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■ 第二章 ■  「接触」

「……」

「モンマユウジ……」

(またあの声だ。 一体俺は?)

「待ってる……から……」

(待って……くれ……どこに行けばいいんだ?)


声の主の反応が無くなった。


その闇の中からまた光が広がってきて、全てを照らす明かりになったかと思えばそれは目覚めであった。


(気を失っていたのか……?)

まぶたがそっと開いていく……

暖かなクリーム色の土壁に、木の板を斜めに張り詰めた天井。太い木の梁がかかった吹き抜けが心地よい開放感を演出している。自分の体には布シーツがかけられていて、ここはベッドの上だというのがわかった。自分の額の上には濡れた生暖かい布が乗っている。彼女が看病していたのだろう。

傍らにはテーブルがあってそこにティーセットと木の「たらい」が乗っているのが見える。


「□▽×*+¥……」


その傍らを見たら女性が座っていた。


「だ……れ……?」

「○▽×#&×」

「なに……?」

「×*+○¥・*」


女性は心配そうな顔でこちらを見つめている。

碧眼金髪で肌は白く、肩まですらりと伸びたサラサラの髪が小さい窓を通して差してくる光に当てられて淡く輝いて見える。鼻はツンっと欧米人のように高く整った形をしていた。唇は上唇がややふっくらしていて色気をちらちらと見せている。意志の強いハッキリした眉毛に綺麗にかかった二重の目に蒼色の瞳がまっすぐこちらを見つめている。それほどの美女が目の前にいて自分を見つめているのが信じられない。

「き……きみ……が?」

悠仁は自分が何故ここにいるのかを把握できていなかった。

そして目の前の女性は何かを話しているが、悠仁には少しも理解出来ない。

唇をじっと見つめても何と言っているのかわからない。

女性も困ってどうしようか戸惑っている様子だ。


悠仁は起き上がろうとした。

「ううっ……」

「+&%#!」

体の自由がまだ効かない。

(これは毒……というより麻痺毒だったのだろうか?)

女性は慌てて悠仁に身を乗り出して丁寧に寝かせた。

悠仁は思わず手を伸ばして女性の方に差し出した。

すると、その震える手を両手で優しく包んで握り返してきた。

(まだ体の自由がきかない。ここは彼女に任せよう)

そして悠仁は手を下げてまた目を閉じた。


それからまた暫く眠りだした。


「……」


暫くして目を覚ました。あたりには何かの野菜の匂いがしてきた。悠仁に気が付いた彼女はキッチンから食べ物を入れた容器を乗せたトレーを持ってきた。

卵を一回り大きくしたようなサイズのパンを2切れと野菜スープの入った容器に、5粒ほどのベリーが出された。

小さくカットされた野菜が少々入った味の薄いスープが出されたのでスプーンですくってもらって口まで運んでもらって食べていた。

そして水も少しずつ飲まされていた。今現在は指さえ拳を作る事が出来ない程体中に痺れが残っている。

(治るのにどのくらい時間がかかるのだろうか……)

自分が学生の時、スズメバチに刺された時、その毒が全身を襲って、まる一日寝込んだ事があった。その毒に近い感じかもしれないし、もう少し痺れが強い種類かもしれない。

毒の恐ろしさを再び知った悠仁であった。


その夜も彼女は献身的に額の上の生暖かくなった、重ねた布きれを水で冷やして額の上に乗せ直していた。お陰で熱はだいぶ楽になってきている。熱となると、解熱剤が欲しいな。

悠仁はもう一度辺りを見回した。すると、背負ってきていたリュックサックを発見したので、そこを指差した。

それに気が付いた彼女はリュックサックを悠仁のベッド上に持ってきたので、悠仁は薬の入ったポケットを指差す。

ポケットはファスナータイプになっていた。彼女は何とか開けたりしてみようとしたが、開け方がわからなかったようだ。

悠仁は自然な笑みを浮かべてファスナーの引手を摘まんでこれを横に引っ張ろうとした。

しかし、体の痺れが強くて力が入らなかったのですっぽ抜けてしまった。

だが、それを察してか、彼女は引手を摘まんで引っ張った。すると、閉じていた口が開いたので、荷物が出せるようになっていた。

彼女はこれに対して驚きと喜びの感情を表していた。

「☆▽#!」

「ははは……」

彼女はその開いたポケットの中から次々と悠仁が目的とする物を見せながら確認を取っていた。

そして、目的の解熱剤が出てきたので苦しいながらも腕を少しずつ上げて頷いてみせた。

彼女は笑顔を見せて、私の手の上に乗せて来た。(恐らくケースだから何が入っているのかわからないのだろう)悠仁は歯を食いしばって、両手でケースをゆっくり開けてみた。そして必要な薬の量を出して、ケースは彼女の方に押すようにして差し出した。

