ダメ神
歩いていると、突然足の感覚が無くなった。
痺れとは違う。
痒いような不快感なんて無い。ただ感覚が無いだけなのだ。
「ん?何なんだろう?」
目線を足に移した。
足が青い光を放ちながら、少しずつ消えているのだ。
足があった所を触ってみた。
ただ、手が空を切るだけである。
つまり、身体が浮いているということである。
「え。どういう事!?発病したとか?いいや、有り得ない。こんな病気があるはずがない。」
焦っているうちに身体はどんどん消えてゆく。もう光が胸の所まで来てしまった。
「私、死ぬのかな…」
光が私を包み込んだ。
「こんにちは。僕は神で~す」
金髪碧眼の20歳位の美青年がにこにこと微笑みをうかべ、話した。
「今日は。此処は何処ですか?」
今居る場所は暗くて明るい、矛盾した場である。
「此処は僕が創った世界だよぉ。」
ウインク付きで言った。
────うん。顔は良いのになぁ。
残念な神だな。
それにこんなナチュラルにウインクする人、初めて見た。
「えっと。なんで私は何故此処に居るのですか?」
「僕、暇過ぎてつまんないからさ~君をタイムトリップさせて、見てみようと思ってさ。」
「つまり暇つぶし…」
思わず脱力した。
「そのとーり!毎日毎日…同じ様な出来事を見ているだけなんて面白くもなんともないんだもん。」
すねた子供のように頬を膨らませながら言った。
もん。って…子供じゃないんだから。
こんな大人が言ってもキモいだけなんだけど…。
「だからってなんで私なの?」
苛立ちを含めて言ってみた。
さぁ、この神はなんと答えるのか。
この神のことだから、テキトーに選んだのだろう。
「なんで怒るの?だって貴女なら、この世界で生きていても嫌でしょう?桜院財閥の娘だからといって特別視されるのも────親の駒として生きるのも」
声色と瞳が変わった。
その所為であろう。身体の芯がビリリッとした。
あぁ。やっぱりこの人は神様なんだなって感じた。
「親の駒──。」
ちっ。舌打ちをした。
そう。私は親の駒である。
私は暗殺者としても育てられた。
敵会社の社長、
父様や母様の気に入らない人を殺すために。
たぶん私が初めて“殺し”を行ったのは幼稚園の頃だったと思う。
もう、最初はどんな感覚だったかも覚えていないほど、沢山の人を殺した。
幾ら殺しても罪悪感は無くなってしまった。
けれど、殺すのは嫌い。
なんで、なんで私が殺さないといけないの?
父様や母様が殺せばいいのに。
と小さな頃は思った。
今は分かる。分かってしまった。腐った理由を───────。
身体に血の臭いが着くのが嫌だし、もし顔を見られたら、会社が潰される可能性がある。
しかし、私なら。母様の嫌いな父様の元妻の子である私なら顔が見られたとしても、私は父様や母様と縁を切られる。
そして、警察に捕まり二度と母様は私と会うことはないというオプション付きである。
私は警察官に父様と母の命令で殺したとは言えないのである。
もし言ってしまったら
───私の本当の母様が殺されてしまうから。だから私は大人しく捕まらないといけない。
こんな生活に魅力を感じるか────?
否。感じない。感じることは無いだろう。
「タイムトリップ…面白そうね」
ふふっ。口元に手を当てて笑った。
「じゃ。決っまり~。そーれっ」
かけ声と同時に私の身体が黄色い暖かい光に包まれた。そして、風を斬る音がヒュンヒュンと耳元でした。
『ついでに、行く先は江戸時代ですよ』
神の声が聞こえた気がした。