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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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かなえの手作り料理

「......ありがとな。正直、かなり助かった」


 礼を言うと、理人は軽く笑って、空になったグラスを指で弾いた。


「僕も護符を蓮に渡した手前、半端なことはできないからね」


 理人は少し目線を下に向けながら言った。


「......それ、責任を感じてるってことか?」


「まぁ、そう取ってもらってもいいよ」


 冗談めいた口調だったが、目だけは妙に真剣だった。


「昨日も言ったけど、幽霊が見えることは、時に危険が伴う。だから少なくとも放りっぱなしにはできない」


 俺は無意識のうちに、ポケットの中の護符に触れていた。


「あ、そうだ。これ渡しておくよ」


 そう言いながら理人が取り出したのは、少し黄ばみがかったゲーム機のようなものだった。


「え、何これ......」


「ポケベルだけど?」


「......ポケベル?」


 思わず聞き返すと、理人は当然のような顔で頷いた。


 聞いたことはある代物だが、実物を見るのは初めてだった。たしか、これってもう使えないんじゃなかったっけか。この前ニュースで見た気がする。


「そう。普通にメッセージ送ったりは出来ないけど、これ呪われてるから時々使えたりするんだよ」


「......ちょっと待て」


 俺は反射的にポケベルを持つ手を引っ込めた。


「おい、今サラッと聞き捨てならない単語が混じってた気がするんだが......」


「”呪われてる”、でしょ?」


 理人は悪びれもせず頷いた。


「いや、そこを肯定するな」


「大丈夫大丈夫。危害を加えるタイプの呪いじゃないから」


 こいつ、大丈夫の基準が壊れてやがる。


「これ、オカルト仲間の友人から貰ったモノなんだけど、その友人曰く、ポケベルの元持ち主はカップルでこれを使っていたみたいなんだけど、二人とも交通事故で亡くなっちゃったみたいでさ。その怨念がポケベルに染みついてるんだってさ」


 いや、全然大丈夫じゃないだろ。それに、”怨念”って言っちゃったよ、こいつ.....。


「それで、霊的な空間にいるとこのポケベルが急に起動するんだって」


「いやいや、余裕で怖いわ」


「まぁまぁ、もう一方のポケベルは僕が持ってるから、お守りだと思って持っててよ」


 お守りって......。既にこいつから渡された護符を持っているんだけどな。


「分かったよ。ありがたく受け取っておく」


「ありがとう」


 呆れた様子を見せた俺をよそに、理人はにっこりと笑っていた。


 話も終わり、理人とファミレスを出ようとした瞬間、LINEの通知音が鳴った。


 送り主は、かなえからだった。


『家の掃除完了!!今日は私が晩御飯作るから、お肉と野菜買ってきて~!』


 そのメッセージと共に、昨日とは見違えるほどのリビングの写真を添付して送ってきた。


 数か月ぶりに普通の状態のリビングを見た気がした。かなえは本当に午前中にあのゴミ、いや、汚れた屋敷を掃除したのか......。


 思わず立ち止まった俺を見て、理人が首を傾げる。


「どうしたの?」


「いや......居候が晩飯を作るらしい」


「へぇ。いいじゃん」


「いや、もう完全に立場逆転しちまってんだよな」


 スマホをしまいながらため息をつくと、理人はくすっと笑った。


「なんか、夫婦みたいだね」


「違うわ」



 理人と別れた後、俺は家の最寄り駅近くにあるスーパーマーケットに足を運んでいた。かなえが買ってきてほしい物は、豚肉とジャガイモ、人参やインゲン豆に糸こんにゃくだった。このラインナップだと、今日の晩飯は肉じゃがが濃厚な気がする。手作りの肉じゃが、久々に食べるな。なるべくジャガイモは煮崩れしてるくらいが一番美味しいんだよな。少し濃いめの味付けだと、ご飯が止まらなくなる。まぁ、まだ肉じゃがって確定した訳じゃないんだけど。


