楼蘭とさまよえる湖
ちょっと話しは飛んで、中国滞在も2年目の夏の話し。
蘭州から酒泉を経て有名な敦煌、そして楊関を巡っていました。
井上靖の「敦煌」を読んで、中国滞在中にぜひ訪れてみたいと思っていたからなのです。
当時は敦煌に来るだけでも、かなりハードだったのですが(今では飛行機も便がよくなったらしい)私にはまだ心残りがあったのです。
それは井上靖のもう一つの傑作「楼蘭」と、スウェン・ヘディンで有名なさまよえる湖・ロプノール湖(羅布泊)を見たい!という夢。
さまよえる湖……ああ、なんとロマンにあふれる名前でしょう。冒険心をくすぐるではありませんか。
しかし!
当時の中国。外国人の立ち入れない場所がたくさんありました。
みつかるとやばいです。
でも、手は打ってありました。公に書けませんが、その筋のコネがあったため私は「香港育ちの中国人」という名目で旅をしていたのです。
中国語が流暢ではない、との点はこの「証明書」を見せるとOK。
あと、なるべく綺麗な格好はしないという点がポイントです。
楊関で、地元の人と交渉したのですが、な、なんと! ロプノールを知っている人がいないではありませんか!
考えられないこともないのです。
とにかく、情報が偏っていた時代でした。
ここまできて引き返すのも気に食わん!(とりあえず西へ向かうか。西へ行けばタクラマカン砂漠やら、カシュガルまで――なんとかなるだろ)と、地元の人が使うバスにのりこんだのです。
と、ところが!
悪夢はここから始まりました。
ここらいったいのバスは、もうバスと呼べる代物ではありません。
窓が閉まらない!
座席はずるっと右左にずれる!
振動がメチャクチャ!
おまけにホコリだらけ、捕まるイスのパイプはサビだらけ!
しかも、瓜とか、後ろに山積みで、となりではスイカの種をぺっぺ、ぺっぺと吹きまくるおっさん。
いやいや、まだまだ可愛いもんです。
なにせ、アルマジロ君も同乗してましたしね!
と、バスが停止しました。
どうしたのか?周りを見ると皆服を頭からかぶったりして、イスの下にうずくまり始めました。
不意に服をつかまれ引っ張られ「起沙爆!(チーシャーモウ)砂嵐だ!」
え!? まだ、何も見えないぞ。
その五分後くらいだったかな? 突然世界が黄色くなりました。
どっひゃああああ! です。
とても目を開けていられる状態ではありません。
いや、ほんと今思い出してもあれはすごかった。髪の毛はもう真っ白。服は砂まみれ。口の周りも、目の周りも汗をかいているため砂だらけ……。
しばらく何日か咳が止まりませんでした。
しかもですよ。
運転手が言うことには「引き返すぞ」
砂で車が動かなくなったというのです。よくあることらしいのですが。
それから我々は二時間かけて楊関へ引き返しましたよ……砂まみれで。
そのうえ風呂などありませんからね。翌日まで砂とともに寝ましたとさ。
え?
楼蘭は? ロプノールは?
あきらめたよ!