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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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3/13

道端の幽霊

 変な奴がいるな、と思いつつも目が離せない。

 

 一度ならまだしも、二回連続はさすがにない。目が悪いのか、よほどのドジなのか。いや、連続でぶつかるのはもう“ドジ”の域じゃない。


 やがて、その女が俺の存在に気づき、すたすたと近づいてくる。

 

 距離は目測で五メートル。


 嫌な予感がする。


 目が合った瞬間、彼女はジト目でこちらを見つめ、わざとらしいほど肩タックルの構え。

 本当に何なんだ、こいつは……。


 目前まで迫ったところで、例のごとく肩タックル――


「っと!」


 俺はそれをかわして、そのまま歩き続ける。すれ違った女のほうも振り返らない。振り返ったら負けな気がした。

 

 ただ、耳だけは澄ませていた。


 すぐにスーツケースの転がる音が止む。ゆっくりと振り返ると、女は踵を返して、俺のほうへ向き直る仕草。


 なるほど。俺にタックルを決めるまで、引く気はないわけだ。

 

 だが、簡単に食らうつもりもない。


 女が動く前に、俺は早歩きで家の方へ向かう。

 

 背後から再びコロコロという音。さっきより速い。


 こいつ、思ったより足速いんだが……。


 俺が速めれば、向こうも速まる。スーツケースの音も苛烈になる。

 

 おいおい、マジか。何だよコイツ。こっちはもう結構しんどいぞ……。


 このまま歩いても追ってくる。なら、少しは話を聞いたほうが早いかもしれない。

 とはいえ「どうして肩タックル?」は質問としてどうなんだ。腑に落ちないが、まぁ仕方ないか。


 俺は足を止め、深呼吸した。


「……わかったよ。ちょっと話、聞いて――」


 振り返った、その瞬間。


 ――ガシィッ!


 ――は!?


 両脇から腕が伸び、脇腹をロック。

 

 気づけば羽交い絞めで、身動きが取れなくなっていた。


 ちょっ……! どういうこと!?


「あなた、油断したわね。逃げようったって、そうはいかないんだから!」


 背後から、さっきの女の声。タックル女、確定。


「くそ! 離せよッ!」


「いやよ! こんな機会逃したら、また一から探す羽目になるでしょ!」


 この期に及んで何言ってんだ、この女は!


「分かった! 逃げない! とりあえず解いてくれ!」


「ほんとに? 信じていいの!?」


「ああ、逃げない! 逃げたら針千本――いや、何億本でも飲んでやる!」


「……何億本でも? あなた、意外と根性あるのね……」


 背後の声が、少しだけ震えて聞こえた。


「いや、褒めるとこそこじゃねぇ! 早く離せって!」


「……んん〜〜〜……じゃあ――」


 妙に悩む間のあと、


「――よし、解除!」


 ぱっと腕が離れる。

 

 自由になった瞬間、俺は思わず深呼吸した。


「はぁ……はぁ……マジで……何なんだ、お前……」


 振り返ると、例のタックル女。なぜかどや顔で仁王立ちだ。


「よくぞ言い逃れず立ち止まったわね。逃げ足だけは速いくせに」


「それ皮肉か? そもそも俺が逃げる原因作ったの誰だよ!」


「あなたね!」


 即答すんな。何なんだこの女……。あれだけ早歩きチェイスして、息も上がってないし。


「違うだろ!? どう考えても、先に肩タックル仕掛けてきたのはお前!」


「だって、ぶつかろうとするのに、あなた避けるんだもん!!」


「いや! そもそも何で“ぶつかろうと”すんだよ!」


 俺は、ずっと気になっていたことを訊ねる。


「別に悪気があったわけじゃないのよ。私のことが見える人間を探してただけ……」


 タックル女の声は、だんだん小さくなる。


 ――今、なんて言った? “私のことが見える人間”。


 おいおい。不思議ちゃんは絶滅危惧種だぞ。テキトー言ってるだけか? 関わらないほうがいいタイプか?

