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施設管理業異世界転生『予知保全スキルで異世界のインフラを守ります ~ビルメンは世界の破滅フラグを見逃さない~』  作者: もしものべりすと


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第二十八話 敵将の正体

国境での小競り合いは、数週間続いた後、一時的な停戦に入った。


 両軍とも、本格的な戦争を望んではいなかったからだ。


 帝国側は、東方戦線の準備が整っていない。


 王国側は、内政の問題を抱えている。


 どちらも、今は戦う余裕がない。


 そのため、形式的な停戦協議が行われることになった。


 バルトハイムからも、代表が派遣されることになった。


「キリュウ殿にも、同行していただきたいのです」


 リーネが、桐生に頼んだ。


「俺が? 俺は、外交のことなど何もわからないが」


「わかっています。でも、キリュウ殿の目が必要なのです」


「目?」


「はい。キリュウ殿は、『異常』を察知できる。人の嘘も、見抜けるのではないですか?」


 桐生は、考え込んだ。


 確かに、スキルは設備だけでなく、人間の「異常」も感知することがある。


 体調の変化、精神状態の乱れ——そうしたものが、なんとなくわかることがある。


「……試したことはないが、可能かもしれない」


「お願いします。帝国側がどんな意図を持っているのか、見極める手助けをしてください」


「わかった。同行しよう」


 数日後——。


 停戦協議は、国境の中立地帯で行われた。


 両軍から、それぞれ代表団が派遣された。


 王国側からは、リーネを含む数名の貴族と、護衛の騎士団。


 帝国側からは——。


 桐生は、帝国の代表団を見た瞬間、スキルが反応した。


 強烈な反応だった。


 その中の一人から、異常な「波動」が感じられる。


 敵意とか、殺意とか、そういう単純なものではない。


 もっと複雑で、もっと深い何か。


 その男は、代表団の中央に立っていた。


 四十代前半の、鋭い目つきをした男だ。


 軍服を着ているが、武人というより、知識人の雰囲気がある。


 その男が、桐生を見た。


 目が合った瞬間——。


 桐生は、確信した。


 この男は、自分を知っている。


 そして、自分も——。


「……黒崎」


 桐生は、その名を呟いた。


 あり得ない。


 だが、間違いない。


 目の前の男は、かつての上司——黒崎剛だった。


 協議は、形式的なものだった。


 両軍の代表が、それぞれの立場を述べ、一時的な停戦を確認する。


 だが、桐生の意識は、協議の内容には向いていなかった。


 黒崎から、目が離せなかった。


 黒崎もまた、桐生をじっと見ていた。


 その目には、何が浮かんでいるのか。


 敵意? 懐かしさ? それとも——。


 協議が終わり、両代表団が引き上げる時——。


 黒崎が、桐生に近づいてきた。


「少し、話をさせてもらえないか」


 静かな声だった。


 周囲の人間には、単なる挨拶のように見えただろう。


 だが、桐生には、その言葉の重さがわかった。


「……いいだろう」


 二人は、代表団から少し離れた場所に移動した。


 護衛たちが警戒したが、リーネが手で制した。


 「大丈夫です」と、彼女は言った。


 二人きりになった。


 しばらく、沈黙が続いた。


 先に口を開いたのは、黒崎だった。


「久しぶりだな、桐生」


「……ああ」


「お前も、この世界に来ていたとはな。驚いたよ」


「俺も驚いた。まさか、お前が敵国の参謀とは」


「参謀総長だ」


 黒崎は、薄く笑った。


「わずか二年で、ここまで来た。俺のやり方は、この世界でも通用するようだ」


「効率主義か」


「そうだ。無駄を省き、結果を出す。それが、唯一の正解だ」


 桐生は、黒崎を見つめた。


「お前のせいで、俺は死んだ」


 静かな声だった。


 だが、そこには、抑えきれない感情が込められていた。


「俺は、設備の異常を警告した。緊急停止を進言した。お前は、それを却下した」


「根拠がなかったからだ」


 黒崎は、平然と答えた。


「お前の『勘』だけで、設備を止めるわけにはいかなかった。それは、今でも正しかったと思っている」


「その結果、設備は爆発した。人が死んだ。俺も死んだ。お前も死んだ」


「結果論だ」


 黒崎の目が、冷たく光った。


「当時の情報に基づけば、俺の判断は合理的だった。結果が悪かったのは、運が悪かっただけだ」


「運?」


 桐生の声に、怒りが滲んだ。


「人の命を、『運』で片付けるのか」


「感情的になるな。冷静に考えろ。すべての事故を予防することは不可能だ。コストと効果のバランスを取るしかない。俺は、そのバランスを取った。それだけだ」


 桐生は、黒崎をじっと見つめた。


 この男は、変わっていない。


 元の世界でも、今の世界でも、同じだ。


 数字しか見ていない。


 人の命を、コストとして計算している。


「お前は、間違っている」


 桐生は、静かに言った。


「予防にかけるコストは、事故が起きた時の損失と比べれば、微々たるものだ。人の命は、数字では測れない」


「綺麗事だ」


 黒崎は、鼻で笑った。


「お前は、いつもそうだった。現実を見ず、理想を語る。だから、いつまで経っても、現場の作業員止まりだったんだ」


「それでいい。俺は、現場の人間だ。お前のような、机の上で数字を弄ぶ人間とは違う」


 二人の間に、沈黙が流れた。


 それは、決して交わることのない、二つの信念の対立だった。


「……次に会う時は、敵同士だ」


 黒崎は、背を向けた。


「楽しみにしているよ、桐生。お前のやり方と、俺のやり方。どちらが正しいか、この世界で証明してやる」


「望むところだ」


 桐生は、黒崎の背中を見送った。


 かつての上司。


 そして、今は宿敵。


 この世界での戦いが、始まろうとしていた。

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