彼女はこれが薬であると察して、その解熱剤を悠仁の口に添えてみた。

悠仁は口を開けてこれを受け入れた。そして、水を出してもらえたので、合わせて飲んでおいた。

「ありがとう」

「h%8g&○」

悠仁はまた手を彼女に差し出した。そしてまた手を両手で優しく包まれたので、握り返した。

それから安心したように目を閉じた。


「モンマユウジ……」

(今度は……?)

「私の一番の大切は、あなたの傍にいる事ですよ」

(ええっ?)

悠仁は不意を突かれた。

なんかすごくモヤモヤする言葉を言われてしまった。

(これは一体どういう事なんだ……?)

やはりここで声は途絶えて視界が明ける。

目を覚ますと、彼女は椅子に座ったまま悠仁のベッドに突っ伏すように寝ていた。

そんな様子を放っておけなく、その頭を撫でようと手を伸ばした。

薬を飲む前よりだいぶ楽になってきた。痺れもいくらか治まってきて、熱も下がったようだ。悠仁はゆっくりと身を起こしてみた。

その反動を察知したように、彼女が目を覚まして起き上ってきた。

そして笑みを見せて来た。

(き……綺麗な人だなぁ……) 恐らく、薬を飲んだ後はたくさんの汗が出ただろう。悠仁は自分の服を見た。自分のシャツが汗ばんでいた。それを察知したかのように、彼女はタンスからシャツのような服を持ってきて、悠仁の目の前に置いた。

そして悠仁の着ているそのシャツを脱がせようとしていた。悠仁はされるがままになり、シャツを脱いだ。すると、新しい布で体を拭いてきたので、素直に応える事にした。

悠仁は彼女の用意したシャツを着た。最初は小さいのではないか?と思ったけど、どうやら大きめだったようで、ぴったりのサイズになっていた。

この世界のシャツは多少ごわごわして目が粗いが、贅沢は言っていられない。

悠仁はベッドから降りようとした。

ぐらっ!ときて多少バランスを崩したので、彼女がそれを支えるかのようにくっついてきた。その「はずみ」で彼女に押し倒されるようにベッドに二人して倒れ込む形になった。

(うわっ!)

目前には彼女の顔があった。その顔は紅かった。

「どっくんどっくん……」悠仁の心臓は早鐘のように鳴りだした。悠仁はそんな彼女を見て優しく笑み返した。

まだ続くドキドキ感と止まる時間。

そこへ彼女は目を閉じて悠仁に唇を重ねてきた。それから彼女は慌てて起き上がった。悠仁はそんな彼女の頭を撫でた。互いに見つめ合う瞳。

二人の間に流れる沈黙と恥じらい、そして気持ちの高揚感。

二人の間で言葉以外での会話が交わされる。

言語による言葉は通じない。

そして彼女の発する声が悠仁の耳には届かない。

悠仁から彼女へ声は届くが、何と言っているのかさえわからない。

それでも何とかお互い伝えようとする言葉があった。

悠仁は自分自身の胸元を指差して声を発する。

「ィユ・ゥウ・ディ」

「ユ・ゥウ・ヂィ」

「ウ・ウ・ジ」

悠仁は発音に苦労したが、声を振り絞って自分の名前を発していた。

彼女がその声を聴いて、真似始めた。

「ュ・ゥウ・ジィ?」

悠仁はそんな彼女の口から発せられた、自分の名前の口の動きを見つめていた。

(ユ・ウ・ジ って言っているつもりなのに難しい! ちゃんと伝わっているのだろうか?)

