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施設管理業異世界転生『予知保全スキルで異世界のインフラを守ります ~ビルメンは世界の破滅フラグを見逃さない~』  作者: もしものべりすと


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第三十三話 広がる予兆

戦争が本格化してから、三ヶ月が経過した。


 帝国軍の進撃は、当初の勢いこそあったものの、徐々に鈍化していた。


 王国側も必死の防戦を続け、戦線は膠着状態に陥りつつあった。


 バルトハイムは、最前線から少し離れた位置にあるため、直接の戦火は免れていた。


 だが、桐生の仕事は増える一方だった。


 避難民の受け入れ、負傷兵の後送支援、物資の備蓄管理——。


 戦時下のインフラ維持は、平時の何倍もの負荷がかかる。


 ある夜のことだった。


 桐生は、いつものように城壁の上で夜空を見上げていた。


 点検巡回を終えた後の、束の間の休息。


 星空を眺めながら、今日の作業を振り返る。


 それが、桐生の日課になっていた。


 だが——。


 その夜、桐生は異変を感じた。


 スキル【予知保全】が、勝手に発動したのだ。


「……何だ、これは」


 桐生は、目を見開いた。


 視界の端に、淡い光が見える。


 それは、設備の異常を示す「色」だった。


 緑は正常、黄色は要注意、赤は危険。


 普段は、設備を見た時にだけ発動するスキルだ。


 だが、今は——。


 空を見上げているだけなのに、色が見える。


 しかも、その色は——。


 赤だった。


 空全体が、薄い赤色に染まっている。


「……何だ、これは」


 桐生は、困惑した。


 空が「壊れている」?


 そんなことが、あり得るのか。


 だが、スキルは嘘をつかない。


 これまで、スキルが示した異常は、すべて現実のものだった。


 ならば、この「赤」も——。


「空が……壊れかけている?」


 桐生は、呟いた。


 その言葉の意味を、自分でも理解できなかった。


 翌日——。


 桐生は、リーネに報告した。


「空が……壊れている、ですか」


 リーネは、困惑した様子だった。


「はい。昨夜、スキルが勝手に発動して、空全体が赤く見えました。これまで、こんなことはありませんでした」


「空が壊れるとは、どういう意味でしょうか」


「正直、俺にもわかりません。ただ、スキルが示す以上、何かの異常があることは間違いない」


 桐生は、窓の外を見た。


 昼間の空は、普通の青空に見える。


 だが、スキルを発動させると——。


 やはり、薄い赤色が見えた。


「……やはり、見える」


「キリュウ殿?」


「スキルで見ると、空が赤いんです。壊れかけている設備の色です」


 リーネは、しばらく黙っていた。


 そして、静かに言った。


「……もしかすると、古文書に関係があるかもしれません」


「古文書?」


「はい。城の書庫に、千年前の記録が残されています。私も詳しくは読んでいないのですが、『世界の異変』について書かれているそうです」


「見せてください」


「わかりました。ご案内します」


 城の地下にある書庫。


 そこには、膨大な量の古文書が保管されていた。


 埃っぽい空気、かび臭い紙の匂い。


 桐生は、リーネに案内されて、奥の一角に向かった。


「こちらです。千年前の記録が、この棚に」


 リーネが指差した棚には、古びた革表紙の本が並んでいた。


 桐生は、その中の一冊を手に取った。


 表紙には、古代文字で何かが書かれている。


 桐生には読めなかったが、リーネが訳してくれた。


「『大災厄の記録』……そう書かれています」


「大災厄……」


 桐生は、本を開いた。


 中には、細かい文字がびっしりと書かれていた。


 図や絵も含まれている。


 リーネが、ゆっくりと読み上げた。


「『千年の周期を経て、世界は浄化される。魔素の濁りが極まりし時、天は裂け、地は揺れ、すべての生命は灰燼に帰す。これを【魔素汚染】と呼ぶ。先人たちは、この災厄によって半数の民を失った。生き残りし者たちは、この記録を残し、後世に警告を伝えんとす』」


「……千年周期の災厄」


 桐生は、眉を顰めた。


「つまり、千年ごとに世界規模の災害が起きる、ということですか」


「そのようです。そして……」


 リーネは、ページをめくった。


「『次なる災厄は、千年後に訪れる。その予兆は、空の歪み、大地の震え、魔力の乱れとして現れる。これらの兆候を見逃すな。災厄は、突然来るのではない。必ず予兆がある』」


