表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
林檎  作者: 裏夏
1/10

彼女は林檎という名だった。


彼女は林檎のように甘い笑顔だった。


彼女は林檎のように真っ赤になった。


あの日。



-20××年7月12日-

「相変わらず、暑いね~」

彼女は僕にそう言った。

「うん。今年は去年より暑いらしいよ」

僕は彼女にそう言った。

目がパチリと合った。

紅い目が一瞬僕を見て、すぐ遠くを見つめた。

「…暑いね。」

そう彼女がまた、そっと呟いた。

「…うん」

消えそうな声で僕も呟いた。


吹奏楽部の合奏の音がグラウンドに響きわたり、僕の鼓膜も揺らした。

「吹奏楽部、すごい、ね。」

途切れ途切れの彼女の声も、また、僕の鼓膜を揺らした

「うん。確かに。」


林檎は元々吹奏楽部に入りたかったみたいだが、親からお金の問題で却下され、そうして今は美術部にいる。


僕は、右手に持っていた筆を再度握り直し、目の前の校舎を見つめて、まだ下書きしか描かれていない画用紙に筆を走らせた。

水が、紙に滲む。


「林檎も描きなよ。部長に怒られるよ?」

「うん…。」

ただ素っ気ない返事だけが返ってきた。まだどこか遠い所を見ている。

きっと吹奏楽部の部室だろう。


もうこれ以上、林檎に何を言っても聞こうとしない、と判断した僕は、パレットに絵の具を出した。


「いいな、」

林檎がそっと呟いた。

「え?」

聞き返しても返事は無い。


林檎はやっと、下書きを始めた。


-部活終了後-

美術部は僕と林檎と、あと、3年が僕ら含めて5人、2年は2人、1年は4人と、11人しかいない部活だ。

顧問もほとんど来ないし、副顧問は役にたつところか、部活に1度しか顔を出さなかった。


帰りはだいたい僕は一人で帰っていたのだが…


「ねぇ」

「林檎?どうしたの。」

紅い目が泳いでいる。赤茶色の綺麗な長い髪が風で乱れた。

「一緒、に…帰ら、ない…?」

また、途切れ途切れだった。顔がふと紅い気がしたが、夕焼けのせいだろうか?

「うん」

僕はそう言うしか、

無かった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