桃山さん
学校に着くと、林檎はもう席について今日提出の宿題を必死にしていた。
林檎の席と僕の席は、隣である。
僕が窓側でその横が林檎だ。
後ろから二列目なので、寝ててもギリギリセーフかアウトの席だ
「林檎」
「……ん」
「さっきは、悪かったよ」
林檎は僕の顔を見なかった。
「う、ん。」
ただそう言うと、止まっていたペンが動き始めた。
重いカバンを机に置く。
「重そーだね、持ってもいい?」
「!?」
あまりに唐突に声がするもんだから驚いてしまった。
横を見ると林檎…ではなく、ここのクラスの委員長。
桃山さんが立っていた。
「あ、桃山さん。…おはよう」
「おはよう。」
桃山さんはそういうとチャームポイントの黒ぶち眼鏡をクイッと上げてみせた。
「置き勉、してないの?」
「え?あ、あぁ。」
置き勉とは、学校に教科書やノートを置いて、カバンを軽くして帰ることができ、その次の日も軽いカバンで登校ができる、と僕は解釈している。
「うーん…。なんか、物とか取られるとかあったら嫌だな…とか思ってさ。」
「そっか。偉いね。」
「え?桃山さんはしてるの?」
桃山さんの黒い髪がサラリと風に吹かれ、乱れる。
「うん。だって私の家遠いからさぁ、重いと肩、痛くなってくるんだもん。」
「まぁ、たしかにね。」
「でしょ?ならすればいいのにー
「ねぇちょっと!」
『ガタンっ!!!』
と、そこで桃山さんとの会話が途切れた。
原因は
「どうかしたの?
林檎ちゃん?」
林檎だった。