バッドエンドなんて回避させてみせましょう
――あぁ、なんということでしょう。
眩暈と共に私の心中を駆け巡ったのはそんな一言でした。
改めて皆様初めまして。私はガートルード・エイヴァリーと申しまして、一介の家庭教師に御座います。
つい先日、お世話になっていたお家のお嬢様が学園に入学されることになり、職を辞することになったのですが、そのお家のご厚意で次の職場を紹介していただけることになったのです。
そのうえご紹介いただけたのは侯爵家!これはいつも以上に気合を入れねばと侯爵家に訪ね、新しい生徒となるお嬢様の顔を見た瞬間、私は前世の記憶を思い出したのです。そしてその結果が冒頭の状況に御座います。
前世の私には二つ違いの姉がいました。私も姉もゲームが大好きで中でも姉は乙女ゲームを、そして私は育成ゲームを中心に遊んでいたのです。そして、どうやら姉が特に嵌っていた乙女ゲームが今生の私の世界のようなのです。
乙女ゲームにて、お嬢様ことフェリシア・アシュクロフ侯爵令嬢は典型的な悪役令嬢として登場致します。乙女ゲームの内容はありきたりなもので、学園に入学したヒロインとヒーロー達が織りなすキャッキャウフフ時々バイオレンスなストーリーなのですが、ヒーローの一人にお嬢様の婚約者である第二王子がいらっしゃることが大問題なの御座います。もし、ヒロインが第二王子のルートを選んだ場合、一方的に第二王子のことが大好きな傲慢で高飛車なお嬢様は、それはそれはたいそうお怒りになります。そして、昼ドラ真っ青な陰湿な嫌がらせを繰り返したあげく最終的にはヒロインを殺そうとなさるのです。勿論暗殺は失敗し、その結果侯爵家は没落。その後は、乙女ゲームのストーリ上に出てはきませんが良い結末を迎えられるわけはないでしょう。
っとまぁ、長々と説明いたしましたが実は私他の攻略者の方々のルート内容はほとんど知らないのです。何故ならば、乙女ゲームを愛していたのは姉で私はそれを時々眺めていただけなのですから。なのにお嬢様関係のことだけをこと細かく覚えていられたのは、その後乙女ゲームの関連作品としてお嬢様の育成ゲームが発売されたからなのです。育成ゲーム好きだった私がこれを見逃すはずがありません。勿論即購入後、育成ゲームをもっと楽しむためだけに乙女ゲームも第二王子ルートのみクリアー致しました。
ですから乙女ゲームの世界観等をたいして覚えておらず、おまけにプレイヤーの操作キャラであった家庭教師に名前などなく、前世の記憶が呼び起されるような事件もなかった為、お嬢様のお顔を見た瞬間全てを思い出す結果となったのです。
育成ゲームの内容はお嬢様の家庭教師となり、学園へとご入学されるまでの六年間でお嬢様を完璧な淑女に育て上げることのみ。教育期間が終了すれば、お嬢様は学園へとご入学なさり先ほど述べた乙女ゲームとリンク致します。ですので、お嬢様への教育状況によりエンドが分岐するのです。完璧な淑女に育て上げることが出来れば、第二王子と相思相愛な仲となり最終的には王妃の座に座ることとなる王妃エンド。教育が甘く可もなく不可もなくな無難な淑女であれば、無事第二王子と結婚することが出来ますが、お嬢様からの一方的な愛しかない典型的な政略結婚エンド。若しくは、ヒロインに婚約者の座を奪われ婚約破棄後下位の無難な貴族との結婚となる婚約破棄エンド。教育に失敗し乙女ゲームのような悪役令嬢となれば、婚約破棄後に公爵家は没落し教会送りにされ半ば幽閉となる没落エンド。若しくは、婚約破棄後に中年小太りの腹黒成金貴族の後妻となる後妻エンド。
トゥルーが一つ、ノーマルとバットが二つずつの以上五つが育成ゲームのエンド数でした。
ノーマルはまだしもバットは可哀想すぎる。それに、今は何の罪のない少女とあればなおさら救いたいと思うのも無理はないでしょう。
それ故に私は決意いたしました。必ずお嬢様を完璧な淑女へと育て上げ幸せになっていただくと!
