第三十一話 黒崎の野望
その頃、ガルディア帝国では——。
黒崎は、皇帝に謁見していた。
「陛下、一つ、提案があります」
「何だ、ゼルク」
「東方戦線の作戦について、新たな方針を提示いたします」
黒崎は、地図を広げた。
「これまで、我が軍は国境付近での小競り合いに終始していました。これは、非効率です」
「非効率?」
「はい。小競り合いでは、兵士の疲弊が蓄積するだけで、決定的な成果が得られません。消耗戦は、コストばかりかかって、リターンが少ない」
黒崎の目が、鋭く光った。
「私は、一気に決着をつけることを提案します。大規模な攻勢を仕掛け、王国の防衛線を突破し、主要都市を占領する」
「大規模な攻勢……それには、相応の準備が必要だろう」
「はい。六ヶ月の準備期間をいただきたい。その間に、兵力を集結させ、補給線を整備し、作戦を練り上げます」
黒崎は、自信に満ちた表情で言った。
「六ヶ月後、我が軍は王国を壊滅させます。これは、断言できます」
皇帝は、黒崎をじっと見つめた。
「お前の言葉には、いつも説得力がある。だが、今回は少々、大言壮語に聞こえるな」
「大言壮語ではありません、陛下。私のスキルが、成功を保証しています」
「スキル……【最適解析】か」
「はい。私のスキルは、あらゆる状況の『最適解』を計算します。この作戦の成功確率は、87%。これは、十分に高い数字です」
皇帝は、しばらく考え込んだ。
そして、ゆっくりと頷いた。
「よかろう。六ヶ月の準備を許可する。ただし、失敗すれば——」
「わかっております、陛下。その時は、この首を差し出します」
黒崎は、深く頭を下げた。
謁見が終わり、黒崎は自室に戻った。
そこで、彼は一人、笑みを浮かべた。
「六ヶ月……十分だ」
黒崎の本当の野望は、単なる軍事的勝利ではなかった。
彼は、この世界全体を「最適化」することを目指していた。
非効率なシステムを破壊し、自分が設計した「最適な秩序」で再構築する。
それが、黒崎の究極の目標だった。
「この世界は、非効率だらけだ」
黒崎は、窓の外を見た。
「古い慣習、無駄な伝統、非合理的な制度——すべてが、効率を阻害している。それを一掃すれば、この世界はもっと良くなる」
黒崎のスキル【最適解析】は、そのためのツールだった。
何が非効率で、何が効率的か。
すべてが、数値として見える。
その数値に従って、世界を作り変える。
それが、黒崎の使命だと、彼は信じていた。
「桐生……」
黒崎は、かつての部下の名を呟いた。
「お前のやり方は、甘い。『予防』だの『長期的視点』だの、綺麗事に過ぎない」
黒崎の目が、冷たく光った。
「世界は、今を生きる者のものだ。未来のために今を犠牲にするなど、馬鹿げている。今、最大の成果を上げる。それが、合理的な生き方だ」
黒崎は、地図を見つめた。
六ヶ月後、自分は王国を壊滅させる。
そして、その先——。
この世界全体を、自分の理想の形に作り変える。
それが、黒崎の野望だった。