 スーパーマーケットで会計を終えた後、店を出て帰りの岐路についていると、ふとケーキ屋に目が留まった。ケーキ屋の立て看板に載っていたショートケーキが輝いて見えるほど美味そうなビジュアルをしていた。


 ケーキの看板を見ていると、ズボンのポケットに入れていたスマホからLINEの通知音が鳴った。


 送り主は......またかなえだ。


『ねぇ! まだ帰ってこないの!? 遅くなると夜ご飯作れないじゃん!』


 なんかめっちゃ急かされてるんだが。


 思わずスマホを見下ろしたまま立ち止まる。


『今スーパーを出たところだ。もうすぐ家に着く』


 そう返してから、もう一度ケーキ屋の看板に視線を戻した。

 ガラスケースの奥で、照明を浴びたショートケーキがやけに存在感を放っている。白いクリームに、つやつやした苺。完璧な見た目だ。


 ......いや、違う。

 俺は別に甘いものが食べたいわけじゃない。たぶん。


 あ、そうだ。今日はかなえが俺の家を掃除してくれてたじゃないか。謝礼としてここのケーキを買っていってやろう。もちろん、俺の分も買うが。


 数秒だけ逡巡した末、俺は踵を返してケーキ屋のドアを開けていた。 



 家に帰ったのは、午後五時くらいだった。


 玄関を開けると、エプロン姿のかなえが腕を組んで仁王立ちしていた。


「遅い!」


「いやいや、高校生にしては十分早い帰りだって! 一般的な高校生は、放課後にダラダラ遊んで八時くらいに帰るもんなんだぜ!?」


「他の家の子は関係ない! 今は家の話をしてるの! それに、今から夜ご飯を作らなきゃいけないのに!」


「いや、作らなきゃいけない、って......別に義務ではないんだぜ......?」


「義務ですー。だって私が作るって言っちゃったもん」


 かなえはそう言って、口を尖らせて、頬を膨らませたままじっと見つめてきた。どうやら飯を作ることが本気で自分の役目だと思っているらしい。


「ほら、言われた材料はちゃんと買ってきたぞ」


 俺はため息を付きながらスーパーの袋を掲げると、かなえの視線が中身に落ちていく。


「じゃがいも、人参、糸こんにゃくにインゲン。よし! 完璧だね! 偉い偉い!」


「急に褒めてくるのやめろよ。調子狂うだろ」


「いいでしょ? ちゃんと出来てるときは褒める主義なの」


 かなえはそう言いながら袋を受け取り、軽い足取りでキッチンへ向かった。さっきまでの仁王立ちはどこへ行ったのか、鼻歌まで聞こえてくる。


「じゃあ蓮くん、そこ立ってないで手洗ってきて。戦力として数えるから」


「もう確定で参加させる流れなんだな……」


「当然でしょ。共同作業だよ、共同作業」


 俺が洗面所で手を洗っている間にも、キッチンからは包丁がまな板に当たる音が規則正しく響いていた。リズムが良すぎて、料理慣れしているのがよく分かる。


「......なぁ」


 キッチンに戻りながら声をかける。


「かなえって、生きてた頃から料理してたのか?」


「んー......どうだったのかな」


 人参を切る手を止めずに、かなえは少しだけ首を傾げた。

 