もう一度、「ユ・ゥウ・ジ!」

「ユ・ゥ・ジィ」


たかが自分の名前の発音。だが、正しい発音で発生出来ているのかさえ把握できないのだ。これは努力でどうにか出来る事ではない。血のにじむような訓練を経て正しい発音に近づける事は可能ではある・・が、その発生された自分の発音を聞き取る事が出来ないのだ。


そう。

悠仁は今更なのだが、耳が聞こえない。


かといって、自分は耳が聞こえない、という事を認めて甘えているわけでもない。聞こえないなりに、相手に気を使い、自分で出来ることは自分でやる。

そうして生きているつもりだ。

もちろん、これまで何でもかんでも自分で出来たわけでもない。たくさんの失敗を経て今を生きているのだ。

今はただ自分の正しく発生させられているかどうかを知る手立てはない。

初めて日本語を聞く者にとっては、その今発生させられている発音が正しい発音なのか?と錯覚してしまうほどに・・・

今現在は彼女も悠仁は耳が聞こえない、というのを理解できていない。せいぜいお互いの言葉が通じない程度だと思っていることだろう。

何としても、まずは自分が聞こえない人、と知らせてあげないと勘違いしてしまうかもしれない。そんな罪悪感が悠仁の気持ちを焦らせている。

(何か良い方法は無いものか?)


悠仁は元の世界での日本では約36万人はいると言われている聴覚障害者。この中でも重度の方で補聴器と呼ばれる補助具を装着しても常に雑音が出ている状態になってしまうので着けられない程重い。だから悠仁は補聴器を着けないで生活している。これが災いして「自分が聞こえない」という証明を示せないのだ。

個人差のある障害。単に聞こえないと言っても千差万別だ。悠仁はそんな障害を普段から意識はせず、ただ聞こえないという事が当たり前。という生き方をしているに過ぎない。今更ではあるが、聞こえないという事は「ここ」といういざという場面で不便を思い知らされる。

今現在、いかにして「聞こえないという事を伝えるか?」この問題に直面している。

そのうち気が付くだろうし、成せばなるものではある。

だが、ここは元の平和な日本国ではない。先ほど戦闘になったように、いつどこで襲われるかもわからない「異世界」である。少なくとも安全な場所である事を確認出来ないと、安心出来なくて焦ってしまうものだ。

悠仁は考えを整理してみた。

(まず、ここはどこでこの間の盗賊に襲われる危険は無いか?)

(自分が知っている安全な所は今のところは最初に飛ばされたあの山小屋の結界内しか思いつかない。そこに行けば……)

(この女性に危険が及ぶ可能性を考慮してこの場を立ち去るか……?)


(……この女性の元を立ち去る?)

悠仁の胸がちくっとした。 

あんなに看病してもらって、キスもして・・・彼女の元を立ち去る?

まだ出会ったばかりだ。傷の浅いうちに立ち去るのも優しさだろう。


立ち去ろうか、という思考が頭をよぎったその時の悠仁の顔が不意に「不安」という表情をかもし出す。間をとった悠仁が「不安げな表情」をみせたところをいち早く察知した彼女が口を開く。

「メ・リ・アー・ナ」

彼女はゆっくりと悠仁がしてみせたのと同じようにゆっくりゆっくり1つずつ発声していく。そして悠仁にニコリとして見せた。そしてもう一度!

「メ・リ・アー・ナ」

そんな彼女の笑みでいっぱいな表情を見て、悠仁は自分が「立ち去ろうか」と考えてしまった事を後悔した。自分に向けて素敵な笑顔を見せてくるメリアーナの事を放っておけない。

「メ・ィ・アー・ナ」

「メ・リィ・アー・ナ」

「メ・イ・アー・ナ」

どうやら悠仁は「ラ行」の発声が苦手なようだ。

目の前にいるメリアーナはそれでも自分の名前を呼んでもらえるのが嬉しかった。

メリアーナはそっと悠仁に手を回してこれを優しく抱きしめる。


数分続いた抱擁。

いきなり異世界に飛ばされて続きに続いた悠仁にとっての非現実的な戦闘。これまで平和に生きてきた人が異世界とはいえ、人間だけでも3人も殺めたのだ。平常心でいるのは無理というものだ。その時は必死だったとはいえ、人を斬った時の感触は鮮明に身体に染みついている。もしかしたら夢でうなされそうになるほどに。

