quest.3 練習《チュートリアル》
投稿遅れましたね;
いやぁ、テスト勉強でね、そうなるんだよ。
書けなくてさ? ね?
別に遊んでたわけじゃないからね? ね!
俺は真っ白な亜空間から禍々しいオーラを放つ巨大な赤い門――入り口へと飛び込んだ。
そうだ。そこまではまだよかったのだ。……なのに何故、俺は落下している? わからない。ただ、なにもわからない俺でもわかるのは、このままだと、地面に直撃すると言うことだけだ。
はは……、笑えねえな。
「――……ぁぁぁああああアアアア!!!!」
空から見る景色はまさに絶景だ。なかなか拝めるものじゃない。元の世界でも飛行機に乗ったことのない俺には、まさにはじめての経験だった。
……なんて、のんきなこと言ってられないのは百も承知。
だが俺はいま、どうせあの世にいくなら少しくらいこの世界を楽しみたいじゃないか、という発想でこうしている。
にしても、美しい世界だ。まさか本当に異世界があるなんて、俺はいまのいままで思っちゃいなかった。だからこそ残念なのだ。これから地面に突撃すると思うと……。はぁ……。
標高が高かったおかげで命が長引いたが、これでもう、終わりか。
俺はゆっくりと(実際は高速)、地面に叩きつけられ……叩きつけられ…………。
「てない?」
恐る恐る恐怖のあまり閉じていた瞼をあける。
今度こそここは天国かなにかか? さすがにあれは……。
見たところ、特に変わった様子はない。緑色の美しい平原が続いている。空も青く、白という無彩色など、どこにも存在しなかった。
大地だってこんなに……こんなに……。
俺の足元に、なんかよくわからない穴がある。まさか俺が落ちてできたとか言わないだろうな……。
そう思った瞬間、ポケットの中の携帯が振動した。メールだ。だが、この異世界でいったいどこから電波拾ってんだ?
俺は携帯を手に取り、メールボックスを確認する。
ぽちっぼちっ。
『言いますよ?』
これがメールの中身だ。
「って女神様かよ!」
俺は漫才で突っ込むような勢いで、危うく携帯を投げそうになった。危ない危ない。女神の言葉を受信する以上、こいつはこの世界での俺の生命線と言っていいかもしれない。もしそれを無くしたとしたら……ああ、なんというか微妙なところだな。
それにしても、まさか女神様からメールが来るなんてな。正直言って引くわ。なんか異世界の雰囲気台無しって感じだな。この風景でメール受信ってのもなんか変だし。
そしてまた、メール受信を知らせるバイブ。
『…………orz』
「女神様?!!」
え、なに? 今の俺の心また読まれてたの? あれ、でもここは亜空間じゃないから俺の心って読めないはずなんじゃないの?
ブー、ブー。
意味ありげにまた携帯が振動する。
ポチッポチッ。
『あなたの心を、任意で五回まで読むことができるんですよ』
という具合で説明が少々。
っていうか……おい、五回ってなんだよ五回って。それってつまりアレだろ? 今のくだらないやりとりですでに二回消費しちゃってるんだろ? なんなの? 女神様ひょっとしてすごいようで頭あれな感じなの? ねぇ? あ、これはいいからね、心読まなくていいからね?
「もう無駄に心読まないでください、っと。これで送信」
手馴れた調子で返信メールを打ち込み、女神からのくだらないメールが来る前に送信ボタンを押す。ぴっぴ、ぴろりんと、なかなか軽快なメロディーが響き、送信が完了する。
――さて、これで女神様があほな事に大事な大事な読心術の使用回数を消費することはないだろう。……え? なんで重要かって? そりゃあれだ。俺がピンチのときに女神様にアドバイスをもらうためだよ。
まぁそんなことはいいとして、最初の「さて」に戻ろうか。
では気を取り直して。
――さて(テイク2)、これでもう俺を邪魔するものはないだろう。これから俺はこの世界で魔王討伐を目指すのだ。……え? 魔王がどこにいるかって? そんなのはアレだ。元の世界の某RPGのような感じで、町中を旅して探し出すんだろう?
ほら、もうそんなことはいいから。
――さて、(テイク3)、これから俺は最寄の町へ向かう。そして、武器を買い、魔王討伐を目指すのだ。
……と、思ったのだが。俺はまだ、この世界のことを何も知らない。俺になにができるのかすらわからない。大抵こういう展開だと、主人公的ポジである俺には何らかのチーと能力だとか、そうでなくとも何かしらの特殊能力補正があるのだが、俺にはそれが感じられない。言ってしまえば、元の世界にいたときとなんら代わりがない。
これは一体どういうことだ?
こういうときこそ、女神様からアドバイスをもらいたい。ということで、女神様、よろしく!
ぴろりんっ。
あからさまな音がなる。まるではいっと言わんばかりの勢いでメールを受信した。メールの受信ボックスを開き、中を確認する。まぁ、確認するまでもなく女神様だと分かるわけだが、昔からの癖でついこうしてしまうのだ。
「えっと、なになに?」
『チート? 特殊能力? なにそれおいしいの? そんなものは君には一切ないからね? 君の身体能力も潜在能力も、元の世界にいたままだよ? ちなみ言語の壁はこっちで補正かけといたから大丈夫だと思うけど、少しは注意してね!』
…………。
え? なにどういうこと?
つまり俺は無能力で、言葉はしっかり通じると……。それで一体俺にどうやって魔王を倒せって言うんだ。おい女神様よぅ……。
「……やばい、無理ゲーだこれ」
哀しみに打ちひしがれる俺。自分を客観視してみろとはよく言うけれど、今そうしてみると、随分と哀れなものだな。
すると、また携帯が振動した。
なんだろう、またアドバイスかな。
『チュートリアルクエスト:町へ行こう!』
タイトルをみた瞬間、俺の心が揺らいだ。それだけは確かだ。もしかしたら少し引いたりもしてるんだろうが、それでも揺らいだ事には変わりない。
これは俺が魔王討伐を成し遂げるための道しるべだ。そうにしかならない。
俺は意を決して、そのメールを開いた。なにしろ、送信元が???となっているのだ。先ほどまでのメールはしっかりと送信元が女神となっていたから、おそらくこのメールの送り主は別にいる。
『現地点より北へ』
内容はこれだけだった。それでも、町の場所すらも分かっていなかった俺には十分すぎるないようだ。これで進路は決まった。いざ、北の町へ。
白いYシャツ姿の俺は、何の躊躇もなく前へ進み始める。
よく考えて見ると俺が落ちた所にできた穴の正体が分からなかったままだが、今更そのためだけに女神様のアドバイスを貰うのはもったいないだろう。それに、きっとそのうちわかるときが来る。そんな気がしていた。
赤いバッグを担ぎ、黒い髪を揺らしながら。