殺害
もう、夏も終わりつつあり、秋が近づいています。
何の虫かは分かりませんが綺麗な鳴き声が家に届いていて秋を感じています。
お母さんが死んだ。
お母さんが死んでしまった。
どうして?
納得できない。どうして死んでしまったの?
病気?それとも……。
重い足取りで家に戻る。
頭が麻痺している。これ以上何も考えたくない。
「慧美。また貴女はふらふらと出かけて!!この家の長女という自覚はあるの?
はぁ…あの女とやはり似て愚かだわ。やはり消して正解だったわ。…っ!!」
口元に白くて美しい手をあてた。その白いすべやかな手は他の人が代わりに汚していることを知っているからこそ、羨ましいなんて思わない。
「お母さんを殺したのはお母様?…いえ、貴女?」
こんな女を母親と呼びたくなくて“お母様”ではなく“貴女”と言った。
「ええ。そうよ。……ねぇ、貴方達、この娘が野獣になる前に殺して頂戴!!とても苦しむやり方で。」
鳥の羽根をびらびらと付いた扇子をピシリッと閉じ、その扇子で私を指した。
「ちょっ、おい、約束が違うぞ!!お前の娘を殺すなんて約束してないぞ!」
「私の身を護るという契約でしたわよね。」
「ああ。泥棒のな。お前の娘はプロの暗殺者じゃないか。勝てる自信なんて無いね。」
シュッ………
ブシャー
ごとん
ポチャンっ
護衛(?)の顔が、身体が真っ赤に塗りつぶされる。
私は手にしていた短剣に付着した“赤”を振り落として鞘におさめる。
護衛がゆっくりと顔の向きを変える。
そこには元々1つだったものが2つになるという異様な光景があった。
それは────────身体と首。
艶やかだった黒髪は血で変色し、絡まっている。
首から出ている血は床に赤い赤い池をつくっている。海になってしまうのではないかと思うほどの速度で池は広がっている。
その中で彼等を怯えさせていたのは殺された彼女ではなく…殺した彼女。
眉毛一つ動かさずに人を斬った彼女。
戸惑いもなく斬った彼女。
この場にいた誰もが彼女に恐怖を感じた。
「お帰り下さい」
この言葉で止まっていた時間が動き出したかのように彼等は帰っていった。