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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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7/12

おいしい夕食

「いや、七分の五の確率で学校はあるだろ。それに、掃除は俺が帰ってきてからでもやればいいだろ?」


「ダメよ......明日もこの状態で半日過ごすなんて、わたし、そんなの耐えられない......」


 ベッドに顔を埋め、次は体をバタバタさせている。そして、急に体を起こして俺の前まで接近する。


「もういいよ! 蓮くんがいなくてもわたし一人で掃除するから! ひとりでできるもん!」


 さっきまでのテンションを置き去りにしたのか、かなえは意気込んでいた。

 こいつ、情緒不安定すぎるだろ。


「あのー......」


「その代わりにさ、今日中に明日可燃ごみか不燃ごみの回収日か調べて! どっちでもいいから明日出せるなら出したい!」


 俺の言葉を聞く耳などもたないかなえが急に課題を出してくる。


「はい......分かりました......」


 内心、めんどくさいとも思ったが、この状況で俺が反論できる余地なんて微塵も残っていなかったので素直に受け入れた。


 そして、この瞬間にこの家の主が俺からかなえに移ったのも確かだった。


「よ~し! なんか計画立ててたらすごくやる気出てきた! 頑張るぞ~~!」


 ぐぅ~~。


 勢いよく立ち上がったかなえとともに、腹の虫がまるでスピーカーを通したみたいにでかい音で鳴った。

 

「……」


 本人は固まっていた。無論、俺も固まった。そして、いつの間にか妹の部屋の空気も固まっていた。 


 数秒の沈黙のあと、かなえは恥ずかしそうに唇を尖らせながら、ぽつりと声を落とした。


「……いまの、聞いてた……?」


 それ、俺に聞いてくるのかよ。何もなかったかのようにやり過ごす方が絶対いいのに。てか、幽霊でも腹は鳴るんだな。


「まぁ、聞こえてたよ.......」


 俺の返答後、再び部屋に沈黙が流れる。


 かなえは耳まで真っ赤にして、赤くなった頬を隠すように、両手で顔を押さえている。


 気まずい。今すぐこの空間から抜け出したい......。

 俺は意を決して口を開いた。


「その~、腹......減ったんだろ? 夕飯にしようぜ!?」


「うん......」


 かなえは両手を頬のあたりまで下げ、小動物みたいにおずおずとこっちを見上げてきた。


 ただ、提案した手前、惨劇めいたキッチンで何かを作るなんて絶対に無理だ。


 となると、俺たちにあの選択肢以外は残されていないわけだ。


「かなえ、ちょっとこの部屋で待っててくれ」


 そう言い残し、俺は清掃業者でも目をそらす魔境のような一階に降りていく。


 ふと思い出したのだ。二日前、ポストにあの折り込みチラシが入っていたはずなんだが。

 俺はリビングの床に散らばる学校のプリントやら服やらをかき分けながら、例のものを探していき、そして。


「お、あったあった」


 そう。例のものとは、家から二キロほど離れた距離にある『サイコロピザ』のチラシだ。


 目的のブツを発見し、俺はスマホとチラシを持ってかなえの待つ妹の部屋へと戻っていく。


 部屋へ戻ると、かなえはベッドの端にちょこんと座り、膝を抱えたままこちらを見た。

 さっきまでの鬼軍曹みたいなテンションはどこかへ飛んでいき、しおらしい幽霊になっていた。


「蓮くん、それって......?」


「あぁ。サイコロピザのチラシだよ。今日はピザでもいいだろ?」


 そういって、俺はスマホをポケットから取り出して、慣れた指つきで注文番号に電話を掛けようとすると、


「......ねぇ、蓮くん」


 この『ねぇ、蓮くん』構文、今日で何度目だろうか。この構文が発動すると、かなえからの説教が飛んでくるということはパターン的に分かっていた。


「......ん?」


 俺はかなえにとぼけたような返事を返す。


「その“慣れた感じ”……もしかして、毎日ピザ食べてるの......?」


 まずい。この華麗な指さばきが仇となるとは......。


「いやいやいや、誤解すんな。毎日だなんて、そんなブルジョアな生活は送ってねーよ。ただ……その……最近はまあ便利だなと思って使ってるんだよ……」


「最近って……あのリビングの有様を見る限り、週に五回以上は頼んでるよね?」


「失礼だな。四回だよ」


「ねぇ、蓮くん。そこに座って」


 またこの構文だ。しかも今回は『座って』という新しいワードが入る。


「え、でも先に注文しないと......」


「座って」


「あ、はい......」


 完全に逃げ道をふさがれ、俺は素直にかなえの前に正座する。


 かなえは腕を組み、無言の圧をまとわせながら俺を見下ろしてくる。


 言われなくても分かっている。この視線は”お前の生活習慣を根本から叩き直す”という意

思いがひしひしと伝わってくる。


 この手の話、今日の昼に佐々木からもされたんだが。まぁ二人の女子から食生活を心配されるのはある意味恵まれた環境にいるのかもしれない。うち一人は幽霊だが。


「蓮くん……わたし、ずっと思ってたんだけどね?」


「な、なんだよ……」


「あなたの食生活、終わってるよ?」


「……ですよねぇ」


 反論の余地が微塵もなかった。即答だった。


「まず、ピザってさ......。頼むのは悪いことじゃないと思うよ? でもね、あれは”玉の贅沢”として頼む食べ物だと思うの。わかる? ”常食”じゃないわけ。ピザで栄養を取ったみたいな気にならないでよね。それに、昨日の夜はカップ麺だったでしょ? 本当に終わってるよ」


「はい......。ほんとに気を付けます.......」


 かなえの目が怖い......。もう帰りたいと思ったが、ここが自宅だと気づき、再び絶望する。


「でもまぁ、今日は……今日は特別ね。この今の状態を考えれば、自炊が不可能なのは理解してるし……」


「だろ? だからピザで......」


「ただし!!」


 突然の大声に、心臓がびくっと跳ねる。


「明日からはわたしがご飯作るからね」


「え?」


「掃除が終わったらキッチンも復活するでしょ? そしたらわたし、料理もする。蓮くん、栄養バランス死んでるもん」


「お、おぅ……」


 なんだこれ.....。急に新妻みたいな宣言をされても正直反応に困るのだが......。


 俺の脳が処理落ちしていると、かなえはふっと表情を緩めた。


「だから今日は特別! ちゃんと野菜ジュースも頼むこと!」


「でもだな、やっぱりピザにはコーラを......」


「何か言った?」


 かなえは笑っていた……だが、その目だけはどうにもごまかせていなかった。これ以上何か発言したら、次は机の上のハサミが飛んできそうだった。


「いえ、何でもないです......」


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