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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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第8話_最後の晩餐

 注文していたピザが家に届いた。妹の部屋にあった折り畳み式のテーブルを広げて、ドリンクや諸々をそこにおいてピザを頬張っていた。


 俺が注文したのはマルゲリータ、かなえはサラミアボカドピクルスデラックスという変人的チョイスだった。ちなみに、結局ドリンクはコーラを注文できず、渋々野菜ジュ-スを注文した。


「ねぇ、蓮くんのマルゲリータもちょっと頂戴よ」


 自分のピザを七割ほど残してかなえが俺に要求してきた。


「いや、少しは自分のやつ食ってからにしろよ」


「いや、味変、味変したいのよ! 同じのを一枚食べきるのは結構きつくてさ~」


 いや、俺はマルゲリータ一枚食べきれるんだけどな。お前の頼んだヘンテコな味のせいなのでは?と考えたが、その不満はあえて胸にしまっておいた。


「分かったよ。じゃあこれ、はい」


 俺はマルゲリータを四分の一ほどカットして、かなえの方へとよそった。


「ありがと~! じゃあわたしのやつもあげるね!」


 そう言うと、かなえはヘンテコ味のピザを半分切って、俺の方へとよそってきた。


「おい、なんか多くないか? さてはお前、選択ミスったろ」


「え......? そんなことないよ!? ただ、わたしの選択を少しでも多くシェアしたいな~と思っただけで」


 その言い訳、語尾の震えと目線の泳ぎがすべてを物語っていた。こいつ、冒険に失敗したな。無難なものを選んでおけばいいものを。


「......分かったよ。食べるよ」


俺は諦め半分でそのヘンテコ味のピザを口に運ぶ。


「......ッ!」


 思わず変な声が出そうになるのを、なんとか飲み込んだ。


 サラミの塩っ気、アボカドのまろやかさ、ピクルスの酸味……この酸味がすべてをぶち壊しにしている。この味、どの層に刺さるんだよ。このピザ屋の商品開発部は何考えてんだよ......。


「ど、どう……? おいしい……?」


 かなえが恐る恐る俺を見る。

 その顔には、失敗したかもしれないけど、認めたくないという感情が乗っかっているような気もした。


「いや……その……個性的な味だな……」


「へぇ~。個性的ね~。それはさ、これが美味しいって解釈してもいいんだよね? じゃあこれ全部あげるから、蓮くんのやつ全部もらうね!」


 かなえは俺に有無を言わす隙を与えなかった。俺の紙皿から残りのマルゲリータを素早く手に取り、そのまま全部口に運んだ。


「お、おい!! 俺の最後の一枚!!」


「ん~~~……やっぱりおいひい~! れんくん、いいへんひしてるね~!」


 口いっぱいにピザを詰め込んでいるせいで、かなえが何を言っているのか全く分からん。そして、俺のマルゲリータはもう返ってこない。数十秒後にかなえの胃袋に飛び込んでいってしまう......。


「はぁ......。てか、口に食べ物入れながら喋るなよ」


 数十秒かけてゆっくりと咀嚼し、マルゲリータを食べ終えたかなえが再び口を開く。


「やっぱり蓮くん、いいセンスしてるね~!」


 かなえは俺に満面の笑みで褒めてくる。称賛はいらない、ピザを返してくれ。


「てかお前、自分のピザはどうするんだよ」


「え? あれ? もちろん蓮くんが食べるんだよ?」


 かなえは“当然の流れでしょう?”というような表情とともに首をかしげている。


「いや、俺そんなこと一言も言ってないんだけど......」


「さっき美味しいって言ってたから食べてくれるのかと思ってた! それに、わたしはもうお腹いっぱいだからあげる!」


 こいつ、とうとう”個性的な味”を”美味しい”に変換しやがった。


「......分かったよ。食べるよ。食べりゃいいんだろ?」


「えへへ、ありがと!」


 そう言って、かなえは自分の皿を俺のほうに押し出した。サイコロピザ史上最も不味いと思われるものを押し付けられるのはすごい癪なんだが、残すのも気が引けるので渋々食べる手を進めた。


「ほらほら~! 食べないと大きくならないよ~?」


 少しずつ食べるペースが落ちているのがバレたのか、かなえが煽り気味に応援してくる。

 ほんとに、このバカ幽霊は......。


 だけど、悪い感じはしなかった。

 誰かと夕食を一緒に食べて、くだらないことを話しながら盛り上がるこの感じ、いつぶりだろう。


「……蓮くん、ほっぺにチーズついてるよ」


 かなえは軽く身を乗り出し、俺の頬にそっと指先を伸ばす。

 その仕草はやたら丁寧で、慎重だった。

 

「……取れた」


「お、おう……」


 接近戦を仕掛けてくるなよ……不意打ちすぎるだろ。


 かなえは何事もなかったように席へ戻ると、空になった皿を重ねて満足そうに息をついた。


「ふぅ~、食べた食べた! いやぁ、今日だけはピザでも仕方ないね! 今日だけは!」


「やたら”今日だけ”を強調するな。明日からはちゃんとした食生活を意識するよ」


「うん! よろしい!」



 夕食を食べ終え、風呂を済ませた俺は自分の部屋に戻り、かなえも妹の部屋に戻っていった。


 ちなみに、幽霊も風呂には入りたいらしく、俺が出た後にササっと済ませていた。風呂から出たかなえが驚いていたのは、意外にも風呂やトイレが綺麗だったことだ。キッチンを覗く水回りはできるだけ綺麗にしておきたい性格なもんで、それもしっかり定期的に掃除はしていた。


 俺はベッドに横たわり、ふと今日一日を振り返った。


 今日はほんとにいろいろなことがあった。直哉からオカルト部に誘われるわ、理人に変な護符をもらうわ、その護符のせいでかなえと出会うわ、一年分のイベントが今日一日に凝縮されていたようだった。かなえを家に住まわせたのが正しい行いだったのかは正直分からなかった。いや、分からないんじゃない。”日常の退屈”から抜け出したかったんだ。


 頭の中で色んなことがぐるぐると駆け巡ってくる。今日はもう寝よう......。


「これでよかったんだよな? 母さん......」


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