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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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ファミレスのウーロン茶は薄い

 職員室を出た瞬間、直哉は満足そうに大きく伸びをした。


「いやー、まさか本当に顧問決まるとはな!今日は祝杯だ祝杯!」


「祝うのは英語の点数上げてからにしろ」


「うっ......それ言う?」


 鳩尾を決められたようなリアクションで直哉が俺を覗き見ながら言った。

 

 正直、相沢先生が顧問を引き受けてくれるのは意外だった。面倒ごとには首を突っ込まなさそうな印象だったんだけどな。まさか俺の発言で気が変わるなんて。まぁ、直哉の家庭教師という面倒ごとまで引き受けてしまった訳ではあるが。


 一緒に廊下を歩いていた直哉がふと立ち止まった。


「......あ、そうだ。今日これからどうする?」


「すまんが、この後用事がある」


「なに?デート?」


「違うわ」 


「なんだよ、つまんねーなぁ。まぁいいや!明日からは本格的に同好会動かしていくから、ちゃんと休んでおけよ!」


「はいはい」



 昇降口で直哉と別れ、学校に残った俺はスマホを取り出した。


 メッセージの相手は、黒瀬理人。昨日の放課後に会ったときに連絡先も交換しておいていた。


 こいつには色々と聞きたいことがある。主にかなえのことだ。


 俺はLINEを開いて、理人に高校近くのファミレスで落ち合えないか連絡をすると、意外にもすぐに承諾の返信が来た。



 理人は、俺より先に店に着いていた。


 先に注文を済ませていたらしく、理人はスタスタとドリンクバーの方へ向かった。注いでいたのは意外にもオレンジジュース。コーヒーとか飲んでそうなイメージなのに。ドリンクバーの前でジュースを注いでいる姿は、どこにでもいる普通の高校生に見える。少なくとも、オカルトの専門家には見えない。


 俺も手早く注文を済ませて、ドリンクバーで烏龍茶を注いでから席に戻った。


「急に呼び出して悪いな」


「いや、ちょうど暇だったから大丈夫だよ」


 料理が来るまでの微妙な間。俺は、どう切り出すか少しだけ迷ってから口を開いた。


「同好会、設立することになった」


「聞いたよ。相沢先生が顧問なんだって?」


「......もう情報回ってるのか?」


「いや、さっき相沢先生から連絡があってさ、『キテレツな同好会が立ち上げられそうだから、黒瀬も入れば』って勧誘を受けたんだ」


 え、こいつ。何で相沢先生の連絡先を知ってるんだ......?


「......どういう繋がりだよ、それ」


「入学式の時、高校に向かうまでの道中で迷子になっちゃってさ。そこで初めて相沢先生に会ったんだよ」


「......迷子?お前って電車通学だっけ?」


 思わず聞き返してしまった。


「そうだけど」


「まじかよ、高校、駅から一本道だぞ?どうやって迷うんだよ」


「そうなんだけどね。なんか気が付いたら路地の方に入っててさ」


 理人は苦笑いしながら、ストローを口に運ぶ。


「で、途方に暮れてたら、前から歩いてきたのが相沢先生だったんだよ」


 何でそうなるんだよ。相沢先生も方向音痴なのか?


「僕が樫山高校の制服を着てたから気づいたみたい。明らかに高校とは別の方向を進んでたみたいで、声をかけてくれたんだ」


 なるほど。状況は分かったが、まだ腑に落ちない。


「それで連絡先を交換する流れになるか?」


「いや、普通はならないね」


 理人はあっさり認めた。


「相沢先生に声をかけられてから、そのまま一緒に高校に向かったんだよ。その道中で僕がオカルトの話を切り出したら、相沢先生が歴史とオカルトとの繋がりについて話し出してさ。凄く興味深い話だったよ」


 道中でオカルトの話を切り出すあたり、こいつ、頭のねじが何本か外れてやがる。でも、相沢先生がその話に乗っかって歴史の話に繋げるのは意外だな。


「それで、『キミと話していると新しい知見が増えそうだ。また機会を作ってはなそうじゃないか』って。そういって連絡先を交換したんだ」


 どういう流れだよ。そんなフラっと連絡先って交換するものなのか?


「なるほどな。そんで、相沢先生に同好会についてはなんて返したんだよ」


「その同好会には入る予定だって返したよ」


 まぁ、こいつは最初から入るつもりだったから当然か。


「それで、僕を呼び出した理由は?」


 急に話が戻った。俺は手元のウーロン茶を一口飲んで話を切り出そうとした。少し緊張しているのか、口にしたウーロン茶の味が少し薄くてぬるく感じた。


「幽霊の話だ」


 理人の視線が、手元のジュースから静かに俺に向いた。


「ほう。そうなると、昨日何かあったね?」


「あぁ、色々あったよ」


 俺は言葉を選びながら話を続けた。


「下校途中に、女性の幽霊に会った」


「へー、それはラッキーだね。それでどうなったの?」


「その幽霊は、俺の家で居候をしていてだな」


「......はい?」


 突飛な展開に驚いたのか、護符を与えた張本人は顔をポカンとさせた。


「待って待って。今、下校途中から一気に話がワープしなかった?」


「俺もそう思う」


「いや、思うじゃなくて説明してほしいんだけど」


 ストローを咥えたまま、理人はじっと俺を見つめてくる。さっきまでの軽い調子は影を潜め、目だけが妙に冷静だった。


「その幽霊は俺以外には見えていなくてだな」


「いやそこじゃなくて、蓮の家に幽霊が居候することになった経緯だよ!」


 焦った顔をした理人。こいつ、こういうツッコミも出来るんだな。意外だ。


「まぁ、色々あってだな」


「色々って......。まぁ、そこは深く聞かないことにしておくよ......」


 この経緯について話すと長くなりそうだったから、その配慮はとても助かるぞ。


「それでだ、その幽霊は物に触れられるんだよ。ドアも開けるし、スマホも操作できる」


「......ちょっと待って」


 理人が手を挙げて俺を制止させる。


「それ、かなり重要な情報だから一個ずつ確認させて」


 そう言ってから、理人は指を一本立てた。


「まず、女性の幽霊は蓮以外には見えてなかったんだよね?」


「あぁ」


「二つ目に、物理的に物に触れることができると?」


 理人は二本目の指を立てながら訊ねてきた。


「できるな」


「じゃあ三つ目。本人は自分が幽霊だって自覚してた?」


「最初は自覚が無かったらしいが、自分が認知されていないことに気がついて、その可能性があるんじゃないかって程度で自覚はしていたな」


「記憶は?」


「生前のことは覚えていなかった。自分が何で幽霊なのかも分かっていない様子だったな」


 その瞬間、理人の表情がわずかに変わった。


「なるほどね。それは結構珍しいケースかもね」


 俺は珍しいケースの幽霊と遭遇していたらしい。どんなところで運を消費してしまっているんだ、俺は。


「生前に未練があって幽霊になることは多いけど、生前の記憶が無かったり、死因が分からないまま実体を持ってるのは珍しい」


「少なくとも”一般霊”じゃない」


「一般霊?」


「まぁ、ここからはややこしい話になるから、要点だけ押さえてもらったらいいんだけど......」


 おいおい、なんか難しい話が始まろうとしてるぞ......。

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