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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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2/14

理人との出会い

 放課後の校舎は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。運動場側からは野球部やサッカー部の掛け声が飛び交っているのが聞こえてくる。


 集合場所に向かう途中でふと思った。

 

 直哉の誘いに乗ったのは間違いだったかもしれないと。あいつの突拍子もないアイデアに関わると絶対に面倒ごとに巻き込まれるからだ。


 はぁ、なんか無理やり理由を付けて断れば良かった気がしてきた......。


 とは言いつつも、歩く足は止まらない。


 ここで引き返したら、それこそ明日にでも直哉に問い詰められそうで、その対応をするのも面倒くさい。それに、黒瀬も一緒であれば尚更引き返しづらい。黒宮は全く悪くないしな。


 そんなことを考えていると、いつの間にか目的の場所に到着していた。


 指定されたのは、三階の端にある空き教室。教室の扉を開けて入ると、少し埃っぽい匂いが漂っていた。かなり長い間使われていないようだ。


 俺は直哉に言われた通り、その教室でひとり待っていた。スマホの時計を見ると、到着してからすでに五分は経っている。ガランとした机と椅子の並ぶ空間で、妙に落ち着かない気持ちを持て余していた。


 すると、廊下の向こうから足音が二つ、ゆっくりと近づいてきた。

 

 やがてガラリと扉が開き、直哉が「悪ぃ遅れた!」と顔を覗かせ、その後ろに一人の男子生徒を連れてきた。


 黒瀬理人。


 こいつが第一印象で放った雰囲気は、不思議なものだった。


 整った顔立ちに無駄のない所作。表情は淡々として感情を読ませないが、よく見ると毛先がところどころ跳ねていて、まるで寝癖のように浮いている。本人は気にも留めていないらしく、そのアンバランスさが逆に自然体に見え、前髪の奥から覗く瞳は澄んでいた。


「……ああ、君が神谷蓮か。僕は黒瀬理人、”理人”でいいよ、よろしく」


 意外なほどフレンドリーな調子で、すっと自己紹介をしてきた。形式ばった硬さはなく、呼び捨てでも構わないという雰囲気を自然にまとっていた。


「え、あ、よろしく……」


 思わず気圧されて、間抜けな返事しか出てこなかった。くそ、我ながらなんて情けないんだ。


 それを見た直哉がにやにやしながら口を挟む。


「お前ら堅苦しいなー。まぁいいや!あらかじめ理人には事情説明してあるから。じゃあ理人、蓮に説明よろしく~!」


 理人は一歩前に出ると、机に軽く腰を預けながら淡々と口を開いた。


「直哉から色々聞いたよ。君がオカルト部に乗り気じゃないってこともね」


 俺は少し身構えた。


 というかこいつ、人当たりのいい調子で言っているのに、目だけは妙に澄んでいてごまかしが利かなそうな感じ、俺の調子を狂わせてくるようでやりづらいな。


「まあ……正直、部活をやるにしても、幽霊彼女を作るとかいう馬鹿げた理由には付き合えないと思ってる」

 

 そう俺が返すと、直哉が「おい!」と抗議の声をあげるが、理人は気にせず頷いた。


「うん、それは当然だと思う。直哉は何をやるにしても、相変わらず動機が不純なんだよね」


 お、なかなか物分かりの良い奴じゃないか。こいつも中学から直哉と関わってきているから、取り扱い方をしっかりと心得ているな。


 そういって理人は少し間をおいて、何かを思い出したのか、直哉の方に向かって話し始める。


「あ、そうだ。直哉に伝え忘れてたんだけど、幽霊って全員が全員良い奴ってわけじゃないからね。オカルト部をやるなら、呪われる可能性もあることは頭に入れておいた方がいいよ」


 直哉に向かって話しているが、俺も思わず反応してしまい、理人に訊ねる。


「呪われるって、どういうこと?」


「幽霊によって呪われ方も変わるかな。呪いの程度が軽ければ体調不良とかで済むけど、厄介な呪いだと呪われた本人だけじゃなくて、周りで奇妙なことが起き始めたりするって感じ」


