壊れかけの歯車の日記
一人ぼっちの令嬢のお話です。
愛するってなぁに?
愛されるってなぁに?
わからないの。でもね、私は一つだけ知ってるわ。
殺されそうになるほど執着されるより
目の敵にされて嫌われるより
誰の目にも私が映らない。
それが一番怖いこと。
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△月×日
六歳の誕生日のプレゼントに日記をもらった。
今日から日記をつけることにした。
貴族たるもの1日をふるかえることもしないと。
〇月△日
お父様は私を見てくれない。
お母様も見てくれない。
家庭教師のサリア先生は私が役立たずだから愛されているのに気付けないのだと打った。
大丈夫、愛されてる。もっと役に立てればもっともっと愛されるようになる。
もうすぐ10歳。頑張らなくちゃ。
□月〇日
手始めにお父様とお母様を観察することにする。
本に相手の真似をしたり相手と同じものを好きになったりすると好感度が上がるとあった。
お父様が好きなのはお金と女の人と領地経営?
お母様が好きなのは宝石と男の人と夜会?
出来るところからやっていこう。
まずは領地経営と夜会から。
夜会は多分作法が必要。先生にもお願いした。
領地経営は自分でやらないとね。
▽月〇日
夜会は難しかった。
あまり人の感情がわからないから令嬢たちの話に乗れなかった。
次からは気を付けよう。
領地経営はサクサクと進んだ、無駄なところや不正なところがポロポロ見つかるのでその都度お父様の邪魔にならないように排除、農民たちの識字率の上昇を図ってみる。
◇月〇日
お父様に13歳の誕生日プレゼントかわりに名前の由来を教えてもらった。美しい花って意味のリルア、これは女の人も政治の道具だからって古語では歯車、政治的道具って意味だったらしいわ。
多分嬉しいと思ってるのだと思う。使える道具は愛着されるもの。
無表情で気持ち悪いってお母様に怒られた。
他の人ってすごい…あんなに表情を使い分けるの大変じゃないのかな。
表情を作る練習しないと。
◇月◇日
お父様が婚約者を連れてきた。
教会の神の使いのような美しい人だった。
月の光を溶かしたような金糸の髪に森の翠を固めた瞳。
貴族としての地位は私より低めらしいからお父様が強引に決めたらしいわ。
神の剣という名前がとても似合う、厳しい、素敵な方。
私を愛すことは無いって正面から言われちゃった時、急に痛んだ胸は何かしら?
多分怖いと思っているからあした先生に見ていただきましょう。
?月〇日
今日は結婚式。
初夜という儀式をするらしいけど何をするのかしら。
トルリティリア様のお宅は広くて、侍女や侍従の人も無駄話も要らぬ手助けもしない、しっかりした人達だわ。
夜も更けてきたしそろそろ寝よう。
凸月凹日
結婚してから三年たった。
お父様もお義父さまも孫が生まれないことを怒っている。
トルリティリア様は相変わらず一緒の寝台で寝ているけど決まったように私を愛すことは無いって告げてくる。
子供ってどうしたら出来るのかしら?教会で毎日のように祈っているのに一向に出来ないわ。
トルリティリア様の領地経営のお仕事のお手伝いをするとトルリティリア様は少し嫌そうな顔をしながらお礼を言ってくる。
他の人って不思議。なぜ嫌なのにお礼を言うのかしら。
〇月◇日
トルリティリア様が女の方を連れてきた。
トルリティリア様の愛する方らしい。
トルリティリア様の目がうっとりと細められて頬が薔薇に染まった。
とてもとても美しかった。
でも今まで以上に胸が痛かったのはなんでかしら?
やっぱりお医者様へ行きましょう。
〇月凹日
自室でお茶を飲んでいたらトルリティリア様に頬を打たれた。
なぜなのかはわからないの。
愛する方に嫌がらせを私がしたらしいの。
でも私は知らないの。
なにもしてない。
胸が痛い。
〇月×日
食事に弱い毒が入っている。
気持ち悪かった。トルリティリア様に迷惑はかけられないので我慢する。トルリティリア様の愛する方がよくわからないことを言っていた。おとめげえむとかぎゃくはあとか。
もしかしたらトルリティリア様は白痴の方が好きなのかもしれない。
でも愛する方は明確な思考回路があるように感じる。
農村の子供たちから手紙がきた。
汚い字。胸が熱くなる。
最近トルリティリア様と一緒に寝ていない。
いつも通り胸が痛い。
◇月凹日
トルリティリア様の友人と名乗る人が度々来るようになった。
いろんな話を聞かせてくれて、いつもにこにこしてた。
胸は痛くなかった。
明日も来てくれないかな。
◇月〇日
トルリティリア様の友人のカルディナ様が外に連れ出してくれた。
不思議、カルディナ様が居ると胸が痛くない。コトコトと忙しなくなる。
でも嫌じゃない。
多分嬉しい。
◇月□日
トルリティリア様からカルディナ様と会うのを禁止された。
仕方が無いことだ。結婚した身であって未婚の男性と過ごすだなんてふしだらなことだ。
久しぶりに胸が痛い。
一度でいいから会いた(以下インクが液体で滲み読み取れず)
▽月◇日
人から好かれるにはまず自分が相手を好きにならないと行けない。
好きってどんな感情?
わからない。わからないの。だから好かれる権利なんてないの。
誰も目を合わせてくれなくなった。
いいや、もともと誰も見てはくれてなかった。
カルディナ様は目を合わせて話すのが好きだった。
多分悲しい。
歯車は歯車として動けない。
私はなにが私たらしめるのかわからない。
だから私は私を証明できない。
他の誰かが私を定義つけてくれないと私はどうしたらいいのかわからない。
私が私でなくなっても多分私は気付かない。
私はいま多分悲しくて多分寂しい。
▽月凹日
日記も今日で最後。
これから私は修道院に行く。トルリティリア様は当然だけど私より愛する方の言葉を信じた。
トルリティリア様は愛する方と幸せになれればいい。
私は
会いたい。
会いたいです。
この胸の痛みも高まりもなんという感情かわからないの。
でも、会いたい。
一目でいいから会いたいです。
カルディナ様。
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