怪談の小話
「雨の日」
友人宅へと遊びに家を出た。しとしとと小雨が降る日だった。少し近道をしようと森の中へと入った。昔は舗装されていたようだが今となってはもはや獣道のようなそれを一人歩いていく。木が鬱蒼と生い茂り見渡しても緑と茶色のみ、そんなところだった。吐く息が白く森の中に溶けていく。何分ほど歩いただろうか。うっすらと汗をかき始め疲労が軽く首をもたげる。じめじめとした足場を鬱陶しく思いながらふと前を見ると、少し離れた場所に人がいた。女の人のようだ。長い髪をそのまま垂らし、どこを見つめているのか立ちすくんでいる。白い服。そして足元は、裸足だった。こんな森の中で裸足?疑問に思うと同時に足の向きを見て気が付いた。ずっとこっちを向いている。ずっと自分を見ている。髪の毛の間に真っ黒ながら光る目が見えた。そして、一歩踏み出した。
その後は必死に走っていたから覚えていない。気がつくと友人宅で荒い息をついていた。そして右足首に痛みを覚え見ると、成人女性くらいの手形がついていた。どこかで一度転んだらしく体に泥がついている。掴まれたのだろうか。
「妹じゃない」
ふと目が覚めた。そして感じる尿意。時計を見ると3時。まだ寝れるなー、などと思いつつ用を済ませた。さすがにこの時間帯は寝静まっていて自分の家はおろか周りの家からも音は聞こえない。寝る前は少し暑かったが今は少し肌寒さを感じる。妹はいつも癖で布団蹴飛ばしてしまう。かけに行くか。自室へ戻る前に妹の部屋へ足を向けた。歩く度に床が軋み、その音だけがよく響く。妹の部屋の扉をゆっくりと開ける。そして見ると妹は布団の上にいた。なぜか座っていた。なんでまだ起きてるの、その時はそう思った。次の瞬間。妹の顔がこっちを向いた。首から上だけ動いたような奇妙な動きだった。そしてその目は普段見る妹とはまるで別人のようだった。
「ノテエルドナレー」
そう聞こえた。発音が巻き舌気味で聞き取りにくかった。いきなり分からない言語を話したことに驚いていると、糸が切れたような動きで妹が布団に倒れた。駆け寄ってみると、もう寝ていた。
妹になにがあったのだろうか。
数人の友人に聞いたり調べてみたがあの言葉の意味や国も分からない。
「体育館倉庫」
従兄弟の体験した話。夏休み、学校の体育館は鍵が開いていてよく友人と連れ添って遊びにいった。体育館に隣接している体育館用の倉庫にボール、跳び箱、マット、テニス、バドミントン用のラケット等々、たくさんのものが入っており、そこから持っていって遊んでいた。
六時過ぎ。少し日が落ち始め周りが暗くなる、いつもそんな頃に帰る。その日は友人がみんな早めに帰ってしまい、一人で遊んでいた。今日体育館倉庫に返さなきゃいけないのはバスケットボールだけ。すぐに返してすぐ帰ろう。そう思い体育館倉庫のドアを引いた。電気もなく薄暗い上に湿っぽいそこはいつもなにかいそうでビクビクしていた。その日もそうだった。
引き戸を開け、ボールかごにバスケットボールを投げ入れ、すぐに帰るつもりだった。
引き戸を開けると、先客がいた。
三十代ほどだろうか、女性と、もう一人、自分と同じくらいの女の子。親子だろうか。その二人が手を繋いで不安げな瞳でこちらを見た。よく見るともんぺ、と呼ばれるズボン、ボロボロの上衣、そして防災頭巾のようなものを被って。まるで戦時中のような格好をしている。
驚きでバスケットボールが手から落ちていった。それは軽快にはずんで行き、壁に当たって止まった。
と、目の前の親子はいなくなっていた。確かに今そこにいた。服装も、容姿も覚えている。今確かにそこに質感を持って存在していたはず。なのに気が付いたらいなくなっていた。
恐怖感はなかった。なにか、寂しいような、悲しいような気持ちになった、という。