そんな手を血で染めた行為を平然と出来る人ではない、というのをメリアーナは感じ取ったのか、命を救われた悠仁に感謝の気持ちを伝えたかった。

でも、悠仁に私の言葉が伝わらなかった。だからどうしようかと・・

でも、さっき私の名前を呼んでくれた。それが嬉しかったんだ。


ただ、今は名前以外の話をしても理解してもらえない状態だった。だからメリアーナは焦らずに悠仁の体が良くなるのを待っていた。

メリアーナがもう一つ気になった事があった。

悠仁はメリアーナの方を向いている時に名前を読んだら反応はするのに、こちらを向いていない時は全く反応が無かった。


「もしかしてこの人……声が聞こえていない?」


メリアーナはそれを確かめようと、窓の方を向いていた悠仁の後ろで、手をパンパンと叩いてみせた。

予想通り、悠仁は無反応で何も変わった様子は見られなかった。

意を決して、メリアーナは叫んでみた。


「わ~~~~~~」


それでも無反応だったので、これで確信がもてたのだ。かといって、メリアーナの気持ちは変わる事は無かった。

(ユウジは私の方を向いた時は「私の名前」が理解出来た。でも一体どうやって??)

興味津々になったメリアーナはコップに入った水を持ってくる。

コップを悠仁に差し出して「み・・ず(異世界の言葉で)」とゆっくり口にする。

すると、悠仁も理解出来たのか、真似て発声する。「み・・じゅ(異世界の言葉で)」

メリアーナはその拙い発声を聞いて、こちらの言葉の発音とは少し違うのかもしれない、と感じた。何とかうまく話す方法はないものかな?


悠仁とメリアーナの二人だけの世界。この日はまだ数個ほどの言葉で交わし合う事しか出来なかった。

悠仁は精神的にもリラックスは出来たのが功を奏したのか、起き上れるまでには回復してきたのでベッドから降りてみた。

まだふらつきはあるものの、立っていられなくなるほどきつい状況は脱出できていた。

悠仁はメリアーナに向かって刀のジェスチャーをしてみた。

すると、メリアーナはなんの警戒心も抱かずに持ってきてくれた。

「ありがとう」

悠仁は安心した顔で刀を受け取った。それから、刀を持って外に出てみた。

すると……そこにはいつぞやの盗賊の死体があった。

メリアーナはうつむいていた。

(きっと処分に困ったのだろうな……)

悠仁は前にオークの持ち物チェックをしたように持ち物を弄っていた。

盗賊のナイフ、そして武器はお金になるかもしれないので回収し、その他いくらかのお金らしいものと使えそうなものを所有していたので拾っておいた。


[ステータス]

名称:ギルドカード


3人ともギルドカードを所有していたので回収しておいた。

そして庭にスコップを見つけたので、メリアーナを連れて、少々離れた良さげな場所を選んで穴を掘った。

1時間は掘っただろうか、その頃には3つの穴が出来ていた。

出来たところで、3人の死体を引きずってそれぞれ体を畳んで穴に埋めた。

メリアーナを助けるためとはいえ、3人を殺めたのだ。それでもきっちりと墓を作ってやり、手を合わせて黙祷する。これが自分の「けじめ」なのだ。

そして2人でメリアーナの家に戻った。

(改めて、自分は殺人やってしまったんだなぁ。これも修羅の道なのかな)

