表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
施設管理業異世界転生『予知保全スキルで異世界のインフラを守ります ~ビルメンは世界の破滅フラグを見逃さない~』  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/41

第二十四話 黒崎、異世界にて

ゼルクこと黒崎剛が、この世界に転生したのは、二年前のことだった。


 目覚めた場所は、荒野のど真ん中。


 見知らぬ空、見知らぬ大地、見知らぬ言語。


 最初は、夢かと思った。


 だが、飢えと渇きが現実を教えた。


 黒崎は、生き延びるために動き始めた。


 最初に気づいたのは、自分の体が若返っていることだった。


 三十八歳だった体が、二十代後半に戻っている。


 次に気づいたのは、頭の中に奇妙な「声」が聞こえることだった。


 それは、数値だった。


 目の前の状況を分析し、最適な行動を提示する数値。


 例えば——。


 「この方向に三キロ進めば、村がある。確率:78%」


 「この木の実は食べられる。毒性:なし」


 「この男に近づくのは危険。敵対性:高」


 黒崎は、すぐに理解した。


 これが、この世界で自分に与えられた「スキル」なのだと。


【最適解析(コストパフォーマンス計算)】


 あらゆる状況において、最も効率的な選択肢を計算し、数値として提示する能力。


 元の世界で黒崎が追求していた「効率」が、そのままスキルになったような能力だった。


「……俺向きだな」


 黒崎は、薄く笑った。


 桐生と同じ言葉を、彼もまた口にしていた。


 その後の黒崎の行動は、迅速だった。


 まず、最寄りの村で情報を収集した。


 この世界の言語は、なぜか理解できた。転生者への「恩恵」のようなものらしい。


 次に、この世界の社会構造を把握した。


 王国と帝国が対立する構図。魔法と技術が共存する文明。身分制度と権力構造。


 そして、黒崎は一つの結論に達した。


「この世界で成り上がるなら、帝国だ」


 王国は、古い体制に縛られている。


 伝統を重視し、変革を嫌う。


 そんな環境では、自分の能力は活かせない。


 一方、帝国は「効率」を至上とする国だ。


 成果を出せば評価される。出自や身分は問われない。


 自分のような人間にとって、理想的な環境だった。


 黒崎は、帝国に向かった。


 帝都に着いたのは、転生から三ヶ月後のことだった。


 無一文、コネなし、実績なし。


 普通なら、底辺から這い上がるのに何年もかかる。


 だが、黒崎には【最適解析】があった。


 「帝国軍に志願する。採用確率:62%」


 「この試験官には、こう答えれば好印象。成功確率:89%」


 「この派閥に属すれば、最短で出世できる。期間:14ヶ月」


 すべてが、数値として見えた。


 黒崎は、計算通りに行動した。


 軍に志願し、才能を認められて士官候補生に抜擢された。


 訓練では、常に上位の成績を収めた。


 上官には媚びを売り、同僚には適度な距離を保ち、部下には厳しく接した。


 すべてが、スキルの示す「最適解」に従った行動だった。


 一年後——。


 黒崎は、中隊長に昇進していた。


 そして、ある作戦で決定的な功績を挙げた。


 敵軍の補給線を絶つ作戦。


 黒崎の計算に基づいた奇襲は、完璧な成功を収めた。


 敵軍は壊滅し、味方の被害は最小限だった。


 この功績が、皇帝の目に留まった。


「お前が、あの作戦を立案したのか」


 皇帝から直接呼び出された黒崎は、恐れ気もなく答えた。


「はい、陛下。敵の弱点を分析し、最も効率的な攻撃ポイントを計算しました」


「効率的、か。面白い言い方だ」


「戦争も、突き詰めればコストとリターンの計算です。最小のコストで最大のリターンを得る。それが、私の信条です」


 皇帝は、黒崎をじっと見つめた。


 そして、笑った。


「気に入った。お前を、参謀に取り立てる」


 それから、黒崎の出世は加速した。


 参謀として、次々と作戦を成功させた。


 敵の裏をかく戦術、補給線の最適化、兵力の効率的な配置——。


 すべてにおいて、黒崎は「効率」を追求した。


 その結果、わずか二年で参謀総長にまで上り詰めた。


 帝国軍の実質的なナンバーツー。


 皇帝の右腕と呼ばれる存在。


 それが、今の黒崎——ゼルクだった。


 だが——。


 黒崎の心には、常に何かが欠けていた。


 成功しても、満たされない。


 地位を得ても、充実感がない。


 なぜだろう。


 自分は、正しいことをしている。


 効率を追求し、結果を出している。


 それなのに、なぜ——。


 ある夜、黒崎は悪夢を見た。


 炎の中で、桐生が立っている。


 逃げ遅れた清掃員を庇い、炎に包まれながら、桐生は黒崎を見ていた。


 責めるような目ではなかった。


 ただ、悲しそうな目だった。


「なぜ、そんな目で見る」


 夢の中で、黒崎は叫んだ。


「俺は正しかった。お前の進言には、根拠がなかった。緊急停止なんて、認められるわけがなかった」


 桐生は、何も答えなかった。


 ただ、悲しそうに黒崎を見つめていた。


「答えろ! 俺が間違っていたと言いたいのか!」


 桐生の姿が、炎の中に消えていく。


 その時、桐生の唇が、何かを言った。


 声は聞こえなかったが、読唇で理解できた。


 ——「壊れる前に、直す」


 黒崎は、汗だくで目を覚ました。


「くそ……」


 彼は、顔を覆った。


「なぜ、今でも……」


 桐生のあの言葉が、頭から離れなかった。


 「壊れる前に、直す」


 予防保全の考え方。


 黒崎は、それを「非効率」だと切り捨てていた。


 壊れていないものを直す必要はない。


 壊れてから直せばいい。


 その方が、コストが低い。


 だが——。


 本当に、そうだったのか。


 設備が爆発し、人が死んだ。


 自分も死んだ。


 あの事故は、予防できたのではないか。


 桐生の進言を聞いていれば——。


「違う」


 黒崎は、首を振った。


「俺は、間違っていない。桐生の進言には、根拠がなかった。『勘』で緊急停止など、認められるわけがない」


 自分に言い聞かせた。


 何度も、何度も。


 そうしないと、自分を保てなかった。


 そして、今——。


 桐生が、この世界にも転生していることがわかった。


 しかも、「予防保全」を武器に、成果を上げているらしい。


 黒崎の中で、何かが燃え上がった。


「……決着をつけてやる」


 桐生のやり方が正しいのか、自分のやり方が正しいのか。


 この世界で、証明してやる。


 黒崎は、窓の外を見た。


 夜明けが近づいていた。


 新しい一日が、始まろうとしていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