 

 そう思い、俺は逃げ道の言葉を探す。


「えっと……どこの星の出身かは知らんが、交番行け。自分で解決できないことは、警察なら――」


「いや、警察は無理だよ」


 ボソリと落ちた声は、少し落ち着いたトーンだった。


 しまった。返事がテキトー過ぎたか……? ちょっと怒ってそうなんだが。


「いや、無理ってことはないだろ? 日本の警察は優秀だし、話くらいは――」


「だから無理なんだって!」


 俺の言葉を遮って、タックル女は先ほどよりも大きな声で返してきた。


「だって……わたし……あなたにしか見えてないもん……」


 あぁ……。そういうことか。早速理人と関わった弊害が出てきたぞ。


 今日の俺はツイているのかツイていないのか。たぶん、ツイていないな。


 一呼吸おいて、俺はタックル女に告げた。


「えーっと、とりあえず場所移すか……」



 俺は彼女から詳しい事情を聞くために家の近くにある公園に場所を移した。


 公園に向かうまでの五分間、俺と彼女は一言も会話しなかった。こんな時に何か気の利いたことが言えればと毎度思っているのだが、肝心な時にそういう言葉が出てこないのが俺の弱さな気がする。


 ただ、この五分間の沈黙のおかげで、彼女は落ち着きを取り戻したようにも見えた。


 公園に到着して俺とタックル女はベンチに座り、気になっていた事を色々質問してみようと思ったが、何から聞けばいいのやら。


 数分ほど自分の思考を整理していると、彼女の方から切り出してきた。


「あのさ、何で私のこと見えるの?」


 彼女は不思議そうな眼差しでこちらを見つめながら訊ねてくる。


 まぁ確かに、なぜ見えているのかと言われると俺も確信を持って答えられないが、ひょっとするとこれのせいだろうな。


「この護符のせいだろうな。知り合いからもらったんだけど、これを持ってると幽霊とか霊的な何かが見えるようになるかもって言われたんだよ」


 そう言いながら、俺はズボンの右ポケットから、理人から渡された護符を取り出してタックル女に見せながら答えた。


「やっぱりそうなんだ。薄々気づいてたけど、わたしって幽霊なんだ……」


 こいつ、自分が幽霊だということに気が付いてなかったのか。そうなると、また気になることがいくつか出てくる。


「俺からも質問なんだけど、生きてる頃の記憶とかってあるのか? まぁ聞きづらい質問だから迷ってたんだけど、幽霊になったってことは、あんたはもう死んでしまってるってことだろ?」


「おそらく死んだのかもね……。でもさ、何も覚えてないんだよ。三日前に目が覚めて、気が付いたら芝生の上で寝転がってたのよ。ここから歩いて二時間くらいの場所にある河川敷だったかな」


 ここから二時間歩いた距離だと、おそらく矢田川だろうな。樫山高校から歩いて十分くらいのところにある川だ。


「それでさ、私の隣にはこのスーツケースがあって。でも、自分の事は何も覚えてなかったし、その河川敷がどこかも分からなかったから、とりあえず歩いてる人見つけるたびに話しかけてみたんだけど……まぁ誰も反応しなかったの」


