藤堂との戦い
「なぁ、慧美。お前強いんだろ?俺と勝負してくれよ。」
この人を見て思ったことはただ一つ。
「誰?」
「たぶん、前に会ったことあるよな。あれ?なかったけ?」
ボソボソとあれ?どうだっけ?と繰り返し呟いている。
「勝負…する?」
「あ。する!するする!!」
その目はまるでお菓子を貰う沖田の目のようだ。心まで血で染まってしまった汚い私にはとても眩しい。
「じゃ、行くぞ」
え。でも、ここは…
「おい、藤堂ぅぅぅぅぅううう!!!ここは何処だと思っている?ここは廊下だぁぁぁあ」
「あ。土方さん。あははは。すげー顔」
うん。否定は出来ないよ。でも、此処で言う言葉じゃないよね。
「なんだと?おい。待て藤堂!!」
「逃げるぞ」
楽しそうに笑いながら言う。
私は楽しくないのだが。
ったく。余計な事言いやがって。
「じゃ、また後で。」
柱を蹴り、天井裏を目指し、跳ぶ。
「ちょ。待ってよ」
私の後を追いかけようとするが、失敗。もう一度挑戦したが、やはり失敗で終わる。
後ろからは土方の足音と大声が迫ってきている。
「やべ。」
藤堂が走りだす。それを見て、もう疲れたのか、土方は走りを止めた。それに気付かず、藤堂はまだ走っている。
「もう、追いかけてないから、やろう?」
藤堂の前に天井から跳び降りる。
「おう。じゃ、庭でやろうぜ。」
庭には太陽の光がとても当たっていて暑いぐらいだ。
「眩しい…」
「本当に眩しいなぁあ?うおっと」
男子の急所を蹴ろうとしたが、かわされてしまった。
「いきなりとか反則…」
言い終える前つ次の技を繰り出した。
「反則なんて無い。勝てばいいんだ。」
死ななければ良い。私はそう思う。間違っていない。
だって、死んだらもう終わりだろう?すべてのことに。
「可愛い顔していて、なんだか慧美に合わないなあ。」
そう言うと、どこからか木刀を取り出し私を斬ろうとする。
私は軽くジャンプをして、藤堂の持つ木刀の上に乗った。
そのため、重みで藤堂は手放してしまった。
そして落とした木刀を蹴り、藤堂の手に届かないところまでとばす。
ただのアホなら、その木刀を取ろうと必死になるだろう。
しかし、さすが隊長なだけあって、それはしなかった。藤堂の腕が私に急速に近ずいてくる。つまり殴りかかってきているのだ。
私はその拳を掴みんで止め、もう片方の手で目潰しを寸止めでした。
一瞬でやったため、藤堂は勿論避けることが出来ない。
「っつ。降参だ。なんであんなに強いんだ?」
「なんで強いか…死にたくないから。それなら皆同じだ。そのために皆、稽古をしっかりとやっている。」
そして言葉を続ける。
「死にたくないという絶対的な思いと──────深い深い憎しみや恨み」
深く深く私に絡まり付いたドロドロした憎しみ──。
親に人と認めて貰えなかった悲しさ。
それでも私は習い事を必死に頑張った。
それなのに、ただの道具としか思われていないと知った時の絶望感は強く強く覚えている。
あの時から涙は一滴たりとも零れることはなくなった。
人は深い絶望に落ちると涙が枯れてしまうのだろうか──────。