 恐ろしいことをサラッと言ってのける。こいつは今までどれくらいの修羅場を潜り抜けてきたのだろうか......。


 そんなことを考えていると、


「そんな呪いなんて、愛の力があれば乗り越えられるんだよぉ!だから全然気にしちゃいねーよ!」


「はぁ......。そう言うだろうと思ったよ。まぁ、僕もなるべくフォローはするからいいんだけどさ。でもね、僕でも対処できない場合はあるってことだけ伝えておくよ」


「おう!上等だぜ!」


「というか、理人はオカルト部作ったら入るつもりなのか......?」


「あぁ、僕は入部しようと思うよ」


「彼女を作ることが目的のオカルト部なんだぜ?それでも入りたいと思う理由を聞いてもいいか?」


 俺は興味本位で理人に訊ねてみる。


「一言で言うと、退屈しのぎかな。一生に一度しかない高校生活を帰宅部で過ごすって考えたら、それは何だか寂しいなって思ったんだよね。それに、僕の専門知識が誰かの役に立つなら、入部しても良いかなって」


 あっさりした言い方なのに、妙に説得力があった。

 

 その余裕ある態度と澄んだ目に、不思議な頼もしさを感じてしまう。


「……お前、結構変わってるな」


 俺がつぶやくと、理人は小さく肩をすくめて笑った。


「よく言われるよ。あ、そういえば僕がオカルトに精通してるってことを証明してなかったね。軽く実演してみようか」


 理人は軽く息を吸うと、教卓の上に置かれていたチョークの箱に視線を向けた。


「手は使わないから、よく見てて」


 次の瞬間、箱がカタリと震え、ひとりでに蓋が開いた。数本のチョークが宙に浮き、ゆっくりと空中を旋回する。


「っ……!」


 思わず息を呑んだ。直哉は大げさに椅子から立ち上がり、指を突きつける。


「な、な!本物だろ!?蓮!」


 俺はすぐに頷けなかった。目の前で起きている現象は、明らかに常識外れだったからだ。だが、頭のどこかで“何かトリックがあるんじゃないか”という疑いが拭えない。


「え、どういうトリックだ......?」


 

「トリックというよりかは、少しだけ幽霊を呼び起こして動かしてもらった。そんなに強い霊力の奴じゃないから、もうこの空間にはいないけどね」


 なるほど。全然分からん。こいつは何を言っているんだ?


 説明を聞いてもなお納得できなかった俺は、眉をひそめて動いたチョークをずっと凝視する。


「……まだ半信半疑って顔だね」


 理人は淡々とチョークを箱に戻し、制服の内ポケットから小さな布袋を取り出した。深緑色の刺繍が入った護符だ。


「疑わしいなら、これを持っておきなよ。お守りみたいなものだから、危険はない。でも、帰り道がいつもとは違って見えるかもね」


 差し出された護符を、俺は戸惑いながらも受け取った。手のひらに置かれたそれは、意外なほどひんやりしていて、どこか頼りないようで妙に重みがある気もした。


「まぁ、別にお前の決断を急かすわけじゃないからな」


 直哉がいつもの調子で肩を叩いてくる。


「入部するかどうかは、ゆっくり考えてくれよ!」


 そういうと、直哉と理人は教室から出ていく。


 俺は護符を握りしめながら、二人が教室から出ていく後ろ姿を見送った。


 二人が教室から出ていき、俺はスマホの時計をちらっと見た。


 時間通り、本当に十分で終わるとは。直哉の思い付きで起こったイベントが定刻通りに終わるなんて、逆に怖いぞ。


 てか、十分という時間の中で色々起こりすぎだろ。なんかどっと疲れが出てきた。


「はぁ、もう帰ろう」



 教室を出ると、廊下はすっかり橙色に染まっていた。

 手の中にある護符をポケットへしまいこみながら、俺は昇降口へと足を運ぶ。


 校門を抜けると、街はいつも通りの夕方の景色だった。制服姿の生徒たちが談笑しながら帰っていく声、自転車のブレーキ音、遠くから聞こえる商店街の呼び込み。

 

