1−1 美香
これは義理ですが兄と妹が恋をしている話です。特に妹の美香は義理の兄だと知りません。
よって美香の視点では血のつながった兄妹、という見方になっています。
苦手な方は、読むのをお控えくださいますよう、お願いします。
また12歳未満の方は、閲覧を控えていただいた方がよろしいかと思います。
私はきっと他の人とは違っている。それがおかしいことだってことは、ちゃんとわかっている。それでも止められない気持ちが、私の中に眠っている。――それはきっと、私だけの「ひみつ」。
「美香? どしたのぼーっとしちゃって」
「あ、うん……」
名前を呼ばれて、私は止まっていた箸を持つ手を再び動かし始めた。七月末の学校は、もうすぐ迎える長い休みへの期待に、なんだか浮かれた雰囲気だ。
笹原美香、17歳、高校生。昼休みに弁当をつつきながら、適当に話をする。その辺の高校では当たり前のそんな風景の中に、私はいる。
「ねぇ、かよちゃんはさぁ」
「ん?」
「彼氏のどこが好きなの?」
かよちゃんにそう聞くと、かよちゃんの顔は途端に緩んだ。かよちゃんはいつも一緒に弁当を食べている私の友達だ。
かよちゃんは、黒髪ロングのストレートの私とは反対に、パーマのかかったショートの茶色い髪をしている。そして話すより聞くタイプの私と反対のよくしゃべる女の子だ。彼氏と付き合い始めて一カ月、最近は少し落ち着いてはきているけれど、やはり彼氏の話となるとかよちゃんは止まらない。
「うーんそうだなぁ! どこっていうかぁ、全部? 美香も彼氏できたらわかるよ」
「そうなんだ」
一応頷いてはみたものの、私にはやっぱりわからない。かよちゃんは友達の紹介で彼氏と出会ったらしいけれど、すぐ好きになって付き合い始めていた。私にはそんなに簡単に人を好きになれるとは思えない。
「なんなら美香にも誰か紹介してあげるよ。あたしの彼氏に頼んであげる。美香は可愛いからすぐいい人見つかるよ」
「じゃあ、そのうちね」
私がそう言ったら、かよちゃんは箸を置いておもむろに溜息をつくと、少しあきれたような表情をした。
「もう、いつもそれじゃん。美香ってさ、どっか冷めてるよね」
「そうかな? そんなことないって思うけど……」
冷めている、とかそんなことじゃなくて、ただ、私には彼しか見えていないだけなのだ。彼以外に興味がないから、冷めているように見えているのかもしれない。そんなことを考え込んでいると、かよちゃんが私に向き直って真剣な表情をした。
「マジな話、美香、今までに誰か好きになったことある?」
「……あるよ」
「ウソ、あるの? どんな人?」
「ずっと昔からね、一緒にいた人なんだよ」
ずっと昔からの、叶わない恋だけれど。いつも笑顔で優しくて、私はそんなところが大好きだった。少しでも多く一緒にいたいから、部活もしていない。放課後になるとまっすぐ家に帰る。だって家には彼がいるから。
今日も家に帰ると、居間でパソコンに向かっている彼の背中が目に入った。そういえば今日もレポートがあると言っていたのを朝に聞いた。
「ただいま、達也」
「……美香。そう呼ぶのはやめろって」
振り向いてそう言う彼に、私はいたずらっぽく口をとがらせて見せた。
「いいでしょ。達也って呼びたいんだから」
「あのなー。お兄ちゃん、だろ」
少し困ったような笑顔で、立ち上がって私の前まで来た彼は、私の髪をくしゃっと撫でた。それだけで、私の胸は苦しくなる。30センチの身長差。見上げるとやさしい笑顔がある。私とは全然似ていない、とても綺麗な顔立ちと、すらっとした長身。彼を見ると女の人に人気があるのも当然だと、誰もが納得する。
消せない、私の許されない想いは、すべてこの人に向かっている。
例え永遠に気持ちが届かなくても、この人のそばに、いたい。
お兄ちゃん。例え血がつながっていても、私の大好きな人。