quest.5 戦闘《リアルファイト》
テスト終了!
いやぁ、一週間が長かった!
現在進行形で広場へと向かっている俺だが、一旦どんなところだろうか……。
俺がこんな感情を抱くのには理由があって、それは興味だ。先程から何やら人が次々と広場へ向かおうとしているのだ。それを見ていたら、なんだか俺もいきたくなった。蟻の巣があったからとりあえず埋めてみた的なガキ的思考で。
なんでも話では異教徒がどうのとか言う話で、どうやらこの世界では信仰宗教の違いで差別的扱いを受けるようだ。正直俺からすれば、これほどバカらしいことはない。何が悲しくて同じ人間同士で敵対しなければいけないのか。
とりあえず俺は元の世界でも神様とか信じてなかったし、俺の命を拾ったのだって、神じゃなくて女神だ。イコールで、俺は神様をこの世界でも信じない。
だがまぁ面倒ごとに巻き込まれるのも嫌だからな。何かあったときは話を適当に会わせるとしよう。
……ていうか、
「どんだけだよ」
異教徒が、という台詞だけで、あちこちから人がわいてきやがる。これじゃ一向に広場になんてたどり着けないんじゃないのか?
というか、本当にどんだけ神様大好きなんだよ……。大丈夫かよこの世界、国境なんて宗教の違いで戦争続きなんじゃないのか? 俺こんな世界で魔王なんて倒せるのか?
そんないくつもの不安が、俺のなかで込み上げる。
少女にパンを貰った武器屋のまえから広場を目指しはじめて、そろそろ約三十分。
ようやく、俺に視界に広場の高くのびた噴水が映った。きらびやかだか過度な装飾は施されておらず、素材として使われている白い石材が、太陽に照らされて美しく光る。……だけならよかったのだが、本当にその光景だけならよかったのだが、残念ながらいまその周辺にはむさ苦しくギャーギャーと喚くなんとか教信者ともが群がっていた。
正直こんな光景みたくもないが、いつかのために情報収集は必要ということで、仕方なく見ることにしたのだ。
人混みのなかを強引に進んでいく。いくら人にぶつかってもなにも言われないのはおそらくこの騒ぎの所為だと思われるが、そこがもう恐ろしい。
まったく、面倒な世界に来たもんだ。
これは本当に、命がけでやる必要がありそうだな。
俺は一つため息を吐いて、さらに人混みを分けていく。
そして、噴水の全体がようやく見えたかという頃だ。俺は目を疑った。
この世界での、この国での宗教はリュースベルドと呼ばれている。この神は異端と呼ばれるものを酷く険悪していて、その結果異端審問の際異端とわかればあとは……死罪。その場で即刻処刑されるというのだ。
そんなものなぜ通用しているのか。それもこれも、神だろうな。
とにかく俺は、このとき自分の目を、疑った。異端審問を目の前にして、そして、咎人の顔を目にして。
「――嘘……だろ……?」
似ている。明らかに似ている。むしろ似すぎだ。本人であるとしか思えない。
いや、事実本人は死んだはずだし、俺の目に映っているも本人とは若干異なっている。
だがなんだ、この感じは。体がまるで浮きそうだ。もう少ししたら浮けるのではないかと思うほどに体が軽い。
俺はそれほどまでに、彼女のことを考えいたのか。
驚きのあまりからだの力が抜けただとか、そんなレベルじゃないぞ。
まず、異端審問を受けていた人物だが、それは先ほど俺にパンを分け与えてくれた少女だった。多少泥で汚れてしまっているが、ついさっきに会ったばかりだ、身に付けている衣服を見ればわかる。いや、それにも驚いたが、俺が一番衝撃を受けたのはそこじゃない。
それは、彼女の素顔だった。
先ほどあったときは、フードの所為で顔なんてよく見えなかったし、見ようとも思わなかったから気付かなかったが、いざ見てみると、それは俺の知人にそっくりだったのだ。
言ってしまえば、もとの世界で病に殺された彼女だ。
これは偶然か、それとも女神様のいたずらか……それとも必然か……。その答えがわかるよしもないが、そんなことを考えずにはいられない。
とにかく、俺はいてもたってもいられなくなったのだ。