「なるほどな。そこで自分の存在が認知されてないって気づいたわけか」


「そう。で、唯一反応したのがあなただったってわけ。でも良かったよ。ようやく誰かに見つけてもらえて。あなたにその護符を渡した知り合いに感謝しなきゃね!」


 そう言いながら、彼女は頬をゆるませてニコッと笑いながら答えた。なんというか、さっきまで肩タックルをかましてきた女とは思えない笑顔だった。


「そうだ。あなた、名前は?」


「神谷蓮。あんたの名前は?……って記憶が無いんだっけか」


「そうなんだよね〜。生きてた頃の記憶だけじゃなくて、自分の名前まで忘れるとは……。いや〜参ったよね〜」


「なるほどね。てか、自分が死んでるって分かってるのに、なんでそんなに明るいんだ?」


「分かんないけど、なんか前向きな気持ちなんだよね。それに、自分が幽霊なんじゃないかって薄々気づいてたし、心へのダメージ少ないのかもね!」


「幽霊って心あるのか」


「あるわよ! 少なくともわたしはね!! ホントに失礼な人だよね!」


 確かに、彼女が無理している様子は全くなかったから本心で話してくれているのだろう。


「てかさ、さっきの話から不思議に思ってたんだけど、あんた、三日間どうやって夜を越したんだ? 幽霊といえど睡魔には襲われるんだろ?」


「え〜っとですね……野宿をしておりました……」


「なるほど。まぁ幽霊だし、誰からも認知されないから襲われることは無いから安心だな」


「いや違うわ! そこじゃないでしょうが! こんなか弱い女性が一人橋の下で寝てるのは幽霊であっても問題でしょうが!」


 すげーツッコミ。元気すぎるだろ、この幽霊。これだけ活力があれば生き返ることが出来そうな感じもしなくはないが、それはさすがに無理か。


「それでさ、蓮くんにはお願いがありまして」


 いきなり名前呼びをされるとは。距離感バグってるな。

 

 そして、嫌な予感がする前置きナンバーワンが来やがった。


「……何だよ」


 俺は少し間を開けて訊ねた。


「その〜。大変申し上げにくいんですけど、これからしばらく蓮くんちに住ませてください」


「却下」


 この返答が出てくるまでにコンマ一秒もかからなかった。早押しクイズ王にでも応募すればよかったと後悔するレベルで速かった。


「早い!! もうちょっと考えてから断りなさいよ!!!」


 そういって、彼女はベンチから半分浮き上がる勢いで詰め寄ってきた。


「いやいや! いきなり言われても困るんだが! それに、“幽霊と同居”ってワード聞いたことないだろ? どこのホラー映画だよ!」


「いやいやいやいや! そんなことないって!! わたし、たぶんそこそこ優良物件よ!? まぁご飯とかは食べさせてもらうし、お風呂とかも使わせてもらうけど」


 優良物件ではなく事故物件の間違いなのでは……? てか、お前食欲あるのかよ。


「それにこれもあるし!!」


 間髪入れず、彼女は執念のプレゼンとともに、あるものを俺に見せてきた。


 そう、さっきこいつが話してた、赤色のスーツケースだ。


「それはなんだ?」


「わかんない」


「分かんねぇのかよ」


「でもね、便利なのは確かなのよ!」


 彼女は立ち上がると、近くに落ちていた空き缶をひょいと拾い上げた。


「ちょっと見ててね?」


 そう言うと、スーツケースのチャックを開けて、空き缶をぽいっと放り込む。


「空き缶をスーツケースに入れただけじゃん」


「そう、スーツケースの中に入れただけ。で、中に入れた物はね、他の人から“見えなくなる”っぽいの!」


 彼女は自慢げに答えるが、俺にはちっとも響かなかった。なぜなら、このスーツケースもこいつ同様、護符によって存在を認知できているからだ。だから、ただスーツケースに空き缶を入れるという世界一無意味な行動をしている光景を見せつけられているわけだ。全く面白くない。


