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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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19/21

朝の爆弾

 いつも乗っている電車よりも二本早いものに乗れたおかげで、学校に着いたのはいつもよりニ十分ほど早かった。


 教室にはまだ数人しかおらず、朝特有の静けさが漂っていた。窓際の席で読書をしているやつや、机に突っ伏して仮眠を取っているやつ。まだ一日のスイッチが完全に入っていない空気だった。机で突っ伏して寝ているやつに関しては、もう少し家で寝てればいいのにと思ったが、あえて口にする必要はない気がする。


 俺は自分の席に腰を下ろし、リュックから教科書を取り出そうとして、ふと手を止めた。


「......あれ?」


 リュックの中を漁っているとき、見慣れない感触が混じっていた。それは教科書でもノートでもない、布っぽい何か。


 引っ張り出してみると、それは手ぬぐいに丁寧に包まれた、四角い塊だった。


 これはもしや......。


 その塊を机の上にそっと置き、手ぬぐいを広げる。


 その塊の正体は、かつて父親が使っていた弁当箱だった。


 二重重ねのそれを開くと、昨日の肉じゃがが綺麗に詰め直され、その隣にはインゲンのバター炒め、昨夜の残り野菜で作ったらしい和え物まで入っている。色合いも悪くない。というか、めちゃくちゃ美味そうだ。


 完全に不意打ちだった。


 昨日の残り野菜でここまで仕上げられるか。あいつ、俺が思っているより何百倍も器用だな。


 弁当を見下ろしたまま固まっていると、隣の席から声がした。


「......何それ?」


 隣の席に顔を向けると、佐々木が不思議そうにこちらを見ていた。バレー部の朝練終わりなのか、スポーツタオルを肩に掛けていた。


 まずい......。俺がこんなに健康的な弁当を持ってきてるのはあまりにも不自然すぎる。しかも、よりにもよって佐々木に目撃されるとは......。


 俺は普段使わない頭をフル回転させて、悟られないような言葉を必死に探した。


「弁当......だけど」


「え?」


 いや、そりゃそうだろうな......。こんな二重で、しかもこれだけいい香りを漂わせた箱を弁当だと思わないヤツなんていないよな。


 佐々木は一瞬きょとんとしてから、ゆっくり身を乗り出してきた。


「しかも、このにくじゃがとかって手作りだよね......? 誰が作ったの......? 蓮って肉じゃがとか作れたっけ......?」


 佐々木の圧が凄い......。ちょっと怖くも感じる圧だ。


「それはだな......」


「ねぇ蓮、もしかして彼女とかできた......?」


 全く俺の話を聞こうとしない佐々木。即座に核心を突いてくるあたり、やはりこいつは鋭い。


 俺は冷静さを取り戻すために、心の中で暗示をかける。


「違うな」


「え~? じゃあ何よ?」


 佐々木は疑いの目を一ミリも緩めず、じっと俺を見つめてくる。

 この距離、この圧。下手なことを言えば即座に墓穴を掘るやつだ。ここは、事実と嘘を混ぜ合わせて何とか切り抜けよう......。


「......居候だ」


「......え?」


 完全に予想外だったらしく、佐々木の表情が一瞬でフリーズした。


「い、いそうろう......?」


「あぁ」


「え、ちょっと待って。居候って、どういう意味の居候?」


「そのままの意味だが」


 佐々木は思わず声を上げかけて、慌てて口元を押さえた。

 まだ教室には人が少ないとはいえ、さすがにこれ以上注目を集めるのはマズい。


「つまり、蓮の家に誰か住んでて、その人が弁当作ってくれたってこと?」


「まぁ......そうなるな」


「......女?」


 鋭すぎる。


「......まぁ、女だな」


 そう俺が答えると、佐々木の目が一段階見開かれた。


「ねぇ、それさ、ほぼ彼女じゃん」


「違う」


「いやいやいや! 一人暮らしの高校生男子の家に女が居候してて、それで手作り弁当作ってくれるとか、どう考えてもアウトでしょ!」


 珍しく佐々木の声がデカい。頼むから抑えてくれよ......。


「誤解だ。居候してるのは従妹だよ」


「え?」


 佐々木の声が一拍遅れて間の抜けた音になった。


「......従妹?」


「あぁ。父方の姉が病気で倒れてな。それで、その娘が今俺の家に泊まってるんだよ」


 我ながら無難な設定だと思う。血縁関係があれば、同居も弁当もギリギリ説明がつく。

 まぁ実際、父親には兄弟はいないから従妹なんて居ないんだけどな。


 なんか喋ってて胸が痛くなってきた。


「ふーん......」


 佐々木は腕を組み、俺の顔をじっと観察する。その目は、完全に審査をしているものだった。


「じゃあさ、その従妹さん、何歳?」


 マズい。その設定は全く考えていなかった......。


 俺は頭の中で咄嗟に出てきた数字を口にした。


「十九歳」


「はい怪しい」


 即答だった。


「いや怪しくはないだろ!」


「怪しいよ! 十九歳の従妹が突然居候なんて! 十九なんて、十分一人で生活できる年齢でしょ!? それがなに? 一つ屋根の下で過ごして、手作り弁当持たせてくるとか、昼ドラの導入じゃん!」


 そんなジャンルのドラマは知らん。

 

 佐々木に指摘されて致命的なミスに気が付いた。十九歳はもう十分自立して生活できるレベルだということに......。


「料理好きなんだよ。世話焼きで」


「もっと怪しくなったんだけど」


 取り戻そうとしてかえって逆効果だったらしい。


 佐々木は机に肘をつき、ぐっと顔を近づけてくる。


「ちょっと、その肉じゃが味見させてよ」


「......え」


 想定外の返答に、俺の理解が追いつかなかった。

 

「いや、だからさ。味見」


 佐々木は当然のように言って、俺の弁当を指差す。


「私の料理の腕と比べたいのよ」


「......何と何を比べるんだ?」


「私と、その“従妹さん”」


 言い方に、ほんのわずかに棘があった。


「言っとくけど、私だって料理するからね? 両親が家にいない時とかに作るんだから!」


「へぇ......初耳だな」


「今初めて言ったからね」


 それは知らん。


 そう言って胸を張る佐々木をよそに、俺は弁当へと視線を落とした。


「まぁ、じゃあ昼休みに一口だけな」


「よろしい」


 はぁ......。女子って怖いな......。

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