渚 ~異世界~
わたしは草薙渚。京都にある出主通学園の高等部に通う2年生だった。自分で言うのもなんだけど、そこそこ良い容姿をしている。
だけどわたしの通う出主通学園は普通とは異なる学校なのだ。
出主通学園は願書を出せば入学できる、定員オーバーすれば入試の成績の下から順に入学させる、裕福な家の落ちこぼれ救済学校だ。
本来なら鬼畜系18禁乙女ゲーム『三月兎は狂ってる~聖痕学園~』の悪役令嬢であるわたしは聖痕学園に進学するはずだった。
進学出来るだけの学力があれば・・・
そして、わたしは異世界に勇者として召喚されてしまった。
「ばあちゃん」
私と同じ黒髪の少年が駆けてくる。どの息子か娘の何番目の子供かはわからない。
だって、息子たちが来る度に嫁という名のハーレム要員と孫が増える(二人だけ嫁が増えない息子がいるが、それは例外中の例外)んだよ?
娘たちも婿という名の逆ハーレム要員が増えるんだから、わかるわけないじゃない!
一夫一婦制ならともかく、一夫多妻な息子たちが4人と多夫一婦の娘たちが4人、合計8組いたら普通どの子供の子だったか、わからなくなるでしょう?
これは異世界への勇者召喚で得たチート能力。それが遺伝した結果、私の子供たちのほとんどは伴侶が多い(押しかけてきたり、強制的だったり、自称だったのが勝手に増えていった)。
流されないで、私の子供たち。
押しかけや強制や自称の伴侶は撥ね付けてやるのよ。
そう、私のチート能力はハーレム形成能力。戦闘に役に立たない能力。
戦闘に役に立たない・・・。
勇者としての、私の足しか引っ張らなかった能力。
「ヒューバート! よく来たねえ。また背が伸びたんじゃない? お父さんとお母さんは?」
少年はニヤリと笑う。我が孫ながらイケメンだ。様になっている。ただ、頭の上から生えている獣耳は兎のもの・・・。
悪ぶって見えるか、間抜けにしか見えないがイケメンだ。イケメンは何でも許されるというが、我が孫ながら本当に間抜けに見える。せめてイヌ科かネコ科だったら良かったのに・・・。
孫本人に言えないことを考えていた私は、つい遠い目をしてしまう。
「オレ、もう15なんだぜ? 親の後をいつまでもくっついて歩いている歳じゃねえよ」
これって、反抗期? 厨二病 (笑)じゃない?
もう、この子も15か・・・。親がどの子だったかサッパリ思い出せないけど、不甲斐ないおばあちゃんを許してね。
私も歳をとったって気がする。
だって、15歳の孫がいるんだよ?
この子が孫の中で一番年長ってわけじゃないし、一番年長の孫はもう結婚しているし。
そう、一番年長の孫は伴侶は一人だけ。珍しくハーレム形成してない。
もしかして、孫の世代は私のチート能力が遺伝していない?
息子の二人も嫁がいないか、嫁は一人だけだし、ハーレム形成能力が遺伝しないんじゃないかとは思っていた。
ひゃっほーい!!
チートの呪いは孫世代で解けたんだ。
踊りだしたくなる私の心は15歳の孫の次の一言で凍りついた。
「嫁だって二人いるんだからな」
目の前が真っ暗になる。
チートの呪いは孫世代で解けていなかった・・・。