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オカルト部を立ち上げた結果、押しかけ幽霊ヒロインとの同居生活が始まりました  作者: 秋川悠


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春のパン祭り

 ゴミの分別を終えると、時計の針は六時半を回っていたが、家を出るにはまだ早かった。ふと、久々に朝飯を家で済ませてみようと考えてみたが、キッチンの方に目を向けると、あぁ、ダメだな。この時間から手を付ける勇気も湧かないほど汚れまくっていた。


 とりあえず、いつものようにコンビニ飯で済ませるかと思った瞬間、浮かれ気味の声が耳に飛び込んできた。


「ねぇねぇ蓮くん…朝ごはんどうする?」


 ある程度リビングが片付いて気分が良いのか、朝からすこぶる元気なかなえが俺に聞いてくる。


 まぁ、せっかくなら二人でなんか食べに行ってもいいかもな。


「外行くか。近くにパン屋があるから、そこ行ってみるか」


「パン屋!? やったーー!!」


 朝の六時半にパン屋で全力ガッツポーズをする幽霊は前例が無いんじゃないか。まぁいいか。元気だし。


 そう決まると、俺は寝癖を直しつつ、洗面所で顔を洗い、高校へ向かう支度を済ませる。


 支度を終えてかなえを呼び、パン屋に向かうために玄関に向かうと、ふとかなえの足が留まった。


「ねぇねぇ、私って外出ても大丈夫かな……? 姿は見られてなくても私に触れたものは現実でも動くわけだし。なんか怪しく見られないかな……」


 昨日まで通行人にタックルしてたやつとは思えない警戒ぶりだな。


「外歩いてるときは誰にも触れないようにすればいいだろ? それに、この時間だったらパン屋もそれほど人はいないだろうし。もし何かトラブったら、俺がなんとか誤魔化すよ」


「本当に……? 私、蓮くんに迷惑かけたらどうしよ……」


「迷惑はもう散々かけられてるし、今更だろ」


「ひどっ!? でも優しいっ!」


 どっちだよ。


 それでも、心なしかかなえの表情が少しだけ引き締まったように見えた。幽霊なりに緊張しているのかもしれない。昨日みたいに堂々としていればいいのに。


「まぁいい。行くぞ」


「りょ、了解!」


 そんなこんなで、俺たちは朝の少しひんやりした空気の中へ踏み出した。



 パン屋までの道中は特に何も起こらず、無事目的地まで到着した。


「気になるパンがあったら俺に言ってくれ。お前の代わりに俺が取るから。あと、席に着くまでは俺はお前に何も話しかけられないから、そこは察してくれ」


「わ、分かった」


 かなえは緊張からか、姿勢がやけに正しい。


 俺はそっと扉を開ける。店内のあたたかい空気と、焼き立てのパンから漂うバターの匂いが一気に押し寄せてきた。


 俺はトングとトレイを手に取り、店内を歩く。

 かなえは俺の斜め後ろあたりでキョロキョロとパンを物色している。


「れ、蓮くん……あれ……!」


 かなえが小さく指差したのは、こんがり焼かれたハムチーズの四角いパン。なるほど。こいつはこういうパンが好みなのか。


 俺はかなえの指差したパンを手早くトングで掴み、トレイに乗せる。


 パンを取って三歩前に進むと、再びかなえがリクエストをしてきた。


「蓮くん、そっちのクリームパンも食べたい」


 はいはい、クリームパンな。


 再びトングを手に取り、クリームパンをトレイに乗せる。


 さてと、俺はその隣にあるクロワッサンを食べるか。


 そのパンを取ろうとしたとき、後ろから奴のささやき声が聞こえてきた。


「蓮くん、そのクロワッサンもお願いします……」


 え、こいつ。この店のパン全部食べようとしてるのか……?


「おい、お前。こんなに取って食えるのか……?」


 思わず俺は小声でかなえに訊ねた。


「大丈夫よ! 朝ごはんは元気の源だし! それに、これから蓮くんの家を掃除するとなると、エネルギーも必要になるし」


 なるほど。それに関しては何も言い返せない。


 俺は渋々クロワッサンをトレイに追加した。


 それから、店内を一周してレジに向かい会計を済ませた。結局かなえは合計五個のパンを注文した。俺はというと、メロンパンを手に取ろうとしたが、それでは栄養が取れないというかなえの指摘を受けて、サラダがふんだんに盛られたパンを選ばされた。


 俺たちは店内のイートインスペースの端っこのテーブル席に腰を下ろした。とはいえ、周りからは俺だけが座っているように見えている。かなえはなるべく行動が周りに見られないよう奥に座らせた。


 周りから怪しまれないよう、お互いに注文したパンを立て続けに口へと放り込んでいくと、かなえがあることを提案してきた。


「外でも蓮くんと会話できる方法思いついたんだけどさ、蓮くんがイヤホン付けてれば怪しまれないんじゃない?」


 なるほど。それだと周りからハンズフリーで会話してるように見えるわけだ。


「それアリだな」


 独り言を言うように、俺はかなえの案に賛同した。



 パンを食べ終えて店を後にし、俺たちは再び家に戻った。時計の針は七時十五分を指していた。もうそろそろ家を出る時間だな。


「じゃあ蓮くん! 学校に行く準備しよっ!」


「お前は学校関係ねぇだろ」


「えへへ、そうだった。まぁ蓮くんが家に帰ってくる頃にはこの家はまともになってると思うから、期待しててね!」


 かなえ曰く、今の家はまともじゃないらしい。


「分かった。楽しみにしてるよ。あっ、そうだ」


 家を出る前に、俺はあるものをかなえに渡すために自室へと戻った。これがあると、今後何かと便利な気がする。


「かなえ、これ」


 リビングに戻って俺がかなえに渡したのは、俺が前まで使っていたスマホだ。


「これがあれば連絡取れるだろ? お前、そんな状態じゃあんまり家から出られない気もするし、何か必要なものとかあったらLINEしてくれよ」


「おぉ! スマホだ~!!」


 かなえは受け取ったスマホを宝物みたいに両手で握り、何故か天高く掲げた。


「お前、スマホでテンション上がりすぎだろ」


「いやいや! これは革命的でしょ!? いつでも連絡取れるし!」


「まぁLINE送るのはいいけどさ、あんまりしょーもないことで送ってくんなよ」


「善処するね!」


 あぁ、これは送ってくるやつだ。


 気を取り直して、俺は鞄を手に取り、玄関へ向かうが、何故かかなえも玄関までついてきた。


「どうした? なんか他に言い残したことあったか?」


「え? いや、見送りしようかと思って」


「いや、学校に行くだけだし」


「いいじゃん、別に。それくらいしてもさ」


「まぁ別に構わんけどさ。じゃあ、行ってきます」


「うん! いってらっしゃい!」


 家を出た後、ふと思った。いつぶりだろうか。誰かに見送られて家を出るのは。


 いつもなら鬱々としていた朝が、今日は少しだけ心地よかった。


「まぁ、悪くないな……」


 そう小さく思いながら、俺は学校へ向けて歩き出した。

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