 だが、その光景が少しだけいつもと違って見えた。人通りがやけに多い。まるで、街そのものがざわめいているみたいだ。


 理人が言っていた言葉が頭をよぎる。


『……でも、帰り道がいつもとは違って見えるかもね』


 護符のせいなのか、それとも気のせいなのか。俺は歩を緩め、周囲を意識しながらゆっくりと歩き出す。


 しばらく歩いて商店街を抜け、駅へ向かう道はいつもの帰宅ラッシュで混んでいた。けれど、その人波の密度が今日は濃い。普段なら空いている角のベンチにも誰かが座り、通りの向こうには見慣れない人影が立っている。


 すれ違う人々のざわめきに、不協和音のような揺れが混ざる。背中がむず痒くなる感覚。


「……やっぱり、護符のせいなのか?」


 小さくつぶやいても、答えはない。ただ、目を逸らせない人影が増えていることだけは確かだった。

 

 そんな違和感を抱えたまま、俺は改札を抜け、電車へと乗り込んだ。



 電車に揺られながら、俺は窓の外に流れる景色をぼんやりと眺めていた。

 

 理人の「退屈しのぎ」という言葉が、どうしても頭から離れない。


 この言葉が引っかかっているのは、いくつも選択肢があった中で樫山高校を選んだからだろう。

 

 母さんは俺が小学三年の時に病気で亡くなり、しばらくは父さんと妹と三人で暮らした。家のことはどうにか回った。状況が状況だし、家事や簡単な食事くらいは自分でもやった。

 

 中学三年の頃、父さんの仕事の関係で、妹と一緒に海外の高校へ行く話が出た。妹は前向きだったが、俺は断った。環境が変わるのが怖かったのだと思う。


 それに、中学で築いた関係も手放したくなかった。直哉や佐々木。くだらないことで笑い合える親友がいて、当たり前のように過ぎる日常があった。

 そして何より、母さんとの思い出があるこの街を離れたくなかった。


 結局、日本に残り、一人暮らしをしながら樫山高校に進学した。直哉や佐々木も同じ学校を選んでくれて心強かったし、「これまでの関係を続けられる」と信じての選択でもあった。


 なのに。

 わざわざ選んだはずの道で、俺はまだ何も掴めていない。退屈で、ただ過ぎていくだけの日々。


 理人の言葉が心に残るのは、その「退屈」という響きが、自分自身に突き刺さったからかもしれない。


 車内アナウンスが流れ、電車は減速していく。俺は小さく息をつき、座席から立ち上がった。



 駅を出ると、夕暮れの空は朱に染まり、街灯がぽつぽつと灯り始めていた。住宅街の細い路地を抜け、いつもの帰り道を歩く。路側帯の白線を踏みしめながら、ポケットの護符を意識する。


 少し先の交差点に差しかかったとき、前方二十メートルほどで、通行人と肩をぶつけて謝っている女が目に入った。


 スーツケースを引いている。観光客か何かか?


 白いワンピースに、薄いベージュのカーディガン。ふわりと風に揺れる淡い布地のせいか、夕方の街の中でもどこか浮いて見えた。


 年齢は俺と同い年くらいだろうか。華奢なのに動きは妙に元気で、軽いステップのたびに白スニーカーがかすかに光を拾っていた。


 その女とぶつかった通行人もスマホを見ながら歩いていた。まぁ、どっちもどっちか。


 女は何か言いながら深々と頭を下げ、また歩き出す。

 

 と思ったら、また別の通行人に肩をぶつけ、同じように謝っている。通行人は戸惑いながら歩き去っていく。


 ……何だ、あれ。

 

 清楚系の見た目なのに挙動がめちゃくちゃだ。ギャップがすごい。



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