転生したらピカッと自主規制になりました。
「ごふっ……!」
ここは異世界、王都郊外の草原。
俺こと獅子王凱は、いつものようにスライムの体当たり(そよ風程度の衝撃)を受けてあばら骨にヒビが入り、吐血して地に伏せていた。相変わらずの究極虚弱体質だ。
「凱さま、無理なさらないでくださいっ! ヒール! エクストラ・ヒール!」
俺の専属回復役の少女が、悲鳴を上げながら慌てて回復魔法をかけてくれる。いつもすまない。
「大丈夫ッスよ、凱先輩! ここは俺に任せてください!」
自信満々に前に出たのは、今日たまたまギルドで一緒にパーティーを組むことになった新米冒険者、スズーキだ。
スズーキ。本名、鈴木光宙(すずき・●●●●●)。
彼も俺と同じ、日本からの転生者である。
なんでも、前世で親が某世界的コンテンツのマスターを目指していたため、そんな名前を付けられたらしい。その名前のおかげで、転生時に神様から【世界に一つだけのユニーク召喚獣】をもらえるというチート特典を得たそうだ。
「俺の相棒の力、見せてやりますよ! いけっ、俺の召喚獣! 君に決めたッ!」
スズーキがビシッと前方を指差すと、足元に眩い光の魔法陣が浮かび上がった。
光の中から現れたのは……二頭身の丸っこいフォルム。
全身が鮮やかな黄色で、背中には茶色い縞模様、尻尾はギザギザのイナズマ型、そして頬には赤い電気袋。
誰がどう見ても、一目で分かる、あの世界中の誰もが愛する『電気ネズミ』だった。
「ピ――ッ!!」
「……え?」
その愛らしい(はずの)生き物が口を開いた瞬間、鼓膜を突き破りそうなほどの甲高い『自主規制音(ピー音)』が響き渡った。
同時に、その生き物の全身に、不自然なほど極太のブロックノイズと強烈なモザイク処理がバチバチと走った。
「ピ、ピーッ! ピーピーッ!!」
「……」
「な、なんだアレ!? なんかモザイクかかってるぞ!?」
スライムに突撃しようとするモザイクまみれの物体を見て、スズーキ本人が一番驚いていた。
俺は、全てを悟った。
異世界のシステム(神)は、強大すぎる存在からこの世界を守るために、絶対的なコンプライアンス・フィルター、すなわち『著作権法遵守機構』を強制発動させたのだ。
「あれは……アレは出していいヤツじゃない……っ!」
俺の腹の奥底から、今までにないほどの激しい痛みがせり上がってきた。
ただでさえ貧弱な俺の胃壁が、極度のストレスにより分泌された大量の胃酸で急速に溶解していく。視界の端でチカチカと明滅する激しいモザイク処理は、俺の脆弱な視神経を焼ききろうとしていた。
「ぐぉぉぉぉっ! い、胃に穴がッ! 視界が、法・的・措・置に塗り潰される……ッ!」
「凱さま!? また胃に大穴がっ! 吐血が止まりません! ヒール! ヒール!!」
「いけっ! モザイク獣! 十万〇ルトだ!」
「やめろスズーキ!! それ以上刺激するな! そのワザの名前を口にしたら、株式会社(世界)の巨大な法務部が降臨して、この異世界ごと存在を消滅させられるぞォォッ!!」
俺が断末魔のような叫び声を上げた直後だった。
ゴォォォォォンッ……!
空気を切り裂くような巨大な羽音が聞こえ、俺は吐血しながら空を見上げた。
そこには、空を飛ぶ、大きな【オレンジ色の翼竜】の無骨な影があった。
立派な翼、二本のツノ、そして尻尾の先端にはメラメラと燃え盛る炎。
「……ま、まさか……あいつも……?」
嫌な予感が爆発し、俺は瀕死の身体を引きずりながら、フラフラとその影を追いかけた。
影が降り立った丘の向こう。
そこに居たのは、一人の屈強な冒険者と、彼に寄り添うように佇む巨体の翼竜……。
「ん? どうしたお前ら。俺か? 俺は『吉田リザードン(本名)』だ。こいつは俺の相棒の炎竜さ」
(オチそこかよォォォォォッ!!!)
前世の親のネーミングセンスに全力でツッコミを入れながら、俺は大量の血を吐いてそのまま白目を剥き、ついに意識を手放したのだった。
「凱さまぁぁぁぁぁっっ!!」
(続く)