「目指せトゥルーエンドです!!」
―ストーリに盛り込められなかった設定達―
攻略者一覧
王太子(第一王子)
短く刈り込んだ銀髪に紫紺の瞳の野性味あふれる少年。若干脳筋気味なため王座は年子の第二王子に譲り軍に属したいと考えている。トゥルーエンドでは無事ヒロインと結ばれ、ヒロインに支えられながらも立派な賢君となる。
第二王子
肩甲骨辺りまで伸ばされた銀髪に漆黒の瞳の優男。文武両道で兄とは違い王子の中の王子な人。お嬢様から熱烈な好意を寄せられお疲れ気味。そこをヒロインに癒されコロリと落ちる。乙女ゲーム、育成ゲームどちらもトゥルーでは兄から王位を譲られ相思相愛な王妃と共に他国を寄せ付けないほどまで国を発展させていく。
学園一の魔術師
実は魔術がある世界。全ての人間に大小はあれど魔力があり魔術は使える。平民でありながら、貴族を圧倒する魔力を持つうえ魔術属性が二属性であることから一部を除き敬遠されていた。黒髪の短髪で深緑の瞳。容姿は平民のため他の攻略者達には劣るが普通であれば整っているとされる顔立ち。トゥルーでは国の筆頭魔術師となり、同じく宮廷魔術師となったヒロインと公私ともに仲睦まじく過ごすこととなる。
王太子の護衛騎士
短めに整えた輝くような金髪に緋色の瞳。公爵家の跡取り。王太子の乳兄弟で年齢は一つ上。学生の身でありながら騎士団でも上位の剣の腕をもつ。卒業後にも護衛騎士の為王太子と学園に通うこととなる。トゥルーでは王位に就いた王太子を守る近衛隊長に就任し、公爵夫人となったヒロインと幸せな家庭を築く。
第二王子の護衛騎士
一見黒にも見える蒼色の短髪に漆黒の瞳。侯爵家の跡取り。第二王子の母方の従弟なので顔立ちが似ている。王太子の護衛騎士には負けるが、騎士団の中でも上位の腕を持ち将来を期待されている。しかし、元々武より文が得意な性質な為ずっと悩んでいたが、ヒロインと出会ったことで解消されることとなる。トゥルーでは、宰相となり侯爵夫人でありながら宰相補佐のヒロインと共に王太子を支えることとなる。
ヒロイン
デフォルト名はシャーロット・チェンバレン。菫色の瞳に栗毛色のふわふわした髪を令嬢らしく腰まで伸ばした美しい少女。男爵家の次女で数少ない魔術属性が一属性な稀有な人。この世界では、属性数が少なければ少ないほど強い魔術を使え存在数も少ない。属性は多種多様に存在するため五、六属性でも少ない方。四属性で優良、三属性で優秀、二属性で希少、一属性は過去に数人しか存在が確認されていない。三属性でも存在率がグッと下がるのに、過去に数人しかいなかった一属性持ちが生まれたことで貴族世界でも噂の的に。その為、成長するにつれて是が非にでも取り込みたいと方々から実家に圧力がかかり始めていることを悩んでいる。家族も美しく成長したヒロインが、誘拐からの既成事実といった最悪の事態を避けるために学園への入学を進める。
お嬢様
艶のある癖のない黒髪に瑠璃色の瞳を持つ美少女。魔力も高く三属性持ちな本来なら優秀な存在。ただし乙女ゲームでは、家庭教師や傍仕えを含め侯爵家に媚びへつらう者しか周囲に居らず、全て自分の意見が正しく絶対的な存在だと勘違いを持つことに。その勘違いを長年正されなかった結果、傲慢で高飛車な悪役令嬢の出来上がりとなる。十歳の時に第二王子と婚約した際も、第二王子の容姿に惚れたのと自分と婚約できて光栄に思えという傲慢にも程がある考えから相手の迷惑も考えずグイグイ好意を押し付けることに。
育成ゲームでは十歳の時に第二王子との婚約が決定後、今までの家庭教師や傍仕えは外され最上級の家庭教師(主人公)と傍仕えがつけられることとなる。
学園
十六歳から入学資格が与えられる名門。この学園の卒業生は色々な分野で活躍することとなる。乙女ゲームの舞台。通う者の大半以上が、王族や貴族のような高貴な身分の方々な為セキュリティーは万全。王族以外は全寮制。
本編より設定が長いという本末転倒気味の小説。
どうしてこうなった!