表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
施設管理業異世界転生『予知保全スキルで異世界のインフラを守ります ~ビルメンは世界の破滅フラグを見逃さない~』  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/41

第三十八話 黒崎の暴走

神殿の入り口に、帝国軍の旗が翻っていた。


 その数、およそ五百。


 完全に包囲されていた。


「なぜ、帝国軍がここに……」


 リーネが、不安そうに言った。


「黒崎だ」


 桐生は、断言した。


「黒崎も、大災厄のことに気づいていた。そして、この神殿の存在も知っていた」


「なぜ、そんなことが——」


「俺と同じスキルを持っているからだ。いや、正確には、俺と対になるスキルを」


 桐生は、神殿の外を見つめた。


「黒崎のスキル【最適解析】は、『最適解』を計算する能力だ。大災厄という『問題』に対する『最適解』を、彼も計算しているはずだ」


「その最適解とは……」


「おそらく、『大災厄を利用する』ことだ」


 桐生の言葉に、リーネが息を呑んだ。


「利用する……?」


「ああ。大災厄で旧秩序を破壊し、その後に自分の理想の秩序を構築する。黒崎なら、そう考えるだろう」


 桐生は、拳を握りしめた。


「黒崎は、大災厄を『止める』気はない。むしろ、『制御』しようとしている。自分に都合の良い形で、世界をリセットするために」


 その時——。


 神殿の入り口から、一人の男が歩いてきた。


 黒崎だった。


 帝国軍の軍服を着た彼は、悠然とした足取りで桐生たちに近づいてきた。


「久しぶりだな、桐生」


 黒崎は、薄く笑った。


「まさか、お前も同じ結論に達するとは思わなかったよ」


「黒崎……何を企んでいる」


「企む? 人聞きの悪いことを言うな。俺は、世界を『最適化』しようとしているだけだ」


 黒崎は、神殿の中を見回した。


 その目が、制御装置に留まった。


「なるほど、これが世界の『制御装置』か。面白い。お前がすでに操作したようだな」


「ああ。大災厄を止めるために、設定を変更した」


「止める?」


 黒崎は、鼻で笑った。


「馬鹿なことを。大災厄を『止める』だと? それは、最悪の選択だ」


「何だと?」


「考えてもみろ。この世界は、非効率の塊だ。古い慣習、無駄な伝統、非合理的な制度——すべてが、効率を阻害している」


 黒崎の目が、狂気じみた光を帯びた。


「大災厄は、それらを一掃するチャンスだ。一度すべてを破壊し、ゼロから作り直す。そうすれば、理想的な世界を構築できる」


「理想的な世界……お前の言う『理想』とは、何だ」


「効率が最大化された世界だ。無駄がない。非合理がない。すべてが計算通りに動く。そんな世界だ」


 桐生は、黒崎を睨みつけた。


「そんな世界に、人間は住めない」


「住めない? なぜだ」


「人間は、無駄の塊だからだ。感情がある。迷いがある。効率だけを追求すれば、人間性は失われる」


「人間性?」


 黒崎は、冷笑した。


「そんなものは、幻想だ。人間も、結局は『機械』に過ぎない。入力に対して、出力を返す。それだけの存在だ」


「違う」


 桐生は、声を強めた。


「人間は、機械じゃない。予測できない行動をする。非効率な選択をする。だから、面白いんだ。だから、価値があるんだ」


「価値? 非効率に価値があるだと?」


「ああ。お前は、効率ばかり追求するから、それがわからない」


 桐生は、一歩前に出た。


「元の世界でも、お前はそうだった。数字しか見ていなかった。現場の声を聞かなかった。その結果、何が起きた? 設備は爆発し、人が死んだ。俺も死んだ」


「それは——」


「お前のやり方は、間違っている。効率を追求するあまり、大切なものを見失っている。人の命、人の心、人の可能性——そういうものを、お前は『コスト』として切り捨てている」


 桐生の声に、怒りが滲んだ。


「大災厄を利用して世界を作り直す? 冗談じゃない。それは、何十億という命を犠牲にすることだ。お前は、そんなことを『最適解』だと言うのか」


「犠牲は、必要なコストだ」


 黒崎は、平然と答えた。


「短期的には犠牲が出る。だが、長期的には、より多くの人間が幸福になれる。トータルで見れば、プラスだ」


「トータル……」


 桐生は、絶句した。


 この男は、本気で言っている。


 何十億の命を、「コスト」として計算している。


 元の世界でも、この男はそうだった。


 現場の安全より、数字を優先した。


 その結果、人が死んだ。


 そして、この世界でも——。


 同じことをしようとしている。


「お前を、止める」


 桐生は、決意を固めた。


「この世界を、お前の好きにはさせない」


「止める? どうやって?」


 黒崎は、後ろを振り返った。


 神殿の入り口には、五百の帝国軍が待機している。


「お前たちは、たった数十人だ。俺たちに勝てると思うか?」


「勝てるかどうかは、やってみないとわからない」


 桐生は、ガルドに目配せした。


 ガルドは、頷いた。


「キリュウ殿、私たちが時間を稼ぎます。その間に、制御装置を確保してください」


「ガルド……」


「大丈夫です。私たちは、精鋭中の精鋭です。五百程度、持ちこたえてみせます」


 ガルドは、剣を抜いた。


「リーネ様も、キリュウ殿と共に。お二人が、世界の希望です」


「ガルド……ありがとう」


 リーネが、涙を浮かべながら言った。


「必ず、戻ってきて」


「はい。必ず」


 ガルドは、部下たちを率いて、神殿の入り口に向かった。


 黒崎は、それを見て笑った。


「愚かな。数十人で五百人に挑むとは」


「愚かじゃない」


 桐生は、制御装置に向かいながら言った。


「彼らは、仲間だ。俺を信じて、時間を稼いでくれている。その信頼を、俺は裏切らない」


「信頼……くだらない」


「くだらなくない。お前には、理解できないだろうがな」


 桐生は、制御装置に手を当てた。


 システムが、起動した。


「『世界施設管理官・セイイチ・キリュウ。何をしますか?』」


「大災厄の完全停止。そして、黒崎を——」


 その時——。


 黒崎が、動いた。


 驚くべき速さで、桐生に近づいてくる。


「させるか!」


 黒崎の手から、黒い光が放たれた。


 それは、彼のスキル【最適解析】の別の側面——「最適な攻撃方法」を計算し、実行する能力だった。


「くっ……!」


 桐生は、とっさに身をかわした。


 黒い光が、すぐ横を通り過ぎる。


 だが、制御装置への操作は中断されてしまった。


「桐生、お前の『予防』は、俺の『効率』に勝てない」


 黒崎が、追撃を仕掛けてくる。


「お前は、いつもそうだった。『予防が大事』『長期的視点が重要』——綺麗事ばかり並べて、何もできない」


「黙れ」


 桐生は、黒崎の攻撃をかわしながら言った。


「俺は、お前のせいで死んだ。お前の『効率主義』のせいで」


「俺のせい? 違うな。お前が、『根拠のない進言』をしたから却下されたんだ。数字で証明できないものは、信用できない」


「数字で測れないものにも、価値はある」


 桐生とリーネは、制御装置を挟んで、黒崎と対峙した。


 決戦の時が、迫っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