プロローグ
僕たちの町にはある都市伝説が流れている。
曰く、黒い化け物が現れ人を殺す。
勿論ただの都市伝説だ。そんな話があるにも関わらず子供たちは遅くまで塾に通い、大人たちは残業して、店は遅くまで開いている。当たり前のことだけど。
ただ、この町は少し過剰なまでに夜は賑わっている。まるで都市伝説を否定するかのように。
そう思うのはたぶん僕が世界を穿った見方で見ているからなんだろうけど。
別に深い事情が有るという訳では無く、退屈なこの世界から抜け出すことを夢見ているだけのこと。
・・・・・・なんかすごい痛々しさを感じる。
僕ー杵島 裕也はとりたて説明することの無い高校生だ。よく小説とかで勉強もスポーツも出来て「この世界は退屈なんだ」とか言うキャラがいるけどそういう訳でも無い。
ってかそんなイージーモードな人生は羨ましい。変われるものなら変わりたい。
「おーい。授業終わったぞ祐也」
そんなことを考えていたら学級委員長で幼馴染みの黒埼 雅人が声をかけてきた。有り体に言えばこいつがそうなんだけど。
黒埼 雅人―定期テストで学年一位を常に誇り全国常連である我が校のバスケ部の主将である男。まさに人生イージーモード。いや、こいつみたいになるくらいなら今のままで良いか。
「お、サンキュー雅人」
それでもお礼は忘れない。
「サンキューって……」
雅人は絶句してた。いい加減慣れろ。
「昔のお前は授業を聞き流すなんて信じられません!みたいな奴だったのにな。お兄ちゃんは悲しいよ」
「昔のことだろ」
間髪入れずに返す。我ながら冷たい声で、自分でも少し驚いた。
「そう、か。そうだな」
雅人は少し悲しそうな顔をする。気まずい沈黙が訪れる。
「黒埼君。ちょっとお願いが有るんだけど」
クラスの女子が話しかけてきた。雅人は一瞬こちらを見る。
軽く僕が頷くと雅人はその女子生徒に付いていった。それを見届けて帰宅の準備を始めた。
うん、いつもの日常だ。
で、どうしてこうなった?
目の前に居る真っ黒で輪郭が歪んでいる犬にしか見えない犬以外の「何か」を見ながら呟いた。
単純にあの後、家に帰ってゴロゴロしてた。そして夕飯の材料を買うのを忘れてたから慌てて買いに行きその帰り道だ。不気味で見てるだけで鳥肌が立つ「何か」を見たのは。
無視して道を変えて帰ろう。そう思って体を翻した瞬間、その「何か」は飛びかかってきた。それはもう、反射とか言うレベルだろう。思わず体を逸らしギリギリでかわした。
だけど完璧には避けきれず「何か」と買い物袋が重なった。その瞬間体が軽くなった。そして消えた買い物袋が目に入った。
そしてそれはもう一度突っ込んできた。今度は体勢が崩れてて体が動かない。
あ、死んだ。漠然とそう思った。
「雷矢」
そんな声と共に雷の矢が僕の後ろから丁度僕を避けるように曲がり飛んできた。その矢は「何か」に刺さると「何か」はその動きを止め、砕け散った。
訳も分からず呆然としていると、それまで何もなかったところに一人の青年と一人の少女が現れた。青年は大学生くらいに見える。茶髪で背も高くthe大学生って感じだ。少女は僕らと同じくらいの年齢に見える。と言うより僕らの高校の制服を着ている。
「ねえ、君。急で悪いのだけど少し付き合ってもらって良いかな?」
少女ー桜音 夢花が僕に言った。
「別に大丈夫だよ。桜音さん」
「そう。なら良かった」
そう言って桜音さんは微笑んだ。
その笑顔はとても綺麗で闇に魅いられた気持ちになった。