今俺の周りには戦士の格好をしたやつらもいる。剣もある。もちろん俺には剣術の心得も武術の心得もない。だが、それでもただ見ているだけなんてあり得ない。
なにより、思考よりも先に、俺の体は動いていた。
ゴタゴタとした人混みのなかを、一目散に進んでいく、誰にぶつかろうが構いやしない。今目指すのはまず、兵士の剣。
視線を噴水の方へ向けるが、何やら先ほどよりの群衆のテンションがヒートアップしている。異端だと判明したらしい。
このままだと、時間がない。
「この者を異端と見なし、リュースベルドの名のもとに、この者を処刑する!」
ゴツい男の声が広場中に響き渡る。
あれが処刑の合図。そんなもの、考えなくとも見ればわかる。断罪剣を高々と掲げ、今すぐにでも降り下ろそうとする。この光景からいったい他にどんな答えを導き出せばいいのか。
少なくとも俺には思い付かない。
少々悪く思うが、手頃な位置にいてくれた兵士の剣をそっと抜く。そして俺は決死の覚悟で中央へと飛び出していった。
「処刑!!」
「させるか!!」
一瞬にして、二つの声がその場に響く。それと共にまるで金槌で鉄を伸ばすかのような甲高い金属同士の接触音もまた、鳴り響いた。
降り下ろされた一撃は半端なものじゃなかった。大男の本気の一降り。その所為でなった音だ。
なんの心得もない俺にそれを受け止めることができたのは、おそらく運がよかったのだろう。それでも、もし俺の拝借した剣が片刃刀でなかったら、きっと俺の左手は今ごろ両断されていただろう。
中央へとわって入っていった俺は、降り下ろされた剣を十字に剣を当てる形で押さえたのだ。剣の先を左手でおさえ、力を分散させる。
高校では文化部だった俺だが、体育の成績はそれほどにはあった。なめてもらっちゃ困る。マジで花の高校生なめんな。
「うぉりゃ!」
重心となっていた左足に思いきり力をいれて、受けた剣を弾き返す。
相手方もギャラリーも、いきなり現れた俺に相当驚いているようだ。兵士に至っては剣を盗られたことに気付かなかった様子で、本気でビックリしている。……兵士、おい……。
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差し伸べたのは勿論この俺だ。他にはこの少女に手を出そうとするやつなんて誰もいない。みんな異端だどうのと言って、虫けらを見るような視線を送るばかりだ。まったく、腐ってやがる。
正直言って、こんな奴らのために魔王を命懸けで倒すだなんて、馬鹿みたいだなとおもう。だがまぁ、言ってても仕方ないのが現実だ。今はただ、示された道を行こう。
「あなた、先程の……」
俺の登場に驚いているのは少女も一緒だった。それになぜか俺の手を取るのを躊躇っているようにも見える。俺って怖いのかな……。――いや、冗談を言っている場合じゃないな。
「失礼しますよ」
俺は少女の手を掴んで無理やり立ち上がらせた。
「おい貴様! そのものに加担するということは、貴様も異端と見なしこの場で処刑するぞ!」
ゴツイわりに声が高めだからな、男の声が頭に響いてウザいったらない。特にこの状況じゃ、そのウザさが倍増する。
「ギャーギャーうるせぇな、おっさん。んなもん知るかってんだよ」
「何だと貴様! 神の代理人たるこの俺を愚弄するか!」
俺は文化部の癖に喧嘩っ早い性格でもある。そのうえ性格もあまり良いほうではないと言われる。そんな俺が、この状況で敵を煽らずにいられると思うか? 答えは……NOだ!
「なにが神の代理人だ! そんなもんクソくらえ! そもそも俺は神何ざ信じちゃいねえんだよ。そんなに神様が大好きだったら、なんなら俺を納得させてみろよ! 神の代理人さんよぉ!」
「きっさま……、ここまで神を侮辱するとは……」
おぉおぉ、いい年した大人が高校生相手にマジギレしちゃってるよ。大人気ないねぇ。
さて、ここまでは俺の考えたとおりだが、果たして相手がどうでるか。正直、俺に真剣勝負で勝てるとは思わない。だから、穴を見つけ次第ココからとんずらするつもりだ。だがさて相手方がそれを許すかな?
「どうした、神の代理人。悔しかったら神の御業でも見せて俺を納得させてみろよ!」
さぁて煽るだけ煽った。異世界人、どうでる?!
