渚 11月26日 ~園芸王~
ギャルソン(仏)って、ウエーターのことだったんですね。
誤字修正などこっそり。
咲子さんが寝込んでしまったので、夕食は食堂で取ることになったが・・・
本日のオススメはそら豆スープにエビラのソテー(エビラって何?)、シャリアピン・ステーキ(シャリアピンも何?)にリンゴとセロリのサラダ。デザートはチョコレートケーキ。帰ってから貝原に訊かないとさっぱりわからない料理名が並んでいる。
カレーやらとんかつ、スパゲティやらグラタンもその前に○○風と付いていて、何種類かある。
どれにしよう。
食堂は席も数量限定メニューも早い者勝ちとなっている。そこに特権はどこにもない。No.1だろうが、お金持ちだろうが、権力者だろうが、ここにあるのは早い者が勝者という単純な論理。
執事服姿の少女が眺めの良い人気の席についている。あの子は闘技場に出ていることで有名な執事見習いの子だ。身体能力が普通の男子学生以上あるのだが、それでもtop5には入らない。
席は従者がとっていることもOKなので、女主人が来るまであそこにいるのだろう。
どれにしよう。
食券を売っている券売機の前で私は悩む。
券売機なんてアナログだし、お金持ち学校にふさわしくないけど、何故か券売機が使われている。
聖痕学園の初等部だって、ウエーターかウエートレスが席まで案内してくれて、オーダーを取ってくれたのに、ここでは券売機。
無料だけど、券売機・・・。
「ナギサちゃ~ん。部活休むとはいい度胸してんな~」
背後から聞こえた掠れたバリトンの持ち主はスッチー?!
CAでもフライトアテンダントでもなんでもいいけど、どう見てもスッチー。それもそんじょそこらじゃお目にかかれないレベルの清楚系美女。
178センチの私より目の位置が高いから、185以上ある。モデルみたいな体型をしている。
でも、服装や髪型、メイクはスッチー。
これが我が体育会系園芸部の部長”園芸王”。王と呼んでいるように、正真正銘、性別は男。
どう見ても、女にしか見えない容貌でも男。
屋外での部活動時には広い鍔のついた帽子と日焼け止め、グラサンにスカーフに手袋。勿論、長袖長ズボンまたはマキシ丈のスカート。
男だとツッコミを入れてはいけない。
ツッコミを入れたら負けだ。
そう。
”園芸王”北地アロエは美容に命をかける男だ。それも自分だけではなく、部員全員に夏場の帽子着用と首を保護するスカーフか手拭いか、タオルを義務付ける園芸部の暴君。
外見と服装以外は女性らしさは一切ない。
園芸部部長なのに特技は見えない速さで繰り出されるアイアンクローと空手チョップ。
園芸部より闘技場のほうが似合っている人物なのに、身体を動かして汗をかきたくないと言い張っている。園芸部でも充分、汗をかくのに、それとこれは別らしい。
園芸王は入学当初、闘争王に続く闘技場の四天王の一人をボコったことでも有名だった(遠い目)。
つまり、我が身が可愛ければ北地アロエ、彼の言動に疑問もツッコミも入れず、ただ受け入れて従うのが一番。
何故、この人が園芸王なのかは出主通学園の七不思議の一つになっているくらいだ。
「ナギサちゃ~ん。聞いてんのか?」
ヒィィィィィ!!!
チャラい呼び方と乱暴な口調の組み合わせは凶悪過ぎる。
ホント、この人がどうして園芸部の部長なんだろう?
本能のままにバックステップを踏むと、園芸王のアイアンクローが空を切る。
危なかった。
元勇者の勘が働いて良かった。
「チッ! いい動きだな、ナギサちゃ~ん。何故、避けた?」
舌打ちしたよ、この人。
美人スッチーにしか見えない外見で舌打ちしたよ。
大事なことだから2度言った。
全国のスッチーに憧れている人々が嘆くようなことしやがったよ。
幻想壊しやがったよ。
「避けるよ! 避けられるなら避ける! 部長の破壊力はとんでもないから避けるに決まっている!!」
「避けるな。私の攻撃を避けるとは運動音痴の癖に生意気だぞ。いつも通り、食らっておけ」
「嫌だよ! 痛い思いなんかしたくな――!」
言い争っているのに気を取られているうちに、再度繰り出される園芸王のアイアンクローに捕まる。
く、苦しい。
「ナギサちゃ~ん。な・ん・で部活を休んだんだあ? こ・ん・な・に優しくしてやっているのに」
これのどこが優しいと言えるんだ・・・。
く、空気。
空気が欲しい。
「・・・」
優しさがあるなら空気をちょうだい。
優しさはなくていいから、空気を・・・。
ナギサ☆ガンバ
次の話まだ書き始めてないけど、それまで生きていて☆