この世界ではいつ殺されるのかはわからない。軽い命かもしれない。でも、自分の心を失わないように生きよう!と改めて決意したのだった。

家に戻った悠仁は刀を壁に立てかけて、ベッドに腰を下ろした。そして、盗賊が持っていたお金のようなコインとギルドカードを机の上に出した。

そして、リュックから筆記用具とノートを取り出して、ノートを開いてみせた。

すると、メリアーナは珍しい物を見たかのように驚いていた。

メリアーナはノートを見つめ尋ねる、次にペンを見つめては尋ねる。

これでノートとペンなどの少々の名前はお互い確認は出来た。

悠仁は学んだ単語の発音をノートに書き込み、日本語での名前も付けて行った。

そう。翻訳する為の作業なのであった。

それを数時間も続け、メリアーナの名前をいくつか書いてみせた。

日本語の「ひらがな」「カタカナ」「ローマ字」で書いた物を適当にあった木片に書いてあげた。その隣には悠仁の名前を3つに加えて漢字も入れて見せた。

こうして二人の勉強は続いたのだった。

それから数日。

悠仁の体もだいぶ良くなって来たので、悠仁は朝起きたら外に出で、刀の素振りと型の稽古をした。

そして、朝食を二人でとって、悠仁は斧も持って木を切り倒して、持って帰っては薪を作っていた。

それから畑に行って収穫物を収穫して、雑草を抜いたりした。


少し離れたところを見ていると、牛のような生き物を見つけ、その糞が結構落ちていたので、これを回収した。そして、雑草や落ち葉と混ぜて腐葉土を作ってみた。

すると、メリアーナは鼻をつまんで嫌な顔をしてきたので必死にフォローした。

作業を終えて家に戻った後は「たらい」に入った水をタオルで体を拭いたりしていた。

歯ブラシを持っていたので、炭を少々持ってきて、口の中に入れてブラシでこすって歯磨きした。歯や手などは真っ黒になっているけど、意外と効果はあるのだ。口をすすいで綺麗になった歯。メリアーナは悠仁が水拭きしている時は背中をタオルで擦ったり、流していた。それから炭で歯を磨いているのを見た時はきょとんとしていたが、歯が綺麗になり、口臭も抑えられたので次第に慣れて行って、メリアーナも水だけでなく炭を使って磨くようになった。

歯磨きの最中は少し苦しいが、すすいだ後のお口の中はとてもスッキリするので気に入ってもらえたようだ。

歯を磨いたついでに、伸びた無精髭の手入れをしようと鏡を取り出した。

そして自分の顔を見てみた。

「!?」


そこには40代の悠仁ではなく、どう見ても20代の頃の悠仁が映っていた。

(これは? 俺若返ったんだ?)

確かに目の前には若返った自分がいるのだが、どうしても実感が沸かない。

これじゃ、自分の年齢いくつって言えばいいんだ??

何歳ですか?って聞かれてもこれじゃ答えようがない。適当に年齢を誤魔化しておこうか。

(年齢不詳)これでいいかな。こちらの世界で育ったわけじゃないんだしな。


悠仁がものを書ける、という事を知ったメリアーナは悠仁についての考えを少しずつ修正して行った。

(耳は聞こえないみたいだけど、読み書き出来るなんて……聞こえなくても頑張ってきたのね。それに引き換え私は……私も頑張ろう! もっと悠仁の傍に居たい!)

悠仁の傍に居たい……?

ああ・・私の気持ち悠仁に傾いてるんだ。悠仁と釣り合得るようになる為にも頑張らないと!

