眺める
三題噺もどき―きゅうひゃくさんじゅうよん。
眼下に広がっているのは、見慣れない町。
所々に高い建物が並び、スーパーの看板も見える。
白い広場は学校の校庭だろうか。
「……」
見えるのは、私の住んでいる町。
見慣れないのは、こんな高さから見ているから。
こう見ると、この町もたいして広くはないのだろうと思う。
「……」
私の通う高校……らしき建物も見える。
ならあそこはいつも行くスーパーだろう。
反対側には工場のようなものが並んでいる。
「……」
見慣れた町ではある。
確かに。
建物は何か分かるし、場所の把握もなんとなくできる。
「……」
けれどこう。
どこかぼんやりと靄がかかったような。
端の方が見えないのは当たり前かもしれないけれど、それにしても見えないと言うか。
そもそも、分かるところしかはっきりと見えていないと言うか。
「……」
ごちゃごちゃしたあたりとかは、なんだか霧のようなものがかかっている。
建物が小さすぎてモザイクみたいに見えているわけではなく。
ほんとに、うっすらと白い影が、記憶にはっきりしない場所にはかかっている。
「……」
そんな局所的に霧が発生しているのなら、仕方ないが。
そもそも街中でそんなに霧が発生するのかという問題があり。
この山に霧がかかるならまだしも。
「……」
私が今いる位置は、町の端にある山の、その上にある観覧車の更に頂上付近。
かなり高い位置まで来ているから、景色的にはよくよく見えていて。
今日は特に天気が悪いわけでもない。曇っても居ない。
オレンジ色の輝かしい空が広がっている。
「……」
やけにぼんやりとしている景色。
ちょっと考えれば、こうしておかしな景色だと気づく。
このオレンジだって、夕日なんだろうけど。
「……」
何で夕方にこの観覧車に乗っているのだろう。
ここは高校の近くではあるけれど、わざわざ乗りに来ることなんてない。
そもそも山の頂上にあるのだ。急な坂を上ってくるには自転車や徒歩ではあまりにも苦痛だ。あの子に誘われたならまだしも、そんなこともない。
「……」
だって、ここには私1人しかいない。
ごうんごうんと、音を上げて回っている観覧車の籠の中に。
私1人。これもおかしな話だ。
「……」
考えれば考えるほど。
おかしな景色におかしな現状。
明らかに現実味はない。
けれど。
「……」
私は考えることをやめた。
見えている景色がすべてだし。
そういう事もあるんだろう。
「……」
もうなんてもいいし。
考えたくもない。
考えれば考えるだけ疲れる。
「……」
何も考えずに。
ただ流れに任せて。
なるようになっていく方が。
「……」
楽で、周りにも迷惑をかけないし、考えて動く方が迷惑をかけるんだから、そっちのほうがいいし、自分の意思なんてない方がいいわけで、周りがそう言うからそう動いたって方がましで、自己主張なんてもってのほかで。
「……」
町の景色は徐々に遠ざかる。
何も見えなくなっていく。
―あぁ、そろそろ起きなくては。
「……」
頭の上でアラームが鳴る。
リビングから母の呼ぶ声が聞こえた。
「……」
今日もまた、一日が始まる。
お題:観覧車・オレンジ・空