「やってた気はするんだよね。包丁とかも今みたいにサッと使えてるし。でも、誰と一緒に作ってたとかは覚えてないんだよね」


「そっか」


 まぁ、そりゃ覚えて無いよな。ここの記憶でも残っていればと期待したのだが、そう簡単にはいかないか。


 包丁の音が一瞬だけ止まり、すぐに再開する。


「でもね」


 かなえは続ける。


「こうやって台所に立つのは、嫌じゃない。むしろ......すごく落ち着くかも」


「それなら、まぁ良かった」


 俺はジャガイモの皮を剥きながら答えた。

 剥いた皮がシンクに落ちる音がやけに大きく聞こえた。


「ね、蓮くん」


「ん?」


「今日、何かあった?」


 不意打ちだった。

 さっきまでの軽い空気から一転して、かなえの声は少しだけ真面目だった。


「......どうしてそう思った?」


「なんとなく、顔に出てる」


 嘘だろ。そんな分かりやすいか、俺。


「友達が高校で同好会を作ったんだよ。俺もその同好会に入ることになってだな」


「へぇー! なんの同好会なの?」


「オカルト研究的なやつ」


「オカルト......?」


 かなえは一瞬きょとんとした顔をしてから、次の瞬間ぱっと表情を明るくした。


「え、なにそれ! 楽しそうじゃん!」


「そういう反応すると思ったよ」


「だってさ、幽霊とか怪談とかでしょ? それを真面目に研究するんでしょ?」


 幽霊であるお前がそれを言うか......。その考えで行くと、お前は研究対象になるんだが。


「一応、建前上はな。実態は......まぁ、想像に任せる」


 直哉の顔が脳裏に浮かび、俺は遠い目になる。

 活動計画書に書く内容と、実際のテンションが一致する気はまるでしない。


「まぁ、この同好会に入ろうと思ったのは、かなえもきっかけになってるんだよ」


「......え?」


 かなえは一瞬だけ動きを止めた。


「私?」


「あぁ」


 誤魔化すのも違う気がして、俺は正直に続ける。


「分からないことが多すぎるんだよ。かなえのことも、幽霊って存在のことも。知らないままにして、何となく一緒にいるのは……なんかモヤモヤしてさ」


 言葉にした瞬間、自分でも意外なくらい本音だった。


 かなえは黙ったまま、鍋をかき混ぜる。木べらが鍋肌に当たる音だけが、キッチンに響いた。


「......そっか」


 少しして、かなえが小さく笑った。


「ごめんね。私のせいで面倒なこと増やしちゃって」


「謝らなくていいよ。それに、それほど嫌ってわけでもないし」


 そう言うと、かなえはちらっと俺の方を見る。


「それ、どういう意味?」


「そのまんまだよ。同好会に入って色々知ろうとしたのは、ちゃんと向き合おうと思ったからだ。ここで現実逃避するのは違うと思ってな」


「.....真面目すぎ」


 かなえはそう言いながらも、どこか嬉しそうだった。


「でも、ありがと」


 かなえはそう言って、鍋の中に視線を戻した。

 少しだけ照れくさそうに、木べらで肉じゃがをかき混ぜている。


「少し安心したかも」


「何が?」


「オカルト研究って言って、私が実験台にされるわけじゃなさそうで」


「そんなことするか」


 即答すると、かなえは満足そうに頷いた。


「じゃあさ」


 鍋の火を弱めながら、かなえが言う。


「私も協力するよ」


「協力?」


「同好会。オカルト研究に。現役幽霊の視点、提供します!」


「いや、かなえは幽霊の視点無さ過ぎて協力にならんだろ」


「まぁ、確かに......。まぁ、私に出来ることがあったらいつでも言ってよ!」


 そう言って、かなえはにっと笑った。


 鍋の中で、肉じゃががぐつぐつと音を立てる。

 湯気の向こうで笑うかなえを見ていると、さっきまで感じていた不安が、少しだけ薄れていく。


 オカルト同好会。


 きっと、思っている以上に面倒で、厄介で、危ない道になる可能性もある。


 それでも。

 

「まぁ......そのうち、な」


「えー、今すぐじゃないの?」


「まずは、普通の部活っぽいことからだ」


「つまんないなぁ」


 そう言いながらも、かなえはどこか楽しそうだった。


 野菜の下処理をしているなかで、俺はある疑問をかなえにぶつけた。


「ところでさ、今日って何を作るんだ?」


「え? 肉じゃがだけど」


 おぉ。予想が当たった。なんだか今日はいい日になりそうな気がする。


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