私の地獄
目を開けると大きくて、茶色く変色した古い門がそびえ立っている。
──すぅ。はぁ……。
深呼吸をする。
心を落ち着かせるために。
此処は私の地獄だから。
戻りたくなかった。
「只今帰りました。開けて下さい。」
キィキィキィィィ………がしゃん。
いつになってもこの音は好きになれない。
まるで幽霊屋敷のドアのようだからだ。
「お帰りなさい。貴女お遅過ぎるわ。何か噂が立ったらどうするの?桜院家の名に傷が付いたらどうするの?」
傷が付く?そんなの私にとってどうでもいい。
私は1人でも生きられる。
「ごめんなさい。お母様。以後気を付けます。」
心にもない言葉を言い、門をくぐった。
っはぁー。
かちゃ。
まるで、ドアを開ける音は地獄のような日々の幕開けを告げているようむ胸糞悪かった。
パシンッ
鞭が私の頬に当たる。
明日から夏休みか。
そうでなければ、顔など、人の目に晒される場所に傷など付けるはずがない。
頬が焼けるように痛い。
触ると、ミミズ腫れしてしまっているのが分かる。
「次は無いわよ。あの女がどうなっても知らないわよ」
真っ赤な、真っ赤な、まるで血のような色の口紅を付けた唇を綺麗に弧を描いた。
「っ。お母さん…」
真っ赤な血の海に横たわっているお母さんの姿が浮かぶ。
「お前のお母様は私だけよ」
とても高いヒールで私のお腹を蹴り飛ばした。
「ぐっ…はっっ…」
「ふっ」
私の苦しむ表情に満足したのか、私の前から去った。
お風呂に入ろう。
向こうの世界ではあまり入れなかったからね。
ちゃぷん…
お腹を見ると、赤紫色の痣が出来ている。
お湯が少ししみる。
鏡を見るとやはり頬にミミズ腫れした赤い線がある。
「戻りたいな…。あの世界へ…」
そんな戯れ言なんて言ってられらい。
ぱぱっと着替えて夕飯をつくる。
お父様や、お母様にはシェフが作るが、私には無い。
ピーマンの肉詰めを作り、さっさと完食した。
久しぶりにお母さんの所へ行こうかな。元気かな?
GパンにTシャツにパーカーをはおり、動きやすい格好に着替えた。
靴を手に持ち、窓から出る。
普通に外に出たら、お母様やお父様に見つかってしまう。
窓際に腰掛け、靴を履き、キラキラと輝く、まるで宝石のような夜の町へ飛び出した。
「え…。どうして。なんで…」
お母さんの家が無い。
「ああ、そこに住んでいた人は亡くなってしまって、その土地は売られたのよー」
知らないおばさんが話しかけた。
「し、死んだ…」
「ええ。知り合いだったの?随分前に亡くなっていわよ。確か5年前だったかしら」
5年前……。
もっと、もっと早くお母さんに会いに行けばよかった。
だか、後悔しても
もう遅い。
「有り難う御座いました。」
お母さんが死んでしまった。そう考えると胃がキリキリと傷む。
「さようなら、お母さん。」
小さく呟き、町を後にした。