「で、これが何の役に立つっていうんだよ」


「例えばね、部屋が散らかってても、とりあえず全部ここにぶち込めば見た目スッキリ! ゴミも服もプリントも、はい、一瞬で片づけ完了!」


「それ片づけじゃなくて“押し入れに全部突っ込むズボラ式”って言うんだよ。一から断捨離を学んでこい」


「え〜、ズボラ式、最高じゃない? やっててよかったズボラ式!なんてね! ね? こういう便利グッズ付きの幽霊、ひとりぐらい家に置いてもよくない?」


「プレゼン下手すぎだろ。それじゃダメ人間製造するだけだろ。あと軽く小ネタ挟んでくるな」


「ダメ“人間”じゃなくてダメ“幽霊”ね。そこ間違えないで」


「細かいところどうでもいいわ」


 思わず俺はため息をつくと、彼女はさっきまでのハイテンションとは打って変わって、妙に静かな声で俺に訊ねてきた。


「ねぇ……。ほんとにダメ? この三日間、わたしのこと誰も気づいてくれなくて、ずっと一人でいろんなところ歩いて、ほんとに寂しかったの……」


「まぁ、気持ちは分からんでもないが、いきなり住みたいと言われてもだな……」


 そう答えると、彼女はベンチから立ち上がり、俺の腕を優しく掴んできた。


「それじゃあさ……わたしのカラダで払うから……」


 その瞬間、俺は思わずベンチから半分立ち上がった。


「え!? 待て待て待て待て!?!? お前、何を口走ってんだ!!」


「え? だって、それくらいしか……その……手段が……」


「いや手段の問題じゃねぇ!! お前! 幽霊の身体で何をどう払うつもりなんだよ!!」


「え? だからご飯作ったり掃除したりとか?」


 え、何だ。そういう意味か……。

 言葉のチョイスがいちいち紛らわしいんだよ、この尻軽幽霊め……。


「てか、何で急に腕掴んで顔近づけてきたんだよ! びっくりするだろ!?」


 俺は自分でも分かるくらい裏返った声で彼女に訊ねる。あぁ、情けない……。


「いや、君の方に蝶々が止まってたから、捕まえようかなって」


「なんだよそれ……」


 彼女は首を傾げ、逆に俺が変なことを言ったみたいな顔をしてくる。


「蓮くんって、意外とすぐ動揺するタイプなんだね。かわいいじゃん」


「かわいいじゃん、じゃねぇよ!!」


 唐突のからかいに俺が反論すると、彼女はぽつりと息をつき、少しだけ眉尻を下げながら話し出した。


「……わたし、強がってるけど、ほんとはすごく怖いんだよ。自分の名前も分からないし、家もないし、ここがどこかも最初は分からなくて、誰もわたしのことを認識してないし……」


 辛そうな顔で答えた言葉に胸がチクッとした。


「……で、唯一見つけてくれたのが蓮くんだったんだよ?」


 彼女は小さく笑った。

 それは、今にも消えそうな笑顔だった。


 はぁ……。ずるいだろ、そんな顔。


 もう迷ってるのも面倒だ。どうにでもなれ。


「……分かったよ。だけど、今の俺の家、すげー汚いぞ。それでもいいか?」


「全然大丈夫! わたしが片づけてあげるよ!!」


「あと、二つ約束を守ってもらいたい」


「え? 約束ってなに?」


「まず一つ。俺の部屋を勝手に漁らないこと。机の引き出しとか、本棚とか」


「え〜、男子高校生の部屋の引き出しとか本棚の奥は正直気になるんだけど」


「そこで目を輝かせるな。それと二つ目。俺の学校とか、友達の前にはなるべく出てこないようにしてほしい。俺の親友でつい最近見えるようになったやつがいてだな、そいつに見られると厄介なことになりそうな気がする」


 彼女は一瞬だけ目を瞬かせてから、ふっと笑った。


「そっか。……うん、それは守る。そこはちゃんと、ね」


 いつもの軽口じゃなく、素直なトーンだったから、逆にこっちが気恥ずかしくなる。


「で、こっちからも一ついい?」


「何だよ」


「わたしの名前、仮でいいからつけてよ。いつまでも“タックル女”とか“幽霊女”とか、ひどくない?」


「いや、主にお前の行動が原因なんだが……」


 とはいえ、確かにいつまでも“タックル女”呼びは面倒だ。


 目の前の幽霊を見ながら、俺は少しだけ考える。


 名前も、過去も、全部抜け落ちた幽霊。それでも図太く笑って、意味不明なタックルかましてきて、スーツケース抱えて現れた女。あぁ、なんか真面目に考えても駄目だな。ここは某探偵漫画にならって名付けてみるか。


 俺はスマホを取り出し、電子書籍アプリを開いて購入済み書籍のページに目をやる。


 最初に出てきたのは、湊かなえの『ユートピア』だった。


「よし、決まり。名前は“かなえ”でどうだ?」


「え、なんかスマホ見ながら決めてなかった? 真剣に考えたんでしょうね……?」


 真剣に考えたさ。それにその発言、某探偵漫画の主人公の名前をさもテキトーに考えたような言いがかりにも聞こえるぞ。まぁ、一応テキトーに名付けた理由とかも言っておくか。


