力試し!!
「ふわぁ。」
声を押し殺してあくびをした。
窓に目をやると外は暗闇で包まれていることが分かる。
目を閉じて、起きている人がいないかを確認する。
寝返りを打っている音は聞こえるが、足音はしないので、起きている人は自分だけだということが分かる。
ささっと着替えを済ませる。
たかが着替えごときにこんなに慎重かというと、女とばれないようにするためである。
「キシ…キシ…」
誰かが起きた。
思ったより早いな。誰だろう?
「梅の花 一輪咲いても 梅は梅」
密かに聞こえる詩。
聞いたことあるな。この詩。
え~っと。誰だったけなぁ。───土方だ。
あぁ、すっきりした。土方って結構起きるの早いんだな。
「起きていますか?」
戸の外から山崎さんの声がした。
「はい。起きています。」
これからの事についてとか、色々教えてくれるのかな?
「貴方の力がどれくらいあるのか、分かりません。なので俺と戦ってみましょう。」
「はい。──でも、何処で?」
「外でやりましょう。」
庭のような所へ向かう。
「始めましょう。武器は無し。素手でたたかいます。武器は使い方を完璧にしてからです。では、始めましょう。」
それを合図に殴りかかってきた。
後ろに跳び、避ける。そして、一気に近すぎ腕をつかみ、思いっきり投げる。
しかし、体制をすぐに整える。
けれど、一瞬の隙が生まれた。それが狙いだ。その一瞬で柱を片足で蹴り、山崎さんのお腹に鋭い蹴りを与えた。
「っく。─う。ううう…」
お腹を押さえて立ちあがった。苦しそうだ。
「それだけの力があれば大丈夫でしょう。今からでも、仕事が出来そうです。」
息を切らしながら言う。
「最後の力試しです。副長の部屋から、こっそり何か持って来て下さい。」
副長…土方か。結構偉い人ということを思い出す。
まず、私は部屋に土方が居るかどうかを確認する。
───居る。机にむかい、片手に筆を持ち、仕事をしている。
その机の端には豊玉発句集がある。
あれにしよう。
自分の部屋に戻り、天井裏を通り、音をたてないように気を張りながら土方の部屋の天井裏に着く。
あらかじめ用意していた小石を廊下に向かって投げる。
かこん。こん。こん。石が床に当たり、跳ねる音がした。
「なんだ?また、沖田の悪戯か?」
気をそらせられたらのは良かったけど、沖田。なんか、ごめん。あとで、お菓子あげるね。
天井から降りてお目当ての物をささっと取る。
小石の音を聞き、沖田の悪戯かと思い、部屋から出ていた土方はもう、戻ってきてしまう。
その前に天井に戻り、山崎さんの元へと急いだ。
「ほう…。早いですね。」
山崎さんは驚いた顔をした。
まぁ、慣れだよね。暗殺はもっと慎重にならないといけないから、こんなのは楽な方だ。
「有り難う御座います」
「明日から、早速仕事が有るかもしれないから、それだけ伝えておく。」
豊玉発句集の詩を覚えれば、土方の弱味を握ることになるのではないか。という考えが頭に浮かんだ。
よし。覚えよう。
しれば迷ひ しらねば迷はぬ 恋の道
うぐいすや はたきの音も つひやめる
人の世の ものとはみえず 梅の花
年々に おられて梅の すがた哉
梅の花 一輪咲いても 梅は梅
咲ぶりに 寒けは見えず 梅の花
梅の花 咲る日だけに 咲いて散
どんだけ土方は梅が好きなんだよ。と思ってしまうほど、梅の詩が多い。
あの鬼の副長がこんな詩を作ったと思うと笑いが込み上げてくる。
そろそろ、豊玉発句集を返してくるため天井から土方の部屋へ降り、豊玉発句集を元の机に置き、また天井から自分の部屋に帰った。
───沖田が言うには、土方は豊玉発句集を凄い形相で探していたとか。