第二十九話 再会
停戦協議から戻った桐生は、リーネに報告を行った。
「帝国の参謀総長は、俺の知り合いです」
「知り合い……ですか」
リーネは、驚いた様子だった。
「はい。元の世界での上司でした。黒崎という名前の男です」
「元の世界……」
「彼も、この世界に転生してきたようです。そして、帝国で出世し、参謀総長にまで上り詰めた」
リーネは、考え込んだ。
「それは……複雑な状況ですね」
「はい。正直、俺自身も、どう受け止めていいかわかりません」
桐生は、窓の外を見た。
「彼は、俺を死に追いやった張本人です。俺の警告を無視し、結果として事故が起きた。でも……」
「でも?」
「彼自身は、悪意を持っていたわけではない。彼なりの信念に従って、判断を下した。それが、間違っていたとしても」
リーネは、桐生の言葉に耳を傾けていた。
「彼の信念は、『効率』です。無駄を省き、コストを削減し、短期的な成果を最大化する。それが、彼のやり方です」
「それは……悪いことなのですか?」
「いいえ。効率化自体は、悪いことではありません。無駄を省くのは、大切なことです。でも、彼は『効率』を追求するあまり、大切なものを見失っている」
「大切なもの?」
「人の命です。彼は、人の命を『コスト』として計算する。事故が起きた時の損失と、予防にかけるコストを天秤にかけて、予防を切り捨てる。そのやり方が、間違っている」
桐生は、拳を握りしめた。
「壊れる前に、直す。問題が起きる前に、予防する。それが、俺の信念です。そして、それは彼の信念と、真っ向から対立する」
「二つの信念……」
「はい。この世界で、どちらが正しいか、証明することになるでしょう。俺は、負けるつもりはありません」
リーネは、しばらく黙っていた。
そして、静かに言った。
「私は、キリュウ殿の信念を信じます」
「……ありがとうございます」
「いいえ。私は、あなたの仕事を見てきました。あなたが、どれだけ多くの人を守ってきたか。目立たないところで、どれだけ努力しているか。それを知っているから、信じられるのです」
リーネは、桐生の目を見た。
「あなたの『予防』は、この都市を救いました。魔導炉の暴走を防ぎ、上水道を復旧させ、避難民の感染症を食い止めた。すべて、『壊れる前に、直す』というあなたの信念の賜物です」
「……」
「その信念が、帝国の『効率主義』よりも優れていることを、私は確信しています。だから、キリュウ殿。どうか、その信念を貫いてください」
桐生は、深く頭を下げた。
「必ず。この都市を、この世界を、守ってみせます」
その夜——。
桐生は、一人で城壁の上に立っていた。
夜空には、無数の星が輝いている。
元の世界では見られなかった、澄んだ星空だ。
黒崎との再会。
それは、桐生にとって、予想外の出来事だった。
彼がこの世界にいることは、知らなかった。
だが、考えてみれば、当然かもしれない。
彼も、あの事故で死んだはずだ。
自分が転生したなら、彼が転生していても不思議ではない。
「因縁、か……」
桐生は、呟いた。
元の世界での因縁が、この世界でも続く。
逃れられない宿命のようなものを感じた。
だが、桐生は怯まなかった。
むしろ、覚悟が定まった。
この世界で、黒崎との決着をつける。
自分のやり方が正しいことを、証明する。
それが、自分に課せられた使命だ。
星空の下、桐生は静かに誓った。