「ちゃんと真剣に考えたよ。漢字は叶える、の“かなえ”。お前、自分のこと何も覚えてないって言ってたろ。だから、これから色々なことを叶えられたらって想いを込めたんだよ」


 自分で言っておいて、若干むず痒くなる。何言ってんだ俺。


 しかし彼女――いや、かなえは、ぽかんとしたあと、ぱぁっと顔を綻ばせた。


「……いいね、それ。うん、気に入った。今日からわたしは“かなえ”ね! 神谷かなえ!」


「いや、俺の名字使うなよ! なんで当然のように神谷かなえ名乗ってんだ!」


「だって蓮くんが付けてくれたんだよ? 名字つけないとバランス悪くない? 蓮くん命名の“かなえ”なんだし」


「名字付けたいなら他にもあるだろ! ほら、“佐藤”とか“田中”とか! “佐藤かなえ”、ほら! いい名前だろ!?」


「いやいやいや、絶対イヤ。わたしどう見ても“佐藤顔”じゃないし」


 何だよ“佐藤顔”って。全国の佐藤さんに謝れ。


「それにね、佐藤とか田中とかって、蓮くんと関係ないじゃん?」


「別に関係なくていいだろ」


「えー? だってせっかく蓮くんが付けてくれたんだから、フルネームで完成させたいなって。名前だけだと“未完成”みたいでしょ?」


 かなえは俺のほうをチラッと見て、少し照れたような顔をする。


「それに……その……“神谷かなえ”って言いやすくない? 語呂もいいし……なんか、しっくりきたんだよね」


 おい待て。


 なんだその“ちょっと照れてます”みたいな演出は。


 やめろ、なんか変に意識しちまう……、いや、それは無いか。さっきまで通行人に肩タックルしてたやつだし。真意は分からんが、ここはスルーしておこう。


「……しっくりきたとか言われてもな。俺の許可は」


「もらった!! はい、決定〜!」


「いや聞けよ!!」


 かなえはスーツケースを抱えてぴょんと立ち上がり、なぜかくるりとターンして見せた。


「今日からわたしは 神谷かなえ(仮)! よろしくね、蓮くん!」


「勝手に“仮”って付けて完成形みたいにすんな!!」


「でも仮って付いてれば、蓮くん的にも許せるんでしょ?」


 どこから湧いてくるのだろうか、この“仮”に対する絶対的な自信は。


「はぁ。もういい。好きにしろ」


「やった〜!!」


 かなえは両手を頭の上に上げて、無駄に元気よく喜びを表現していた。


 ……はぁ。ほんとに何なんだこいつは。


 でも、辛そうにしてた時の顔よりは今のほうがずっといいか。


「じゃあ、仮な。神谷かなえ」


「うん! かなえって呼んでね、蓮くん!」


 満面の笑み。さっきまで肩タックルかましてきた女と同一人物とは思えないほど、無邪気でまっすぐな笑顔だった。


 ……まったく。どうしてこんな面倒な幽霊を拾ってしまったんだ、俺は。


 そう思うくせに、胸の奥がほんの少しだけ軽くなった気がした。


「……はぁ。ほんとにどうなってんだ、俺の人生」


 俺がぼそっと呟いたその瞬間、かなえはスーツケースをぎゅっと抱えながら、ふんわりとした声で言った。


「蓮くん。これから……よろしくね」


 夕暮れの公園の明かりが、彼女の姿をやわらかく照らす。


 白いワンピース、淡いカーディガン。どこにでもいそうな普通の女の子。

 

 だけど、この世に“もう存在しない”普通の女の子。


「……ああ。とりあえず帰ろう。話はそれからだ」


「やった!!」


 嬉しそうに跳ねる“幽霊”が俺の横に並ぶ。

 

 スーツケースの車輪が、コロコロと心なしか軽い音を立てた。


 こうして俺とかなえの、前途多難な“同居生活”が始まった。

 

 それが、後にオカルト部の、いや、俺の人生の方向を大きく狂わせることになるなんて、このときの俺はまだ知らない。


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