俺に言いたいだけ言われた神の代理人は、歯を食いしばって俯いている。その右手には断罪剣。いまにも斬りかかってきそうなオーラを放っているが、それでもあくまで神の代理人、情で動いてはいけないだろう。
「くっ……。いいだろう。そこまで言うのなら、貴様に我が神聖魔法を見せてやろうではないか!」
なんて言った? 魔法? なるほどこの世界には魔法なんてチーとじみたものがあるのか。そしてそれを俺は使うことはできないと。そういう流れだろこれ女神様?
神の代理人――男の持つ剣の先に、彼の詠唱に合わせて空気中からまさに神聖と修飾するに相応しい光が集まる。そしてそれがどんどん巨大になっていき、一気に圧縮されていく。
おいおいこれ、俺マジでやばいんじゃね?
男の剣の先一点に光が集中したとき、男が叫ぶ。
「神に叛きし異端を滅せよ! 《断罪の天光》!」
おぅ、魔法名まで言うのか、なんか本格的に異世界って感じがするな……。
だがまずい。今の俺にできるのはガードしかない。避けたいのは山々だが、避ければ少女にあたってしまう……。
「――くっ、耐えてくれ……!」
俺は先ほど同様、片刃刀を前へ向けて、守りの体制に入る。だがこれで防ぎきれるかどうかはまったくわからない。今の俺が何を言ってもそれは希望的観測にしかならないだろう。
強い衝撃とともに一点に凝縮された光――《断罪の天光》が剣の刃を削っていく。まるでそれはレーザービームのようで、的確に刃の一点を削っていったのだ。
――そして、剣を貫通した。
次の瞬間、俺の体に今まで感じたことのないような衝撃が走る。
ああこれ、今度こそ死んだかな。異世界入り一日目でこれとか、正直笑えねえ……。
…………。
……。
……あれ? 痛くない?
俺は恐る恐る瞼を開く。まるでこの世界に来たときのように。
血は……でてないな。息も……できる。さっきも言ったが痛くもない。
「あれ?」
辺りを見回してみる。
みな俺に化け物を見るかのような視線を送る。
「き、貴様一体……。俺は確かに貫いたはずだ……」
さっきの神聖魔法とやらはもう見えない。剣も完全に使い物にはならない。だがそれとは対照的に、俺の身体、もとい俺の着ていた制服にも傷ひとつついてはいない。
「効いて……いない?」
俺には魔法は聞かないとでもいうのか?
「魔法を触れもせずに消滅させる魔法なんて、聞いたことないぞ……」
魔法だって? いいや違う。これは魔法なんかじゃない。もっとほかに、何か理由があるはずなんだ。だがなんだ? いや、ここでこそ女神様に答えを聞くべきだな。今はまずここから逃げることを考えないと。
「くそっ、なら、多数からどうだ! ――メイジ隊! やれ!!」
男の号令にあわせて、奴の後方から無数の火の玉が降り注ぐ。おいおい詠唱は聞こえなかったぞ! どういうことだ!
――いや、怯むことはない。俺には魔法が効かないんだ!
「っ!!」
生物の反射として、目の前に現れた光に、火の玉に瞼が降りる。熱も感じた。だが、それからは何もない。身体が焼けるような痛みもない。
また俺は、恐る恐る瞼を開く。だがやはり、ダメージはまったくない。
やはり俺には、魔法は効かない。
だとすれば、敵がひるんでいる今がチャンスだ。
――そう思った瞬間だった。俺は誰かに、いや、背後にいた少女に右手をつかまれた。
「……つかまっててください」
ぼそっと、彼女はそう俺に呟いた。
俺は言われたとおりに彼女の腕につかまる。と言っても、両手でつかむくらいだ。それを確認すると、少女は瞳を閉じて口を開く。
「双星の精霊。宙を舞いし風達よ。古の盟約にしたがい、我にその形を示せ……!」
詠唱。先ほどの男のものとはまた少し雰囲気が違うが、おそらくこれもそうだろう。彼女のそれにともない、足元に人二人ほどが入れるサークルが現れた。これは俗に言う魔方陣という奴だろうな。この世界じゃざらにありそうだが。
現れた魔法陣の上に俺と彼女が乗ると、それはいきなり眩いほどの光を放ち、俺と彼女の身体を浮かせた。そして、一気に上昇、それからものすごいスピードで広場上空を離れていった。……ていうか、こんなことができるならはじめからやっとけよ……。本気で思う。
だがまぁ、今は逃亡に成功したからよしとしようか。
俺は白髪の少女を見て、ふとそう思った。
次回を書くのは今日か明日か!さぁどっち!!!(深夜テンションww)