こうして、メリアーナと悠仁の勉強とこの異世界での生活に慣れて行く為の生活が続いた。


一か月ほど過ぎて行った。

その甲斐があって少々の文章のやり取りは出来るようになってきた。

まだ難しい会話は出来ないが、基本的な会話でのやり取りなら出来るようになったのだ。

メリアーナはこの世界にて読める字は少なかったので悠仁はメリアーナが知っているこの世界での文字は書けるようになっていた。

この量ではまだ「書ける」とは言えない状態だろう、と悠仁は察した。

これでは勉強にならないと、悠仁はメリアーナの為にもひらがなと漢字を教えていった。

メリアーナの住む地方での識字率は低いのだ。

商人に貴族、一部の高官などを中心とした、全体の25%程度であった。

二人の会話も少し増えてきた今、ずっとこの家でやっていくには食料や消耗品などを買い足しておかないと冬を越せなくなってしまう。

メリアーナには少々蓄えはあるのだが、街に行かないといけなくなるので、その為にもお金の価値などの説明を受ける事になった。

どうやら、この世界での通貨単位は銅以上が「ゴル」で、真鍮は「ミル」になっていた。

真鍮、銅、そして銀、金、白金と価値が上がっていく。

真鍮100枚に対して銅が1枚、銅100枚に対して銀が1枚、銀100枚に対して金が1枚、金100枚に対して白金が1枚。こんな所だ。

現世界の日本価に直すと真鍮が1枚1銭なので100銭で1円の銅1枚という計算になる。

銀は100円硬貨、金は1万円、白金は100万円と意識すればいい。


もっとも、現世界の日本との国交がある訳じゃないので相場は全くの不明である。

現在の手持ちのコインを全部卓上に並べてみた。


盗賊の親分格が結構お金持ちだったのか、金貨が3枚出て来た。あとは細かいのが袋数個分。

思ったよりかさばるものだなぁ。

テレビの時代劇でたまに見かけた千両箱のイメージが頭に浮かんできた。あんなのを手で抱えて旅したり出来る訳ないもんなぁ。

となると、細かいお金は常々両替するように心掛けようと思った。

「メリアーナ。このお金半分ずつにしようか?」

「えっ?このお金はユウジが持っていて!」

「悪いよ……ずっとここに泊めて頂いてるからさ」

「大丈夫!私の事守ってくれてるんだし、お手伝いもしてるからじゅうぶんだよー」

「そうか……わかったよ。必要な時は言ってね」

二人で読み書きと読み取りの勉強を始めて一か月、このくらいの会話は出来るようになったのだ。

メリアーナは悠仁が唇の動きで会話を読むのを知って、時々声無しで話すようにしてみたが、声を出した時と全く変わらない感じだったので確証が持てたのだった。

それにしても唇の動きを読むなんて凄い!


こうして、お金の単位を知る事が出来た悠仁は買い物を兼ねて、メリアーナと街へ買い物に行く事になった。


[ステータス]

名前:門間悠仁 種族:ヒューマン レベル:戦士9侍12 

武器:無銘刀  サバイバルナイフ

生命力:174 魔力:0

力:41 敏捷:56 耐性:37 知力:51 精神:42 運:37

潜在スキル:流離人4心眼2

スキル:見切り4 身体捌き4 刀操法4 毒耐性2


盗賊を3人倒したのが大きかったのか、レベルが上がっていた。「毒耐性」なんていうスキルも付いていた。


悠仁は明日街に行くと聞いて子供のようにワクワクしていた。

食料や備品を買うのはもちろんだが、手に入れた盗賊の遺品などを売りに行こう。紅魔石やこのギルドカードの事も話を聞けるかもしれない。だが、悠仁はこの世界の言葉を理解出来ないので、メリアーナに通訳をお願いする形になるのだ。

悠仁は街に行く前にメリアーナから注意する事を聞いてみた。

「基本、会話はメリアーナがする」

「門番には通行税がかかる」

「悠仁の服は目立つのでマントで隠す」

という事なので、羽織っていくマントをメリアーナが持ってきたので羽織ってみた。

悠仁は外に出て刀を抜けるか、振れるか確認していた。一通り確認を終えてみた。激しい戦闘になる時はマントを外す事に決めた。

悠仁は頭には編まれた元の世界のハットを被っていくことにした。

メリアーナの家から街まで道草ありの無理ない徒歩で朝早く出発して昼前くらいに着く距離らしい。

ちょっとした遠足気分で行っても良いものだろうか?道中でモンスターや盗賊に襲われる可能性だってある。万全に準備しないとな。自分自身、盗賊から麻痺毒喰らってしまったから毒消しが欲しい所だ。


夜が明けて出発の日になった。弁当など用意して刀とマントを身に着け、リュックを背負う。

「遠足気分で楽しみだな」

「遠足?」

「遠い所まで歩いていく事を遠足って言うんだ」

「そうなのね。今から街まで歩いていくことを遠足というのね」

「弁当と水筒もつけてね」

「準備バッチリ!」

悠仁はこれとは別に、120センチほどの杖も用意しておいた。

年寄り?と思われるかもしれないが、初めての旅。杖と言っても護身用にはなるし、歩行補助など様々な用途があるので馬鹿に出来るものではない。何より最初飛ばされてここに来るまで結構歩いたはずだが、舗装されているわけではないので舗装路と比べると体力を消耗してしまう。どこまで続くかわからない道をゆくのは体力だけでなく精神的な消耗もある。元の世界で毎日1万歩歩いていたわけじゃないので慣れるまで大変だろうな。

格好つけて「疲れました」では恥ずかしい。なので、備えられる事はしておくつもりだ。

 