 桐生の背筋が、凍りついた。


 空の歪み。


 大地の震え。


 魔力の乱れ。


 まさに、自分がスキルで感知している「異常」そのものだった。


「リーネ様。この記録が書かれたのは、いつですか」


「千年前です。つまり……」


 二人の目が合った。


「今が、千年後……」


「はい。災厄が来る時期と、一致します」


 桐生は、古文書を握りしめた。


 スキルが示していた「空の異常」。


 それは、千年に一度の大災厄の予兆だったのだ。


「……これは、大変なことになった」


 桐生は、呟いた。


 戦争どころの話ではない。


 世界そのものが、崩壊しようとしているのだ。


 その日から、桐生の行動は変わった。


 都市のインフラ維持だけでなく、世界全体の「異常」を監視し始めたのだ。


 スキル【予知保全】を最大限に発動させ、周囲の状況を常にスキャンする。


 すると、様々な異常が見えてきた。


 まず、空。


 空全体が、薄い赤色に染まっている。


 これは、どこにいても変わらなかった。


 次に、大地。


 城壁の上から遠くを見ると、山々の輪郭がわずかに歪んで見える。


 スキルで確認すると、地下深くで何かが蠢いているような反応があった。


 そして、魔力。


 バルトハイムの魔導炉は、桐生の整備によって安定していた。


 だが、その魔導炉にも、わずかな「揺らぎ」が見え始めていた。


 外部からの干渉——何か、大きな力が、世界全体の魔力を乱しているようだった。


「これは……予想以上に深刻だ」


 桐生は、データを整理しながら呟いた。


 古文書に書かれていた「予兆」が、すべて現実のものとして観測されている。


 しかも、その強度は日に日に増している。


 このまま放置すれば、数ヶ月から一年以内に、大災厄が発生する可能性が高い。


 桐生は、リーネと緊急会議を開いた。


「現状を報告します」


 桐生は、集めたデータを説明した。


 空の歪み、大地の震え、魔力の乱れ——すべてが、千年前の記録と一致していること。


 そして、異常が日々悪化していること。


「……つまり、大災厄は避けられない、ということですか」


 リーネの声が、震えていた。


「いいえ。まだ、わかりません」


 桐生は、首を振った。


「古文書には、『予兆がある』と書かれていました。予兆があるということは、対処できる可能性があるということです」


「対処……」


「はい。俺のスキルは【予知保全】です。壊れる前に、異常を察知して対処する。それが、俺の仕事です」


 桐生は、リーネの目を見た。


「世界が壊れかけているなら、俺はそれを直す方法を見つけます。それが、俺に与えられた使命だと思います」


 リーネは、桐生の言葉を聞いて、少し表情が和らいだ。


「……キリュウ殿は、本当に強い方ですね」


「強くありません。ただ、諦めが悪いだけです」


「それは、強さです」


 リーネは、微笑んだ。


「私も、できる限りの協力をします。古文書の調査、王国への報告、人員の確保——何でも言ってください」


「ありがとうございます。まずは、古文書をもっと詳しく調べたい。大災厄の詳細と、それを防ぐ方法が書かれていないか」


「わかりました。書庫の専門家を呼びましょう」


 調査が始まった。


 書庫の古文書を片っ端から調べ、大災厄に関する記録を収集した。


 その結果、いくつかの重要な情報が見つかった。


 まず、大災厄の原因。


 古文書によると、大災厄は「魔素の蓄積」によって引き起こされるという。


 魔素とは、この世界に満ちる魔力のエネルギーだ。


 通常、魔素は循環している。


 大地から湧き出し、生物に吸収され、使われて、また大地に還る。


 だが、千年という長い時間の中で、循環しきれない魔素が少しずつ蓄積していく。


 それが限界を超えた時、一気に噴出する——それが「魔素汚染」の正体だった。


「……なるほど。配管の詰まりと同じだな」


 桐生は、古文書を読みながら呟いた。


「配管も、長年使っていると内部に汚れが蓄積する。それを放置すると、ある日突然、詰まって破裂する。それと同じ原理だ」


「配管……ですか」


 リーネは、首を傾げた。


「はい。世界全体を『一つの大きな設備』として考えると、魔素の流れは配管のようなものです。そして、千年の間に『詰まり』が発生している」


 桐生は、図を描いて説明した。


「普通の設備なら、定期的に清掃して詰まりを防ぐ。でも、世界規模の『配管』を清掃する方法は、これまでなかった。だから、千年ごとに『破裂』が起きていた」


「それが、大災厄……」


「そうです。でも、俺のスキルがあれば、『詰まり』の場所を特定できる。特定できれば、『清掃』の方法も見つかるかもしれない」


 桐生の目に、決意の光が宿った。


「世界を、『点検』する。そして、『修繕』する。それが、俺のやるべきことです」


 その夜——。


 桐生は、城壁の上で一人、空を見上げていた。


 赤く染まった空。


 壊れかけている世界。


 元の世界では、自分はただの設備管理員だった。


 地味な仕事を、地道にこなすだけの存在だった。


 だが、この世界では——。


「世界を守る、か……」


 桐生は、苦笑した。


「スケールが大きすぎて、実感が湧かないな」


 だが、やるべきことは同じだ。


 異常を察知し、原因を特定し、対処する。


 壊れる前に、直す。


 それが、施設管理者の仕事だ。


 世界が相手でも、それは変わらない。


「やってやるさ。俺は、諦めが悪いからな」


 桐生は、夜空に向かって呟いた。


 星々が、静かに瞬いていた。

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