変人教師の話
同好会の顧問に適任な先生がいないかを考えていると、何かを思い出したのか、直哉が指を鳴らした。
「適任なやついるじゃんか! 相沢先生! 歴史の授業担当してる人!」
いきなり名前を出されて、思考が一瞬停止した。
「......相沢って、相沢真帆先生のことか?」
「そうそう! なんかテキトーなところありそうじゃん! あの人!」
褒めているのか、けなしてるのか。ただ、直哉の言い分も分からなくはない気がした。相沢先生の授業は、分かりにくいことは無いのだが、特別分かりやすい訳でもないイメージだが、初回の授業で先生が言い放った一言は今でも印象に残っている。
一年間の授業要項についてまとめられたプリントを配り終えた後、相沢先生は俺たちにこう言ったのだ。
『歴史なんて勉強しても社会で一ミリも使わない。だから勉強する理由は各々で作って』
衝撃的だった。初回の授業でこんなこと言う先生がいるのかと。
「あの人が同好会の顧問なんて引き受けてくれるのか?」
「そこは説得するんだよ!」
直哉は当たり前のように言うが、その”説得”が一番難しいんだろうが。
「顧問っていっても、名前貸しだけじゃ済まないんだぞ。書類の申請やら、何かあったときの責任やら、色々あるし」
「分かってるって。だからさ、口出ししない代わりに、最低限だけ見てくれればいいですー、みたいな感じで」
それをそのまま口にしたら即却下だろ。
俺はもう一度、相沢先生の姿を思い浮かべる。
プリントを雑に配り、板書も最低限。
少しガサツな部分はあるが、淡々とした口調で、余計なことは言わない。
『勉強する理由は各々で作って』
その言葉は、突き放しているようで、妙に誠実で的を得ている気がした。
強制もしないし、止めもしない、ただ、丸投げするようなニュアンスでもなかった。
「あの人、たぶん説得しても意味ない気がしてきた」
「は? どういうこと?」
「やるかやらないかは、こっちの話を聞いてから決めるタイプだ」
直哉は一瞬ぽかんとした顔をしたあと、にやりと笑った。
「じゃあ尚更いいじゃん」
「え、なにがお前をそう思わせた......?」
「いや、だってちゃんと話を聞いてくれるってことだろ? 土俵に立たせることができたらこっちのもんだろ?」
相変わらず、コイツの自信はどこから出てくるんだ?
まぁ、頭ごなしに否定されるよりはマシか。
「まあ、ダメならダメで諦めて別の先生探せばいいし、聞くだけ聞こうぜ!」
軽い口調だったが、その言葉は珍しく筋が通っていた。
「......放課後な」
俺がそういうと、直哉は満足そうに頷いた。