 慣れない道をメリアーナと二人でいくらか進み、少々の汗が額を伝ってしたり落ちるようになった頃。

延々と続く川堤防沿いの道をただまっすぐに下流方向に行くとその東に見える林の中に動物が見えた。

「ユウジ。あの動物捕まえてみましょうか?」

「そうだな。どうやって捕まえる?」

メリアーナは背中から狩り弓を取り出して矢をつがえてゆっくりと風下から気付かれないように近付いてみた。ユウジは作っておいた鋼線で出来ている手裏剣の先っぽを倒した盗賊が持っていた痺れ薬に浸けてこれを手に備えてゆっくりと近付く。

感性の鋭い野生動物はこちらの気配に多少気付いたようにあたりをキョロキョロする。

悠仁とメリアーナは動きを止め、身を潜めて機をうかがっている。

1メートル2メートルと、刻々と近付いていく。

やがてメリアーナの射程距離になってメリアーナが構えだしたので、悠仁も手裏剣を構えたままゆっくりと別角度から距離を詰める。

メリアーナが息を止め、矢を放った瞬間、その狙った先の野生の動物は弓の弦と糸が奏でる音に反応してメリアーナの方を振り向く。

その時、矢は野生動物の横っ腹に刺さった。

そのわずかな硬直時間を逃さず、悠仁は手裏剣を野生動物へ向けて放った。

ギリギリお尻の方に手裏剣が突き刺さったので、痺れ毒の効果で次第に動けなくなるはずだ。

メリアーナは速度の落ちた野生動物に向かって小走りし、また矢を放った。

矢は少しずれた所に突き刺さったが、野生動物の動きが明らかに遅くなったので、2人でこれを追いかけた。

そして、崩れるように倒れ込んだ野生動物。


[ステータス]

種族:小鹿 レベル:1

生命力:28


なんだ・・・元の世界にいる鹿と変わりないな。

てっきり変わった生き物かと思ったよ。でも、これで初めて動物を狩猟した事になるんだなぁ、と悠仁はその余韻に浸っていた。

そして、メリアーナと共に過ごした一か月ほどの間に動物を捕まえる事は体験済みだったので、その後処理も普段通りに手を進めていた。

死体を吊るして血抜きをして持ち運べるよう処理しておいた。小鹿を袋に詰めて背負う。

それを終えてまた川堤防の道に戻り、南西へと足を進めていく。

やがて、これから更に伸びるであろうトウモロコシに、様々な野菜が植えられている畑や青い穂の先っぽに若々しい実をつけている麦畑などがあたり一面に並ぶ農地の道に入ったので、もうすぐ街が見えてくるだろう。

すると、畑などで作業している人たちの姿が見えた。

こちらの様子を気にする事は無い様子だ。

すると、年季を感じさせる重厚で堅牢そうな石による壁が見えて来た。


「おー!こりゃ凄いな!これがお城なんだ!」

「ふふふ。初めて見るのね。ここが都市テノアなんですよ」

「いやーホントに凄い。写真に撮りたいくらいだ」

「写真?」

「あ、いや……なんでもない」

(うっかりしたな。まぁいいか。とりあえず撮っておこうか)

悠仁はリュックの小さいポケットからデジカメを取り出して数枚ほど撮影していた。

「絵になるな~」

メリアーナは不思議そうな顔で見つめてきたが、悠仁がただの四角い物体を出しただけにしか映らなかったようだ。

やがて大きな門に近くなって来たが、そのいくつもの層からなる綺麗なアーチと直で見る石壁という迫力に圧倒されてしまった。

門の近くまで来ると、門番が何名か立っていて、門をくぐろうとする者のチェックをしている様子だった。悠仁はその様子を見て不安げな顔になってメリアーナの顔を見た。

「大丈夫!私に任せておいて!」

悠仁は大船に乗ったつもりで任せる事にした。

自分たちの番になった。

悠仁には門番たちの言っている事がわからないのであまり門番の方を見ないようにした。

{この男は何者かね?}

{耳が聞こえないのでお話は出来ないのです。私の事を守ってくれた人なんです!}

{……よろしいだろう。税金を二人分頂く。二人で30銅だ}

メリアーナは悠仁に30銅出して、と伝える。それを理解した悠仁は袋から30銅を出して門番に差し出した。

「よし。通って良し!」

こうして二人は門をぐぐる事が出来た。


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