挙手して質問する。


「フライシュマン社長。その青と思われる色を持つモノの回収は専門会社に委託するのでしょうか」


「質問に答えます。旧ロシアに居を構える専門会社リュトラに委託します」


「ロシアなのにギリシア語...」


「他に質問は」


彼女は顔色ひとつ変えずに、円卓に座る役人を一人一人見た。突き刺さるほどの鋭い視線。やはり圧力がある。


「はい。ひとつ考慮すべき点が...。近年再結成された白軍に関してです」



彼女は眉に皺を寄せて「...続けて」と言った。


「白軍は独立した組織へと生まれ変わり、近年稀にみる成長を見せています。リュトラとはライバル関係にあたり、その実力もリュトラを凌ぐほどです」


「なるほど。では、経営戦略をここに提示しよう。...リュトラ構成員に危害が及ぶようであれば、白軍を暗殺する」


淡々と話される恐ろしい計画に、役人ですら固唾を飲み込む。


白軍はリュトラ会社とは異なり、青を商業的な目的で使用することを禁じる組織である。


フライシュマン・リュドにとって彼らは経営の邪魔でしかなかった。


______

____

__





「お母さん...お父さんは?」


少女は切られたハンバーグをぎこちない手つきでフォークに刺し、口に運んだ。


「お父さんね、今日もお仕事なの」


「お父さん偉いね」


食卓にはランプの淡い灯りとディナー。グレイスは今年で4歳。最近は歌を唄うのにハマっているらしい。


見たことのない色の瞳は、普段外では見せられない。


母チェーカは彼女のコップにミルクを注ぐ。


白軍再構成に伴ってヘイ・ロウは再び青と関わり合う生活に戻った。


白軍の序列制度は複雑化し、3つのクラスと順位によって格付けされるようになった。


正直、戦いが無くなった生活は少し退屈。そうチェーカは思っていたが、グレイスの成長を見るだけで彼女は幸せだった。



ディナーの後、皿を洗いながらチェーカはヘイに不満を漏らした。


「あのバカ...いつになったら帰ってくるんだ...」


蛇口から流れる水は、満ち足りない心のように冷たい。


(もう一年も帰ってきてない...グレイスはあなたの顔も覚えてないかもしれないのに...)


たまに遊びに来るイヴのほうが懐かれているほどだ。

家庭の心配もあるが、「ヘイ・ロウ」が一年も自由に動けなくなる白軍の状況が気になって仕方がなかった。



過去にいたメンバーのミリオン、ブラックマスク、他にも期待のエースや大物が組織に入ったと聞いた。


巨大化した組織は今どんな事件と関わっているのか...。







____白軍本部



バベルの塔を彷彿とさせる荘厳な建物。青を求める者達はここで日々働いていた。



浅黄(あさき) 美寿(よしず)訓練兵!!」


「ハイッ!!!」


6面が全て大理石に覆われている部屋で、総勢20名の訓練兵が教官に名前を呼ばれていた。


「君たち20人はまだ白軍のどのクラスにも振り分けされていない。謂わば真っ白だ。これから実力に応じて君たちを各クラスに配属していく。それを見極めるのはこれから行う1ヶ月間の訓練の成果のみだ。気を引き締めるように」


「「「「ハイッ!!!」」」」


「以上だ」


そう言ってオールバックの強面の男は訓練兵の間を通って部屋を後にした。


扉が閉まった瞬間、訓練兵の顔が一気に綻ぶ。


「どのクラスにしようかな...」


「いやいやまず1ヶ月耐えきらないとな。この訓練で9割が脱落するらしいぜ?」


「トールはやっぱ無理だろうなぁ」


「ぁぁぁあ!!!頑張らないと!!!」




...

......

.........


周りが騒つく中、黒髪に髪飾りを付けた美寿(よしず)が、隣の小柄な赤髪の訓練兵に話しかけた。


「クラスって何ですか?」


鼻の付け根に雀斑を散らした可愛らしい彼女はぎょっと驚いてこう言う。


「え!?知らずに今までの実習受けてたの?」


「ごめんなさい。話を聞くのが苦手で...」


どうやら座学で説明されていたらしい。美寿は反省の意を顔に浮かべず彼女から再び説明を受ける。



「まずはクラス《メーティス》ね。これは事務や経営を握る部署なの。本部には多くの事務員さんがいらっしゃるけど、彼らは全員エリート中のエリートよ。次にクラス《ミリシア》。複数で敵を排除したり事件の調査をする部署ね。基本は隊長の指示に従うの。そしてクラス《トール》。まぁ、ここに配属されるなんて殆ど有り得ないからね...」


「何でですか?」


「今クラストールに配属されているのが5人。彼らは世界でも恐れられている武術、剣術、戦術の達人。彼らの枠にひよっこの私達が行ける訳ないよ」


(すごい説明してくれる。この子絶対良い子)


美寿は彼女の説明をほとんど聞かずそんなことを思っていた。


「...私はトールかな。それ以外は有り得ない」


その言葉を発した瞬間、周囲のざわめきは嘘のようにしんと静まった。


「えっ、ちょっと...何を目指して...」


彼女は戸惑いの顔をしながらそう聞く。一呼吸置いた美寿は、声に力を込めてこう言った。











「私は、トールクラス序列3位のヘイ・ロウを超える...!!!」

再構成された白軍に牙を剥くリュトラ。ブルーホールドコーポレーションという謎の会社。新規に参戦するエースにヘイ・ロウを越えようとする浅黄美寿。

新キャラや前回からのキャラがどう動くか楽しんで頂ければ嬉しいです。

青を消した赤の物質の真相にも迫る新章です。

よろしくお願いします。

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