第三十五話 スキルの真実
古代神殿への遠征を前に、桐生は一つの疑問を抱えていた。
なぜ、自分のスキルは世界規模の異常を察知できるのか。
千年前の施設管理官にはできなかったことが、なぜ自分にはできるのか。
その疑問を解くために、桐生はスキルについて深く考察することにした。
まず、スキルの発現条件を振り返った。
自分がこの世界に来た時、与えられたスキルは【予知保全(CBM)】だった。
元の世界で自分が追求していた「予防保全」の概念が、そのままスキルになったような能力だ。
だが、最初は設備の異常しか感知できなかった。
魔導炉、水道管、城壁——そうした「人工物」の異常だけだ。
それが、いつからか変わった。
人間の体調、政治情勢、天候——そうしたものまで、「異常」として感知できるようになった。
そして、今は——。
世界全体の「異常」を感知できる。
「スキルが、進化している……」
桐生は、呟いた。
だが、なぜ進化したのか。
きっかけは何だったのか。
桐生は、これまでの出来事を振り返った。
最初に「設備以外の異常」を感知したのは、いつだったか。
それは——。
魔導炉の危機を防いだ後だった。
あの時、桐生は「勘」で緊急停止を決断した。
スキルの反応は曖昧だったが、「何かがおかしい」という直感があった。
そして、その直感は正しかった。
炉心に亀裂が見つかり、爆発を未然に防いだ。
あの時から、スキルの範囲が広がり始めた。
「……俺の『意志』が、スキルに影響を与えている?」
桐生は、仮説を立てた。
スキルは、単なる「能力」ではない。
自分の信念、自分の意志と連動している。
「壊れる前に直す」「予防する」という強い意志が、スキルを進化させている。
その仮説を検証するために、桐生は実験を行った。
まず、意識を集中させ、「世界全体の異常を感知する」と強く念じた。
すると——。
視界が、一瞬で変わった。
バルトハイムの城壁が消え、代わりに広大な大陸の地図が浮かび上がった。
そして、その地図上に、無数の「色」が見えた。
緑、黄色、赤——異常の程度を示す色だ。
「これは……」
桐生は、息を呑んだ。
世界全体の「異常マップ」が、見えている。
大陸の各地に、黄色や赤の点が散らばっている。
特に、大陸の中央——古代神殿があるとされる場所は、真っ赤に染まっていた。
「すごい……これが、俺のスキルの真の力か」
だが、同時に、別のものも見えた。
世界の「下層」とでも言うべきものだ。
地図の下に、複雑な線が走っている。
それは、魔力の流れを示していた。
大地の中を、魔力が血管のように流れている。
そして、その流れの中に、「詰まり」がある。
詰まりの場所では、魔力が滞留し、圧力が高まっている。
それが、「異常」の正体だった。
「世界は……本当に『設備』なのか」
桐生は、見えている光景に圧倒された。
古文書に書かれていた「世界は神々が作った装置」という記述。
それが、文字通りの真実だった。
世界全体が、一つの巨大な「設備システム」。
大地、空、海——すべてが、魔力を循環させるための「配管」であり「機器」だった。
そして、千年の時を経て、その「配管」に詰まりが生じている。
詰まりが限界を超えれば、「配管」は破裂する。
それが、大災厄——魔素汚染の正体だった。
「俺のスキルは、この『設備システム』の異常を感知するためのもの……」
桐生は、理解した。
自分がなぜこの世界に召喚されたのか。
なぜ、【予知保全】というスキルを与えられたのか。
それは——。
世界という「設備」を、メンテナンスするためだ。
千年前の施設管理官にはできなかったこと。
世界全体の異常を察知し、「壊れる前に直す」こと。
それが、自分に与えられた使命だった。
「……大きな仕事だな」
桐生は、苦笑した。
元の世界では、ビルの設備管理が精一杯だった。
それが、今は世界全体の「設備管理」を任されている。
スケールが違いすぎる。
だが——。
やるべきことは、同じだ。
異常を察知する。
原因を特定する。
対処法を考える。
そして、実行する。
それが、施設管理者の仕事だ。
世界規模でも、基本は変わらない。
「よし」
桐生は、決意を新たにした。
スキルの真実がわかった今、次にやるべきことは明確だ。
古代神殿に行き、「制御装置」を調べる。
そして、世界という「設備」を、「壊れる前に直す」方法を見つける。
それが、自分の使命だ。
桐生は、リーネの元に向かった。
「リーネ様、報告があります」
「はい、何でしょうか」
「俺のスキルの真実がわかりました。そして、大災厄を防ぐ方法も、見えてきました」
リーネの目が、輝いた。
「本当ですか?」
「はい。ただ、実行するには、古代神殿に行く必要があります。神殿の『制御装置』を操作しなければ、大災厄は防げません」
「では、すぐに出発しましょう」
リーネは、立ち上がった。
「準備は整っています。ガルドの護衛部隊、物資の調達、ルートの確認——すべて完了しています」
「さすがです」
「当然です。世界の命運がかかっていますから」
リーネは、微笑んだ。
「キリュウ殿。私は、あなたを信じています。あなたなら、必ず世界を救えると」
「……ありがとうございます」
桐生は、深く頭を下げた。
「必ず、期待に応えます」
出発の日が、迫っていた。




